第50話 461さん、美少女配信者に慕われる。

 〜天王洲アイル〜


 ──461さんと武者の戦いが決着した頃。


〈トレントウゼェェェェ!〉

〈数が多いんだ!〉

〈針みたいなヤツ伸ばすのめんどくせぇよな〉

〈当たったらヤバそう〉

〈アイルちゃんが凍らせて対処してたから大丈夫やろ〉

〈1体倒すと1体現れるから数減らん〉

〈罠感あるなぁ〉



 さっきから1体倒しても別のヤツが現れる。一気に倒さないと決着付かないんじゃないのこれ。



 ……なら、アレで決めてやるわ!



 杖を構えて魔力を込める。すると、魔力と一緒に冷気が私の周囲に溢れ出した。



氷結晶魔法クリスタルバースト!!」



 地面にクリスタルが直撃し、周囲が凍って行く。パキパキという音と共に、10体近く現れたトレント達が凍り付いた。


「よし! 天王洲は下がれ! ミナセは攻撃強化を!」


「おっけ〜♪ 物理攻撃上昇魔法インクリズ・アタック!」


 ジークが剣を構えて私達の前を高速で通り過ぎる。それに合わせるようにミナセさんがロッドをかざすと、高速で移動していたジークの体がポワリと青く光った。


「よ、よくあの速度に、合わせられるわね……」


「そりゃあ相棒だしぃ? いっぱい練習したからね!」


 


波動斬はどうざん!!」



「ギギン!?」

「ギィア!?」

「ギッ!?」

「ギギィィ……」


 攻撃強化の力で風と電撃が入り混じった刃が巨大になる。それが凍り付いたトレント達を木っ端微塵に消し飛ばした。すご……氷らせた影響もあるけど、ミナセさんとジークの力を合わせるとこんなに威力が出せるんだ。


〈強えぇぇ!!〉

〈10体斬り!!〉

〈ミナセちゃんの魔法すごいんだ!〉

〈は? アイルちゃんの魔法で突破できただろうが〉

〈ジークリードさんつよつよ〉

〈あれ?尻が……さんいない?〉

〈461さんの方見に行ってるんちゃう?〉

〈てかあんなトレントいたっけ?〉

〈なんか松?みたい〉

〈異世界産のダンジョンに松なんかある訳ないやろ〉

〈渋谷には人喰い松の都市伝説がある。関係あるかも:wotaku〉

〈ウォタクニキ来たw〉

〈都市伝説?〉

〈信じるか信じないかはお前次第です〉

〈モノマネウザ〉



 辺りのトレントの気配が無くなる。魔法障壁の方へ向かおうとすると、ミナセさんに腕を掴まれた。ビックリしてミナセさんの方を見ると、いつの間にか私のスマホをヒラヒラと振っていた。


「みんな〜一旦配信切るね。すぐ再開するからちょっと待ってて♪」


〈うぃ〉

〈おk〉

〈罠あったしな〉

〈ミナセちゃん可愛いんだ!〉

〈待ってる〉


 ミナセさんにスマホを差し出され、配信を中断する。ドローンの赤いランプが消えたのを確認すると、ミナセさんは私の顔を見て笑った。


「あ、ありがとうミナセさん……」


「ううん。それだけ大事なのって素敵じゃん?」


 うぅ……配信者失格よね……でも、今だけ……! 今だけ許してみんな……!


「ヨロイさん!!」


 ショートソードをしまっているヨロイさんに向かって走る。全力で走ってフリューテッドアーマーに抱き付いた。


「うわっ!? なんだよアイル!?」


「何だよって何よ!! いきなり閉じ込められたら心配するじゃない……っ!!」


 涙が出て来る……おかしいよ。ヨロイさんは強いから大丈夫なのに。私がいなくても大丈夫だって分かってるのに……っ! いなくなったらって思うと……っ!


「お、おぉ……泣くなって。そんなに俺危なかったか?」


「危なくないけど! ヨロイさんなら大丈夫だって分かってるけど……っ! 私も、そっちにいたかったの……っ!」


 ヨロイさんに抱き付いたまま、胸のアーマーに顔を埋める。こんな顔、恥ずかしくて見せられない。離せない……離したくない……。


「うぅ〜ん」


 困ったような声を出した後、ヨロイさんが私の頭に手を置いた。頭を撫でる感触で安心して余計に涙が溢れて来る。


「先行して悪かった。次からは気を付ける」


「うん……約束してよね」


「あ、あぁ。分かったって」


「相方が急にピンチになって気が動転しちゃったんだよ。ね? アイルちゃん?」


 ミナセさんの声が聞こえる。私の味方をしてくれてるって分かる。ミナセさん、この前から私にすごく優しい。気にかけてくれるし、配信者としてもフォローしてくれるし……。


「動揺していた割には戦闘時の判断は的確だったな」


「うっさいジーク!!」


「お、俺は褒めたつもりだったのだが……」


「分かってないなぁ。『割には』っていうのが余計だよね〜」


「何!? そうか……う、気を付ける」


 後ろでジークとミナセさんの声が聞こえてる。恥ずかしくてジークに当たっちゃったけど、私を褒めてくれたのは……分かった。


 ヨロイさんの手が私の頭をポンポン叩く。それが何だか気持ちいい。


「最後の氷結晶魔法見てたぜ? ジークが言ってたのも間違いじゃないな。俺も良い判断だったと思う」


「うん……ありがと」


「な? だからもう泣くな」


「そだよ〜。みんなアイルちゃんの配信楽しみに待ってるよ♪」


「……行こう天王洲」



 ヨロイさんも私のこと見てくれてる。ミナセさんとジークも私のこと気にかけてくれる。


 ……私、このメンバー好きかも。


 ヨロイさんから離れて、ローブの袖で涙を拭う。昔のこと思い出して、大事な誰かがいなくなると思うと冷静じゃなくなっちゃう……いつまでもヨロイさんにしがみついてちゃいけない。私もしっかりみんなを支えなきゃ。


「ごめんね。ありがとう」


 私の配信を楽しみにしてくれてる人達がいる。今の私はこのチームのメンバーで、配信者。プロなんだ。もう、こんな情けない姿は見せない。みんなを信じて、やれることをやる。


 ヨロイさんが私を見て頷いた。何だか顔は見えないけど、その顔は微笑んでるように見えた。



「よっし! 先に進もうぜ!」



「うん!」





―――――――――――

 あとがき。


 461さん達はヒカリエへ。そしてミナセがコメントに違和感を……?


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