雨を見ると、あの日の事をやたらと思い出す。




 草むらに隠れてた、びしょ濡れの子猫。

 やっとの事で捕まえたあたし。

 傘とタオルを差し出して、駆けてった門倉かどくら




 あん時の雨は、全然イヤじゃなかった。

 梅雨だったから寒くなかったってのもある。

 

 だけど。


 今日の雨は冷えてしんどい。


 冬の窓側の席。

 寒い。

 季節は選べ。


 よし覚えた。


 暖房と、外の寒さが混じり合う窓際の席。

 気持ちまで冷え込んできそうだ。


 しかも、だ。

 変な気分だ。

 

 何もしたくない気持ちと、何かしなきゃいけないような気持ちが頭の中でバトってる。すっげえモヤモヤする。

 

 あたし……門倉の転校がそんなにイヤなのか?

 何でだ?


 ホレてんのか?

 いやいやいやいや、ナイナイ。

 ナイナイナイナイ。


 傘とタオル貸してもらって。

 廊下ですれ違ったら挨拶をするようになって。


 ナンパ野郎達に絡まれてる所を割って入られて。

 そっから話もするようになって。


 あん時は正直助かった。

 感謝してる。

 

 だけど、そんだけだ。

 あいつはあたしの事を、バカ話ができる同高おなこうのヤツくらいとしか思ってねえんじゃねえの?


 お互い、そんなもんだ。

 てか、あたしに彼ピができる日はいつなんだ?


 はは、あと一年で卒業だってのにな。

 せつね。


 ……門倉は彼女いそうだよな。

 聞いた事ねえけど。


 キョーミないから。

 ないない。

 

「は、あああああああああああぁぁぁぁ……」 

「あん? どしたゆちか悠千花

「何でもねえよ、アツシ。気にすんな」


 やべ。

 タメ息デカかったか。


「その割にはタメ息すげえな! ……はっは~ん、さては腹減ってんな? 昼メシ、牛屋ぎゅうや行くか! メガマシ食おうぜ!」

「いや、食欲ねえしいいわ。つか、元気のねえ女子に真っ先に牛丼食わせるって選択って何なんだ?」


 いや、敦。元気づけようとしてくれてんのはありがたいけども。


「ゆちかは落ち込んだ時、メシ食えば元気になるじゃねえか」

「そんな時ばっかじゃねえよ! 知れ。女子には女子の悩みってもんがあんだ。まあ、気持ちだけ受け取っとくわ。あんがとな」

「ゆちかが食欲ないってのがやべえ。大丈夫か? 変なもん食ったか? 拾い食いとかしたか?」


 何だとテメエ、こんの野郎。

 

「あたしをそこらのハトポッポみたいに言ってんじゃねえよ!」

「似たようなもんじゃねえの? いっつも腹空かせてっし」

「似てねえわ! カロリー消費の仕方も動画であげてんだろが! テメエの脳みそはそのピアスくれえしかねえのか! ピアスが本体かよ、この銀髪鼻ピ野郎! バーカバーカ!」

「何だと! 食った栄養分全部胸と尻に回してるようなお前に言われたくねーわ、この金髪ハトポッポ女! だいいちお前の『Tok Tok』動画、食いモンばっかりじゃねえか! バーカバーカ!」

「何だとお!」


 好き勝手言いやがって!


「はいはーい、盛り上がってるところに悪いけど。私は誰で教室に何をしに来たのでしょう~」


 げ。

 センセ―来ちまったじゃねえか!


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