藍色クロスロード

朱宮あめ

第1話


かける!」

 鈴が転がるような声が耳朶を叩き、どくん、と心臓が飛び跳ねた。

 目の前に、会いたくてたまらなかったひとがいる。天使のような顔立ち、小動物を思わせる胡桃色の少し癖のある髪と、優しげに垂れた瞳の少女。

 真冬の星座が瞬く真夜中の交差点に現れたのは、幼なじみの板垣いたがきみどりだった。

「ごめん、待たせたよね」

 真夜中とはいえ、今日は大晦日。周囲には、僕たちのように二年参りへ向かうひとたちでごった返している。

 翠は申し訳なさそうに眉を下げながら、人の波の隙間を縫うように僕のもとへと駆けてきた。

 僕はといえば、翠を見つめたまま、固まっている。

 忙しない雑踏の中にいるはずなのに、僕たちの周りだけ、まるで別次元かのようにやけに音が遠くにある。

「……あれ、どうしたの? 翔」

 固まる僕に、翠は不思議そうに首を傾げている。

 ……信じられない。

「……本当に翠なのか?」

 思わず訊ねると、翠はきょとんとした顔をして、瞬きを繰り返した。

「え、なに? 急に? そんなに私、化粧濃かった?」

 ぺたぺたとほっぺを触る翠を、僕はまじまじと見つめる。

「…………」

 翠がいる。

「ちょっと、そこはそんなことないよって言おうよ、すぐに」

「…………」

 やはり、いる。翠が。僕の幼なじみが、目の前に。

「おーい、翔?」

 ……嘘だ。そんなの有り得ない。

 ……だって。だって、翠は死んだはずなのだ。一ヶ月前に、この交差点で。

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