タイムリミットは三分

うり北 うりこ

第1話



 和泉には三分以内にやらなければならないことがあった。

 その三分を過ぎれば全てが台無しとまではいかないが、これまでの努力が水の泡だ。

 

 和泉は考える。

 果たして、三分以内に達成することは可能なのか。本当に三分以内にしなければならないのか。


 だが、すぐに考えるのをやめた。三分以内ということは現実逃避をしたとしても変わらない。

 考える間に手を動かすべきだ。コーヒーを口に含むと、パソコンの画面を睨み付け続きを打ち始めた。

 

 カタ、カタカタカタカタカタ……。

 

 無音の部屋にはキーボードの音だけが響く。

 普段は気になるSNSもこの時ばかりはお預けだ。

 やる気を出すために、お気に入りのカップラーメンのお湯も注いである。

 

 三分以内に達成できれば美味しく食べられるし、間に合わなければカップラーメンのためにお湯を沸かしていた自身の愚行を嘆くだろう。

 

 カタカタカタカタカタ……。

 

「あぁ! 何でこんな時に限って誤字るんだよ!!」

 

 変換ミスに苛立ちながらも、瞬きをする時間も惜しいと画面に向かう。

 

 最終日まで、何故手をつけなかったのか。

 とりあえず完成させれば良かった。もう一つ作り上げれば良かったのに……。

 

「くそっ!!」

 

 時計を見れば、残り一分。

 文字数は越えているんだし、このまま投稿するか? という考えが浮かぶが、頭を振ってその考えを打ち消す。

 

「よし、できた!!」

 

 カーソルを合わせ投稿しようとした。

 だが、ここに来て気付く。タグが分からないことに。

 

 慌ててバナーへと飛び、タグを確認すると入力していく。

 

「間に合え……。間に合ってくれ」

 

 願うような気持ちで打ち終わったその時──

 

 ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピピピピ……。

 

 タイマーが無情にも鳴った。

 和泉はKAC2024の最終お題に間に合わなかった。書き上げたにも関わらず。皆勤賞を逃したのだ。

 カップラーメンのお湯さえ用意しなければ……。

 


 そのあとに食べたカップラーメンは、いつもより麺が伸びていて、塩味が効いていた。

 

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