3分で魔王城から脱出しろと無理難題を押し付けられる勇者

3分で脱出しろ！

　勇者には三分以内にやらなければならないことがあった。

　「ハァ……ハァ……ついにやったぞ――ってなんだこれは？」

　魔王城の最上階、玉座の間にて人類の長年の宿敵である魔王を討ち倒した俺。

　しかし勝利の余韻に浸る間も無く視界の上部にある黒い文字が表示される。

『3分以内に魔王城から脱出しろ』という文字と『3：00』という数字。

　そもそも視界に映るはずのない文字が出たことにも困惑するが、さらにその内容が謎のミッションと数字の表示だったから余計に混乱する。

　戸惑っていると数字が『2：59』、『2：58』と減っていく、間違いないこれはカウントダウンだ。

「でもなんで――ってえ？　地震？」

　突如として大きな音とともに揺れる床、いや城全体が揺れているのか。

　そして天井より降ってくる砂埃。

「崩れるっていうのかよ！」

　なぞのミッションの理由がわかったぞ、3分以内に脱出しないと魔王城が崩壊するってことだ。

　それはきっと魔王との戦闘のせい、大規模な魔法をやつが何度も放っていたから多分それだ。

　呑気にしていられない、急いで玉座の間から出て外へ向かわないと。

「ハァ、ハァ……なんで崩れるんだよ。魔王が自らここを戦地として選んで、自信満々に魔法を見せつけたんだろ？　ならそれで崩れる城じゃだめだろ……違法建築だ！」

　走りながら文句が出てくる。

　地上10階にもなる広大な魔王城から3分以内で脱出しないといけないんだ、こんな無理難題はないだろ。

「くそ、天井が落ちてきてる。もっと急がないと」

　カウントダウンの表示は『2：30』、ようやく1つ目の階段に到達したする。

「て、なんで魔物がいるんだよ！」

　下に降りると廊下に赤い鎧を纏って槍を構える魔物、デビルアーマーがいる。

　しかも何故か見た瞬間に襲ってくる。

「くそ！　襲ってくる前にお前も逃げろよ！」

　出会い頭に相手の攻撃を避け、逆に一撃を加えて倒す。

　まさか、まだいるんじゃないだろうな。

「ってそのまさかかよ！」

　その後も廊下には魔王城にいた魔物がそのまま残っており、襲ってくる。

「相手にしてる暇はないんだよ！」

　必死に攻撃を躱して脱出を目指す。

「残り2分、なんだか揺れが大きくなってきた様な気がするな」

　後まだ7階層残っている、急がないと。

　道を覚えていて最短ルートで走るがそれでもギリギリどうかというところだ。

「クソ！　どけどけ！」

　相変わらず道中には魔物。

　攻撃を躱したり、倒したりしながらまだ長いゴールに向かって邁進する。

「ていうか、逆に魔王が勝ってたらどうする気だったんだよ。勝ったはいいが城が崩壊しました、まあいいかってならないだろ！」

　残り4階層、時間は後1分。

　ここで数字が赤くなり、1秒毎に『ピッ、ピッ』と高い音を発する。

「時間がないのはわかってるからこれ以上焦らすなよ！」

　文句をいってもかわらないけれど、イライラは募っていく。

「よし、後2階層、これならいけるぞ！」

　あれから思ったより揺れも酷くなることがなく、魔物は相変わらずだが、順調だ。

　時間も30秒、いけそうだ！

「ハァ……よし、一階にたどり着いたぞ、あとは扉に向かうだけ！」

　流石に体力の限界が近いがやるしかない！

　せっかく魔王に勝ったのに死ぬわけにはいかないんだ！

「よし、ゴールが見えてきたぞ！」

　目の前の開いた大きな扉から薄く光が差す。

　あれを抜ければ外だ！

　残り時間は後10秒――て、え？

　『0：10』という赤い文字が視界いっぱいに大きくなり、警報音も爆音になる。

「ちょ！　見えない、前見えないしうるさいって！」

　なんとか残った視界を頼りにゴールへ飛び込む。

　残り時間はあと3秒、祝福の月光に照らされ、なんとか脱出に成功した。

　そして残り0秒が表示された瞬間――遠くで爆発音が鳴ったのが耳に届いた。

「え？」

　音の方を見るとそこには『勇者、おめでとう！』という文字が天に大きく花開く。

「花……火……？」

　その後も次々と打ち上がる花火。

　綺麗だなと見惚れるが、ふと思い出す。

「あれ、魔王城は？　崩壊してない？」

　そう、魔王城はそこにまだ堂々とそびえ立っている。

「なんだったんだよ……」

　一気に疲れが爆発し、天に向かって呟いた。

　⭐︎以下後書き⭐︎

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