第51話 ミナセ、コメントを拾う。

 〜461さん〜


 2階からヒカリエに入った俺達。近くのエスカレーターを登ろうとしたミナセが舌打ちする。


「ダメじゃん塞がれてる。何この障壁? 邪魔すぎるんだけどぉ」


 ミナセのヤツ、顔はいつも通りだけど目が笑ってない。めちゃくちゃイラついてるな。



〈障壁ばっかだな〉

〈一本道?〉

〈また罠かも〉

〈ヒカリエの中見るのホンマ久しぶり〉

〈ミナセちゃんイラついてるやんけw〉

〈迷うの嫌いだからなぁミナセちゃん〉



 奥を見ると、白いモヤのような魔法障壁が展開されていた……まるでその道を使わせないかのように。ダンジョンのトラップを利用したのか?


「連絡通路と同じ障壁だな。俺達を誘導したいのかも」


 ヒカリエの構造は渋谷駅構内に比べてシンプルだ。普通に考えればフロアを上がるたびに障壁が展開されての戦闘……そんな仕掛けのダンジョンに見える。


「あ、あのエスカレーターには障壁が無いわ」



 アイルが指した先には確かに障壁が無い。隣にいたジークも首を傾げた。


「妙に人為的だな。よくある事なのか?」


「いや、俺がクリアしたダンジョンでは無かったな」


 そう、だからこそ違和感を感じる。ここのボスはよほど頭が回るのか?


〈普通のダンジョンでは起きない現象?〉

〈まずない。1つだけ道を残す意味がない:wotaku〉

〈ほーん。通せんぼする以外の障壁は無いってことか〉

〈はよ先進め〉

〈せっかちなヤツいるなぁ〉



 脳裏にあの鎧武者が映る。



 ……確かに人語を喋るやつもいたくらいだ。ボスがダンジョンに手を加えていてもおかしくは無い。警戒して進む方がいいか。


「全員回復薬はどれくらい持っている?」


 アイル達がカバンから回復薬を取り出す。全員分を合わせて回復薬が5、魔力回復薬が4……トレント戦が続いたからな。結構消費しちまってる。


「ミナセ、戦闘になったら俺に防御上昇、自分に攻撃上昇使ってくれ。ミナセにも戦闘に参加して欲しい」


「オッケー。任せといて♪」


 ミナセがクルクルとロッドを回す。準備の時に見たが、ミナセ自体もかなりの戦闘スキルを持っている。ここからは戦闘メイン。魔力を温存しつつボスに臨むには前衛を増やす方がいい。


〈ヤバ。ミナセちゃん戦うの?〉

〈フツーに強い〉

〈楽しみやね〉

〈それよりもジークリードの尻を……〉

〈女ヲタさんそればっかなんだ!〉

〈うるせぇッ!!!!!!!!〉

〈怖いんだ!?〉



「ジークは波動斬使うの極力温存してくれ。アイルも。使うなら低級魔法だけにな」


「ああ」

「分かったわ」


「よし。上に進むか」




◇◇◇


 〜ミナセ〜


「よっと!」


「ギアッ!?」


 回転させたロッドをトレントへ叩き付ける。強化魔法を受けた一撃。それがトレントをボールみたいに吹き飛ばした。


「後は俺に任せろ!」


 鎧さんが駆け抜けて行く。そのまま飛び上がってトレントにショートソードを叩き付けると、全身の力を使ってトレントをベキベキと叩き折ってしまう。すご……強化魔法も使って無いのにあそこまで力出せるんだ。


〈脳筋www〉

〈筋力高すぎやろw〉

〈筋力はそれほど高くない。力の使い方が上手いだけ:wotaku〉

〈ウォタクさんなんで知ってるんや?〉

〈461さんの配信見てるからじゃない?〉



氷結魔法フロスト!」


「ギッ!?」


 アイルちゃんの声に振り返ると、放った氷結魔法がトレントをビシリと凍らせている所だった。カズ君……ジークが疾風のようにその懐へと飛び込み、愛剣バルムンクで一閃すると、トレントは粉々に砕け散ってしまう。


〈尻!!!〉

〈女ヲタさん興奮しすぎワロタw〉

〈アイルちゃん可愛いんだ!〉

〈成長したなぁ……〉

〈見守って来て良かった……〉

〈天王洲アイル見守りおじさんワラワラで草〉


 うん、流石ジークリード。連戦が続いても腕は落ちないね。


「はぁはぁ……こ、これで5階。やっと半分ね……」


 アイルちゃんが杖を付く。さすがに体力がキツイかな。あの子1番経験浅いし。鎧さんもアイルちゃんのこと気にしてる。一旦休憩かな?


「休憩にしよう。ジーク、モンスター来ないように見張ってて貰っていいか?」


「分かった。ミナセも休んでいろ」


 ふふっ。やっぱりカズ君は優しいなぁ。



 それじゃあ私は配信状況の確認しよ。スマホを開いて配信状況を確認……っと。



 ……マジ?



 同接50万人!? 久々じゃん!


 でも、461さんとアイルちゃんに高難度ダンジョンの渋谷……これだけ条件が揃ってたらそうなるか。



「ちょっとヨロイさん、何やってるのよ?」


「いや、この自販機まだジュース入ってるかと思ってよ。喉乾いてさぁ」


「はぁ? 12年前のジュース飲もうとするとかやめてよね。私、水筒持って来たから──」



〈wwwwwww〉

〈何wwwやってんだよww〉

〈お腹壊すんだ!〉

〈461さんなら大丈夫ちゃうか?〉

〈モンスター狩って食べてそうw〉



 ……こう見ると全然凄そうに見えないけど。人は見かけに寄らないねぇ。



 そうだ。ちょっとコメント設定変えておかないとな。全部拾うと視界遮られてヤバイから……筆記魔法ワーダイトの設定を流れるモードから吹き出しモードに変えて……。


 設定を変えると、今まで視界の右から左へ流れていたコメントが、吹き出し状になって視界の右側に現れる。小さな吹き出しが上に流れていく。これで視界はマシになるかな。


 そういえばアイルちゃんは普段どんな設定にしてるんだろう? 配信者によってコメント設定はそれぞれだし、ちゃんと聞いたことなかったな。



 ……ん?



 アイルちゃんの配信とリンクしてる影響で、あの子のコメントが視界に入る。そこに気になるコメントがあった。


 「wotaku」……? ID晒してる? なんで?


 wotakuって、あのダンジョン攻略情報サイトを作った「ウォタク」って人のことだよね? そういえば、アイルちゃん達の配信にコメントしてるって言ってたっけ。


 ……。


 wotakuのコメントを拾ってみる。そのアカウントは、連絡通路の辺りから変なコメントをしていた。



 ──渋谷には「人喰い松」という都市伝説があり──。


 人喰い松? 都市伝説? 意味分かんない。なんで関係無い話をしてるんだろ?


 あ。


 そういえばトレント達……「松」の形してた。じゃあ鎧さんの言ってた武者も? 何か渋谷と関係あるの? でも、それがなんでダンジョンと……。



 そう考えた矢先、急に変な声が聞こえた。



「おぉなほありきやなんじのもてるものわれにおこせ!!」



「キャア!?」



 声がしたと思った瞬間、疾風のように何かが通り過ぎる。それが、アイルちゃんの横をすり抜け、フロアの中央にピタリと止まった。


 それは、黒い着物のような格好をしている男だった。それに腰の刀……アイツも鎧さんと戦ったヤツと同じ?


「あー!?」


 ゴソゴソとカバンを漁るアイルちゃん。彼女は真っ青な顔で叫んだ。



「無い!? 私の回復アイテム!」



 回復アイテムが無い?



 黒い男を見ると男は回復アイテムのビンを数本持っていた。


〈速すぎワロタ〉

〈てか何したん?〉

〈恐らく「盗む」スキル:wotaku〉

〈盗賊系かぁ〉

〈着物みたいの着てるんだ!江戸なんだ!〉

〈アレは平安くらいの服:wotaku〉

〈そうやぞ!ニワカは黙っとれ!〉

〈酷いんだ!〉

〈また和風キャラかぁ〉

〈どうなってんのマジで〉



 黒い男がビンを大地へ叩き付ける。ガシャンという音と共にビンが砕けて、青い液体が周囲に飛び散った。


「大事な回復アイテムに何すんのよ!!」


 怒るアイルちゃんに向かって、黒い盗賊は大袈裟な仕草で両手を開いた。


「かくのごときものにたよりおりてしのなかにかつろをみいだしてみせよ!」



「ムキーー!!! 何言ってるか分かんないけどムッカつくわねー!!」



 杖を構えるアイルちゃん。それを鎧さんが手で制す。急に子犬みたいな表情になったアイルちゃんはウルウルした瞳で鎧さんを見上げた。


「ただでさえ魔力回復薬無くなったんだ。アイルはボス戦まで温存しとけ」


「う、分かったわよぉ」


「ミナセも温存だ。アイルと待機してくれ」


「分かりましたよ〜!」


 あの盗賊……これが狙いで回復薬壊したな。馬鹿そうなのにムカつくなぁ。


「鎧! 俺が先行する!」


「波動斬は温存しろよ!」


「分かっている!!」


 ジークリードが盗賊に向かってフロアを駆け抜けた。




―――――――――――

 あとがき。


 次回、ジークリード対盗賊戦です。

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