好きな、人が、いる。

 いや、昨日はヤバかった。

 当分ラーメンは見たくねえ。


 まさか、佳奈が煽って来るとは思わんかった。

 

 でも、食いきってやった。

 完食したぜ!


 野菜が富士山見たくなってる超デカどんぶりを店長さんが申し訳なさそうに持ってきた時はビビったけど。


 顔を真っ青にしながら完食した佳奈にもビビったけど。


 うぷうぷ言いながら近づくあたしらから逃げまくるあつしには笑ったけど。


 ちゃんと謝れてよかった。

 笑って許してくれた。


 そんで、気合いが入った。

 ホントにダチってありがてえ。

 店長さんにも大感謝だ。


 門倉、昼は学食ばっかって言ってたな。

 見つかるといいけど。


 いや、絶対見つけたる。



「おお~い、門倉あ~」

「あ、高梨さんこんにちは。……何か具合悪そうだけど大丈夫?」

「気にすんな。前向きな体調不良だ」

「あはは、何それ! とりあえずどこか座る?」

「助かる」


 こういうとこ、なんだよな。

 門倉のいいところ。


 気遣いができて。

 困ってそうな人間をほっとかない。

 

 そうだ。

 あたしも、いっつも優しくしてもらってた。


 傘とタオルを貸してくれた、あの日から。


 ナンパされて困ってたあん時も。

 学校で会った時も。


 コイツはずっと、こうだった。

 

「あのさ。あっちに行くのっていつだっけ?」

「一月後、終業式の日だよ。どうして?」

「見送りにいってもいいか? それに転校の事、あたしちゃんと聞いてなかっただろ?」

「あー……ごめん。言わなきゃ、とは思ってたんだけど……言い出しづらくって。見送り来てくれるのうれしいかも」


 わかるよ。


 いや。

 あたしは違うか。


「おっきな旗振って見送るとこ、撮れ高期待できそうだしな!」

「撮るのかーい」


 門倉の口から聞かなきゃ、転校はただの噂。

 そう思いたかっただけなのかもしれねえ。 


「寂しく……なるな」

「そうなんだ」

「あったり前だろ? あたしらダチなんだから」

「……そう、だね。友達、が遠くに行くのって寂しいよね」


 ダチって言った瞬間。

 門倉が、友達って言った瞬間。


 こめかみがズキズキした。

 胸の奥がかゆくなった。


 何だこれ。


「あーあ。子猫を見っけたら、これからどうすりゃいいんだよ」

「あ、その時はLINEしてよ。新幹線でタオル持っていくから。ナンパされて困ってる時もね。連絡先、交換してくれる?」

「マジか! 言ったからには絶対来いよな!」


 目の前に差し出されたスマホに。

 門倉の言葉に。

 

 顔が熱い。

 体が熱い。


 門倉の事を好きかって聞かれたら、わかんねえ。

 でも、こんなに嬉しい。


 だけど。その前に。


 言いたくないけど。

 答えを聞くのが怖いけど。


「そういや、さ。彼女、いるんだっけ? いたら連絡先交換とかダメだろ? 遠距離恋愛とか、大変そだな。あたしは彼ピいねえからよくわからんけどさ」


 バカか。

 何でどさくさに彼氏いませんアピしてんだ。


 思わず下を向いた。

 目を閉じる。


 期待すんな。

 期待すんな!


 こんな優しいイケメンに彼女がいない訳、ねえだろうが!


「……好きな人はいるけど、彼女はいないよ。高梨さんが彼氏いないのは意外! モテるでしょ」

「嫌味か!」


 肩のあたりがぞわぞわした。

 血の気が引いていく。


 彼女はいない。

 好きな人がいる。









 

 彼女、は、いない。

 好きな、人が、いる。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る