日和と凪砂の函館・札幌・小樽・旭川・帯広を1日で巡る北海道弾丸旅行!

北 流亡

日和と凪砂の函館・札幌・小樽・旭川・帯広を1日で巡る北海道弾丸旅行!

 日和ひより凪砂なぎさには三分以内にやらなければならないことがあった。札幌でスープカレーを食べることだ。


『120km先、右折です』


 カーナビが、無機質に告げた。

 車内は、エンジンの音だけが響いていた。


 時計は11時57分を示していた。予定では、札幌に着いているはずの時刻だ。カーナビの示す到着予定時刻は——16時30分。


 雪が、ちらつくように降っていた。路面には薄く雪が乗っていて、点在する凍結路面アイスバーンを隠していた。日和は、からだを強張らせて、おそるおそるハンドルを操作していた。初めての雪道運転だ。


 日和は前のめりの姿勢で、両手で強くハンドルを握っていた。例年に比べて雪は少ないとは聞いてたが、そうとは思えなかった。視界に入る全てが白で覆われていた。

 凪砂はずっと外を眺めていた。景色を楽しんでいるわけではない。それ以外に出来ることが無いからだ。スマートフォンは圏外で、カーラジオも繋がらない。かれこれ一時間ほど、森と平野と森と平野を眺めていた。


 山道を抜けると、また平地が広がっていた。見渡す限りの平地、そして平地。目の届く範囲に街は無い。果てが無いとすら錯覚するほどの長い道路。その先に、また山が見えた。


 こんなはずではなかった。そう日和は思った。おそらく、凪砂もそう思っているだろう。

 計画は念入りに立てた。2人で行きたいところを出し合って、それを全て周るルートを組んだ。何度も何度も話し合った。北海道を1日で周る完璧な計画が出来上がったはずだった。




 8:00 函館着〜朝市で朝食

 9:00 お土産購入

 11:00 札幌着〜ショッピング

 12:00 スープカレー店「奥芝商店」で昼食

 13:00 小樽着〜工芸品店でお土産購入

 15:00 旭川着〜旭山動物園見学

 17:00 帯広着〜豚丼店「いっぴん」で夕食

 19:00 新千歳空港着〜帰路




 いったい、どこで歯車が狂ったのだろうか。函館で海鮮丼とイカ刺しに舌鼓を打ってる時点では、勝利を確信していた。

 日和は法定速度になるようにアクセルを踏んでいた。車。次々と追い抜いていく。函館、室蘭、札幌。何れも北海道のナンバーだ。


『110km先、右折です』


 カーナビは、変わらぬ調子で告げる。時刻は、12時を大きく回っていた。雪は、勢いを増していた。視界はより悪くなり、日和の緊張感はより高くなる。車は確実に目的地に近づいてはいたが、依然として、切り貼りしたような景色ばかりが続いていた。

 凪砂が小さく息を吐いた。空腹を耐えていると日和は察した。凪砂との付き合いは短くない。日和の空腹感も耐え難いほどに強くなっていた。スープカレーへのこだわりは消えていた。もう何でも良いから胃に入れたかった。道。果てしなく続いている。飲食店はおろか、建物のひとつすら見当たらない。


 遠くに、橙色が見えた。日和は、僅かだけアクセルを踏み込む。右側にコンビニが現れた。セイコーマートだ。日和は何も言わずにウインカーを入れた。


 2人とも、豚丼を買った。ホットシェフ——店内調理で作られた、熱々の一品だ。

 蓋を開ける。香ばしい匂いが車内に立ち込める。日和と凪砂はかき込むように食べた。厚切りでいて柔らかい肉が、甘辛いタレで味付けされていた。濃厚、それでいて脂のくどさは無かった。永遠に、米を食べていられる気がした。

 日和は、小さく息を吐いた。あっという間に食べ終えてしまった。ホットコーヒーを一口啜る。雪は変わらず降り続いていた。到着予定時刻は17時30分になっていた。果たして、今日中に札幌に行って、小樽に行って、旭川に行って、帯広に行って、千歳に行けるだろうか。


「ねえ、日和」


 凪砂が、ぽつりと口を開いた。


「また来ようね」


 日和は小さく頷いた。

 目的地を新千歳空港に設定して、ゆっくりと走り出した。

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