今さらながら、恋、始めました

 どうしてだろう。俺は今、なぜか主人公補正がかかりまくったユーゴに翻弄されていた。

 ユーゴがキラキラして見える。彼が微笑むと、何かのフィルターがかかったみたいに周囲がぼやけて、彼のことしか見えなくなる。

 これは絶対におかしい。どうして今さら、こんな補正が!?


「ユーゴ……お前、それどうにかしない?」

「え?」


 あ、話が通じてない。俺は言葉を重ねた。


「いや、めっちゃくちゃ、最近のユーゴが主人公補正かかって見えるんだよ。眩しくて目が潰れるから、控えるか何かしてほしいなって」

「……俺、何もしてないけど」

「はぁ!? 嘘だ!」


 不思議そうにこちらを見てくるユーゴすら、かっこよく見える。え、本当に無自覚!?


「なに、俺がかっこよく見えるの?」

「お……おぅ……」


 ずいっと顔を突き出して俺に近づける。あぁっ、イケメン寄りのフツメン顔が眩しいっ! 思わず俺は目を細めて手を視界を遮った。

 俺の大袈裟ともとれる行動をユーゴが笑う。いやいや、俺は本気だぞ!


「ヒューイさ」

「なんだよ」

「もしかして、俺に恋をしてくれてるのかな?」

「は? 恋?」


 俺がキョトンとすると、ユーゴは俺の鼻を軽くつまむ。ふがふがする俺に向けて、嬉しそうに笑った。どういうことだよ!


「嬉しいな。ヒューイが俺をちゃんと意識してくれているって」

「はぁ!? ちゃんと説明してくれよ」


 一人で納得してにやけてるんじゃない、と言えば、ユーゴはそっと鼻から指を放した。何となくヒリヒリする気がする。イケメンな鼻が、尖ったら微妙なバランスが崩れてしまうじゃないか。俺はそっと鼻を撫でてじろっと睨む。

 どんな反応をしても嬉しいらしい。ユーゴはにこにこしている。


「だから、今のヒューイは、俺に恋をしているってことだ」

「具体的に!」

「逆鱗は染まったけど、ヒューイ自身はそういう気分じゃなかっただろう? 今は、そういう気分だってこと」

「俺が鈍いの分かってて、意地悪してる?」


 ユーゴが言っていること、全然分かんない。俺は焦れったくてイラッとした。


「本当に鈍いな。俺はそんなお前が好きなんだけどさ。つまり、ヒューイが俺のことを恋愛対象として、すごく意識しているってことだよ」


 いや、ずっと意識してるぞ? 今さら、そんなこと言われてもな。くく、と笑うユーゴの喉仏が色っぽいな――って違う。しっかりしろ俺。

 主人公補正に惑わされるんじゃない。


「だから、今お前が主人公補正とか勝手に思い込んでるのは……ただの幻想だ」

「えっ?」

「お前の目に、恋っていう名のフィルターがかかってるだけだ。俺がお前を見る時にそういうフィルターがかかるのと同じだ」

「え、そんなのかかってるのか?」


 意外だった。だって、いつもユーゴは理性的だから。アルバートやブライアンみたいに暴走しないし。ジェスローは、俺に対して暴走しないから分かんない。

 先日「好きだった」と告白してきたショーンは、それっぽさすら覚らせてくれなかった。


「もちろんさ。いつ見たって、ヒューイは可愛い。何してもどんな顔をしていたってキラキラして見える」

「えぇー……知らなかった」


 そんなことってあるのか。俺はユーゴから見える自分の姿について、考えたことがなかった。いったいどんな風に映っているんだろうか。


「分かりやすく言えば、ゲーム本編のユーヒューのヒューイを、もっと可愛くした感じ……かな。なんて言うか、あのヒューイよりきゅるんってしてる」

「きゅ……きゅるんっ!?」


 想像できそうだと思ったけど、最後のひと言のせいで全く分からなくなった。ユーゴの表情は大切なものを見つめるかのようで、嘘とかをついているようには見えないし、その視線で見られているとムズムズしてきてしまう。

 それに、やっぱりそういう顔をしていても俺にはキラキラして、見える。こ、これが……恋、なのか!?


「えっと……待たせまくってるけど……俺、恋、始めました……?」

「ふはっ! 良いね。“冷やし中華始めました”みたいで!」

「あっ、馬鹿にしたなっ!?」


 俺は反射的に言い返したけど、つい、笑ってしまう。うん。完敗!

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【BL】逆鱗が導く俺の恋 ~転生先が愛され隠し攻略キャラだったんだけど!?~ 魚野れん @elfhame_Wallen

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