四年に一度とは言わずに

!~よたみてい書

ツーユー

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。

ざっと軽く頭で計算したところ、時間の余裕はこれくらいだろう。


 私はぼーっとした頭のままベッドから降りて、急いで身支度を始める。

身に着けている寝間着を、乱雑に部屋の床に脱ぎ捨てた。

こんな姿を誰かに見られてしまったら幻滅されるのは必至ひっしだ。

でもそれほどまでに私も必死になんとかしようとしている証拠でもある。


 お洒落を度外視した、適当な動きやすい服を床に置き捨てられている衣類群の中から選び、自分の体にまとわせる。


 私はそのまま洗面所まで移動し、鏡の前に立ち自分の現在の姿を確認した。

予想できていたことだけど、やはり髪の毛がぼさぼさになっている。


 そのまま蛇口をいじって、あったかーいお湯が出るのを待つのを諦めて、つめたーい水で手を濡らす。

本当に冷たい水が私の手を刺激してきて、私の本能が手を引っ込ませようと命令していた。

私の手が水浸しになったら、そのまま自分の跳ねている髪の部分を湿らせていく。

これでよし。

いつものロングヘアーの私の姿が鏡に映っている。

本当はもう少しサラサラに整えたいけれど、贅沢は言ってられない。

妥協しなければ。

早く出発しないといけない。


 私はスマートフォンと財布を愛用の鳥の形をしたバッグに急いでしまいこむ。

そしてバッグを素早く背負ったらすぐに家を出立した。




 呼吸が苦しい。

急いで移動したので、身体が悲鳴を上げている。

でも予定に間に合わなくなって本当に悲鳴を上げることになるよりはましだ。


 家から10分ほどで歩いて到着できるケーキ屋さんが目の前にある。

今日は自分の不注意のおかげで5分でこれた。


 店の中に入る。

店内には他の客の姿が見られない。

私の独占状態だ。


 すぐに、カウンター前で立っている店員のお姉さんに声を掛ける。


「あの、ケーキ一つよろしいでしょうか?」

「いらっしゃいませ。かしこまりました、どちらにしますか?」


 何を選ぶかは決めてある。


「梨のケーキでお願いします」

「はい。ご自分用でしょうか?」

「いえ、友達と一緒に食べるようです」

「ご友人の名前は入れますか?」

「あ、はい。『トリ』でお願いします。あと誕生日プレートもお願いします」

「分かりました。少々お待ちくださいね」


 店員さんがショーケースの中からケーキを一つ取り出す。

そして一旦カウンター奥に持っていく。


 私はその間にスマートフォンを取り出して、液晶画面を数回押した。


「――あ、もしもし? 今からそっちに向かうけど、大丈夫だよね?」


 誕生日会の準備完了。

 私の最後の仕事は、ケーキを無事に送り届けることだ。

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四年に一度とは言わずに !~よたみてい書 @kaitemitayo

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