【緊急ミッション】3分以内に討伐せよ!

燕子花

絶望の強制エンカウント

 僕には三分以内にやらなければならないことがあった。


 彼らを前に、近接用に持ち替えた武器の感触を確かめる。

 速度重視の銃と苦無くない

 相手はそれほど強くなさそうだ。

 問題は、その人数。

 でも……やれないことはない。


 まずは一発。

 サクッと目の前のプレイヤーを経験値にかえて、隠密系スキルを発動。

 集団の中に飛び込んだ。





 完全没入型VRMMORPG「エターナル・マスカレード」。

 自由度が高く、善人はもちろん悪人にも成りきれる。


 僕はいま、〔黎明れいめいの国〕の山道にいた。

 この山を越えると、隣に位置する〔叡智えいちの国〕への近道となる。

 敵が強めでそこそこ難易度の高いフィールドだけど、そのぶん採取できる素材は高品質なものが多く、魔物から得られる戦利品の内容も悪くない。

 〔黎明の国〕から〔叡智の国〕へ行くとき、僕は毎回、好んでこの道を抜けていた。


 異変に気付いたのは、中腹辺りに来たときだった。

 スキル《危機察知》が反応した。

 このスキルは、一定範囲内で使用者のステータスに影響を及ぼすような行動をする存在を知らせてくれる。


 駆けていた足を止め、スキル《気配察知》を発動──しようとしたが、その前に遠くで木々の隙間を走り去る複数の人影を見つけた。


 あれは、プレイヤーだ。

 それも悪人ごっこでもしているのか、敵性プレイヤーになっている。


 敵性プレイヤーとは、罪のないNPCや評判の良いプレイヤーに悪意をもって攻撃するとなれる、悪役をしているプレイヤーたちの標準装備のようなもの。

 敵性プレイヤーは、意図的に注視されるとプレイヤーなら誰にでも視認できる特殊なアイコンに付きまとわれているため、判別は容易だ。


 彼らは慌てているようで、《気配察知》がなくてもその居場所がよくわかる。

 時折こちらを振り返っていることから、僕には気づいているらしい。


 というより、これは……もしかして僕から逃げているのだろうか。

 どうしてだろう。まだ何もしていないのに。


 ところで、僕の職業は狩人だ。

 武器は何でも扱えるけど、右手に苦無を、左手に拳銃を装備して戦うことが多い。

 ただ……近接戦も得意だけど、僕のおもな戦闘スタイルは狙撃銃で遠距離からの一方的なキル。

 木が多少、邪魔だけど……見えてるなら、当てるのはそう難しいことじゃない。


 狙撃銃を装備し、狙いを定めて引き金を引く。

 スキル《消音》のおかげで、発砲音はしない。

 一人、二人と相手の数を減らしていく。


 適度に狙撃しつつ、付かず離れずで追うと、開けた場所に出た。


 そこにあったのは、いくつかのテントと焚き火、そして積み上げられた宝の山。

 さすが、悪役プレイヤー。それっぽいところを拠点にしていた。

 周囲には、僕を見て嘲笑を浮かべる山賊NPCたちと、顔を真っ赤にして怒った様子のプレイヤー、そして青白い表情のプレイヤーたちが集まっていた。

 経験値がいっぱいだ。


 誰から倒そうか品定めしていると、なぜか怒っているプレイヤーが前に出てきた。


「……なんでテメェがここにいる」


 なんで、って……僕から逃げる敵性プレイヤーを追ってきただけなんだけど……

 そもそも僕、隣国に行く途中だったんだよ。

 ……ちょっと寄り道しすぎたかな。

 今日中に城下町まで行きたかったんだけど、このままのんびりしてたら間に合わない?


「おい、聞いてんのか!?」

「ヘラヘラしやがって、不気味なやつめッ」

「だめだろ……ここは最終兵器が来るようなところじゃないだろ……」

「俺たちの安息の地が……」


 なんだか山賊たちが騒々しいけど──まぁいいか。

 今日中に城下町。僕は諦めていない。

 この人たちは五、いや四……


 よし、三分でサクッと殲滅だ!

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