Time Flies

常陸乃ひかる

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 KAC2024参加者には、三分以内にやらなければならないことがあった。

 ユーザーの名は、常盤野ひたちのぴかる。


 参考のために――

『KAC』とは某小説投稿サイトのアニバーサリーに行われるキャンペーンのひとつである。その内容は、数日おきに出されたお題に沿って、期間内に涙あり笑いありの文章を築いてゆく、自分を追いこむ系の成長プログラムである。

 もう少し詳しく説明すると、運営からの『このくらい書けるよね?』という圧力のもと、どこまでも酷使されるユーザーが神経を衰弱させたり、時には不眠に、時には血尿に悩まされたりする地獄の季節である。

 一方で運営が、『コイツ使えない』という判断基準としても使用するのがKACだ。言わばふるいにかける役割を果たしている。

 

 噂話もほどほどに、ぴかるは今年も文才を見せつけようと意気込み、この小レースへの参加を決意したのだが、プロットにプロットを重ね――やれ困った。

 現在、2024年3月4日 午前11:56である。

 お題が出されてから五日間の猶予があったというのに、まるで筆が進んでおらず、もう頭が割れそうだった。

 仮に一時間で掌編を完成させるなら可能性はあるが、三分で物語を完成させた事例なんて聞いたことがない。三分あれば、カップラーメンが超加工食品であり、どれだけ体に悪いかを一考することができるし、はたまたレモン百八十秒分のビタミンCを摂取した妄想で、唾液を滴らせることもできるではないか。もし三分で物語を完成させられる奴が存在するのならば、それは人間ではなく機械だ。


 【答:AIに小説を書かせる】


 ぴかるの頭が、ぴらめいた。

 これなら一分で小説が完成するし、おつりもくる。

 ぴかるは勝者の笑みを浮かべながら、文章生成AIのアカウントを作っていなかったことを思い出した。確かいつもの検索サイトのアカウントを使ってログイ――


 フローに入った頭を切り裂いたのは、一分進んだ壁掛時計の正午の鐘だった。

「あぁん……!」

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