第45話 騎士団としての誇り

 銀色の兜を被りながら、ミレイユ様は正面の敵と対峙する。しかし『ナイト』での防御はキイの『ブースト』の前では意味をなさない。

 それなのに彼女はじっと身を固め、その場から一歩も動こうとしない。当然何かしらの考えがあってのことだろうが、真意を探ってしまうと『想像の外からの攻撃』は失敗に終わってしまう。このままミレイユ様を信じて見守るしかないか……。


「皆さんは早く安全な場所へ! ここはボクがなんとかしますから!」


「だけど……!」


「――大丈夫ですよ。だって、ボクたちは全員無事で帰れるんでしょう? ならばここでヤツを足止めしている間に、皆さんは戦闘の準備を……!」


 彼女は一瞬だけこちらへ振り返り、にやりと口角を上げる。

 言うまでもなくイエスマン仲間を信じているからこそとれた行動であり、だからこそ私たちが『万全の状態』でキイに挑めるよう、それまで時間を稼いでくれるわけだからな。


「ありがとうございます……皆さん、ここはひとまず逃げましょう!」


 今とれる最善の行動をとっていくしかない。私たちはギルドの裏口から一目散に逃げる。

 とは言ったものの、猛スピードで移動できるキイから逃げられるのだろうか……? 特にこれといった逃げ場所もないし、ミレイユ様の作戦も全容が掴めない。


 このままではただ問題を先送りにしているだけだ。タイミングを見計らって、こちらからも手を打たねば……。


「ちょいちょい、キイから逃げられるとでも思ってるんですか~? 今は一人で済んでますけど、その気になればアナタ方なんて五秒で全滅できるんですけど……えっ、なんで!?」


 後方から強烈な破裂音がして、逃げながらも思わず振り返ってしまう。見ると、私たちを追おうとしたキイの手首を、銀色の腕ががっしりと掴んでいた。


「――言ったはずです、仲間にはもう指一本触れさせないと」





 ――皆さんはもう、十分な位置まで逃げ切れただろうか?

 コイツの一現性能力ワンオフはおそらく『自身の力を何倍にも増幅させる』というものだろう。こうして羽交い絞めにしている間にも、離れんとあがく力が強まっている。


 だとしたら、町民が病床に伏している理由はなんだ? この力をもって直接暴行を加えられたのだとしたら、家屋が一件も吹き飛んでいないのはおかしい。仮に屋外で犯行に及んだとして、なぜそこまでして我がパーティー……いや、挑発するマネをとる? 『P.R.I.S.M.プリズムだから』では説明不足がすぎるだろう!


「そろそろ離してくれませんかぁ~? キイは別にアナタには興味ないんですよ。あくまでも『獅子座ししざのレオナ』と『リーダー』だけ。それかアナタもさっきのスライム女のように、P.R.I.S.M.の一員に仲間入りしますかぁ~?」


「しないさ。ただ、ボクもいたずらにお前の命を奪いたくはない。確かに暴力で訴えかけるのは、手っ取り早く意見を主張できる方法の一つだ。だが確実に遺恨を残す。お前から受けた苦しみや悲しみが、また別の悲劇を生む!」


 だから『戦い』というものは一向になくならない。互いに我を通したいがあまり、相手も意思を持つ存在であることを忘れてしまう。キイもキイなりの思想や行動原理があって、わざわざ『世界を変えんとする』P.R.I.S.M.に所属しているのだろうから。


「……キイ、お前に聞きたいことがいくつかある。回答次第では、


「ふ~ん、アナタもパーティーを裏切るんですね。やはり強大な力の前では、意志なんて脆く崩れ去るものなのですね~」


 断じてそういうつもりはないのだが……まあいいか。それに、太刀打ちできないほどの強大な力なら、イリーゼパーティーは日頃から翻弄されている。こうして抗える分、コイツの一現性能力はまだ弱いといえる。


「話を続ける。一つ目の質問だ、フウカはどこにいる?」


「な~んだ、アナタってお仲間のことが本当に好きなんですね。心配しなくても大丈夫です、今頃P.R.I.S.M.の本拠地ですやすや寝てますよ。まあ彼女はモンスタアの所属なので、詳しいことは知ったこっちゃないですけど」


「そうか。では二つ目、さっきからお前の言っているP.R.I.S.M.のチームとはなんだ? お前やレオナさんは別チームらしいが、それが何か関係があるのか?」


 さっきの回答からして、フウカは今キイの監視下に置かれていない。なぜかP.R.I.S.M.にはいくつか『チーム』があって、それぞれが敵対関係にある。同じ組織の仲間ではないのか……?


「大アリですよ~。例えばキイは『チーム・レインボウ』、レオナさんなら『チーム・スフィア』……みたいにね。どのチームも『世界を変えたい』という目的の根っこは同じですが、大事なのはそのなんですね~。話すと長くなるんで、説明はここまでにさせてくださいな」


 なるほど……問題を解決する手段がチームで異なるわけか。だからといってキイの、チーム・レインボウのやり方は到底許されないのだが。

 P.R.I.S.M.が世界の『変え方』にこだわる集団だとしても、ここはなんとかして和解に持ち込めないだろうか……。


「できることなら、お前とこうして戦いたくはない。ボクはこの一現性能力を『人を護るため』に使いたいと考えている。それはキイ、お前も例外じゃない。たとえお前がどれだけ凶悪な犯罪を犯したとしても、まずはその罪を認め償うべきだ!」


「そんな施し、今さら!」


 ――それでも遅くないさ。ボクはどんなに悪人であろうとも、同じように泣いて生まれた人間を護る。それが王都に仕え、磨いてきた騎士団としての誇りなのだから。


P.R.I.S.M.キイたちとアナタ方では、絶対に相容れない……うぐっ!?」


 突如抵抗を続けていたキイの力が弱まる。そんな彼女越しに見えたのは、自身の一現性能力でキイをがっちりと拘束する


「まったく。騎士団を抜けた今もついてきてたのか、ファーランド!」


「ええ! 皆さんが戻ってくるまで、このまま足止めしましょう!」

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