からくり屋敷の階段

高黄森哉

からくり屋敷の階段


 なんだか、空々漠々とした空気感が、私の周りに漂っている。ここが、どこかわからないが、前にも来たことがある気がする。怒りのように真っ白な場所だ。


 この真っ白な空間を歩いていると、まるで影文字のように、じわじわと階段がせりあがってきた。私は、この階段の上に、行かねばならないと思った。ゴールでなく、ゴールではなくて、あそこに目的地がある。


 それにしても、私は、いつかこの階段を上ったことがある気がする。それはいつかはわからない。だが、以前、ここを登るのを失敗した覚えがある。どうして、だったろうか。


 この階段の両側は壁なので、横に踏み外して墜落してしまうことはない。また角度も普通くらいで踏み外すこともない。唯一、段々の角が丸みを帯びているが、問題にするほどではない。なのになぜ。


 その階段は、真っすぐ続いていた。だから、道を間違えることもない。それなのに、目の前の階段はいつの間にか下りに変わっていた。いつの間にかである。斜めから射す光が、階段の一つ一つに影を付ける。いったいなぜ。


 私は、別に回れ右をしたわけじゃない。確かに、上を目指していたはずだ。それなのになぜ、階段は脈絡なく下を向いたのだろう。こんなの理不尽だ。


 記憶を隅から隅まで探すと、海馬にある知識が光った。それはここが、からくり屋敷である、ということだ。つまり、この階段にも仕掛けがあるんじゃないか。そしてそれは、階段というある図形にヒントが隠されている。


 つまり、階段という構造は、中腹に横から点を打ち、九十度回転させたとき、線対称な階段に変化する、と言いたい。


 なるほど、階段がシーソーのように動けば、真っすぐ進めど、登りから下りへ、変化するのだ。その変化がゆっくりで、かつ茫漠とした思考ならば、気が付かないということもあり得るだろう。これが、からくり屋敷の階段の真相ではないだろうか。


 私は、このまま、真っすぐと階段を下った。なぜならば、この先に、目指した場所があるから。先に進むために、真っ白な階段を下る。

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からくり屋敷の階段 高黄森哉 @kamikawa2001

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