第22話[宿敵との共闘]
◆
目の前に姿を現した赤い竜に対峙する50人の攻撃隊。それぞれが組まれた互いを知らないパーティーを、たまたまシステム上50人で合体させたものだ。決して阿吽の呼吸で戦えるグループとは言えない。
あたりのプレイヤーを確認するに、20人ほどはギルド[御伽集落]のメンバーだ。
彼らは100人規模のギルドだと聞いているので、飛び込めた数の比率が高くてもおかしくはない。ギルドが同じとしてもどれくらい彼ら同士で連携が取れるのだろうか。
エルラドが最初の指示を出す。今は彼の経験による指示に着いていくのが良作だろうな。
「ボスモンスターの攻撃パターンを把握する! まずは全攻撃に対して盾防御、又は受け流しを試してくれ。その程度を見てこちらの攻撃パターンを決める」
このレッドドラゴンは、俺の思い出にあったMMORPGのボスと違うものが当てられている。他のゲームのモンスターを起用したのかもしれないが、レッドドラゴンは数が多すぎてどのレッドドラゴンかわからないな。
・神殿に巣食うレッドドラゴン
防御型のナイトが先陣を切って敵の攻撃を受ける。もちろん俺も盾を構えて、ダメージを受けてみるが爪の攻撃でHPの4分の1ほどを持っていかれた。盾無しで受ければ一撃で死ぬかもしれない。
俺のHPは現在、装備のオプション調整や付加の特化によってHP13254まできていた。
通常のナイトは1レベルにつき10HPが基礎として増えるので、55レベルで体力ステータスに1も振っていないとすると、スキルやバフ込みで推定HP700〜800程度だろう。
同等のダメージを防御力で補うには、盾を構える前提で、物理防御が1万近く必要であると思われる。これは通常55レベルまでのステータスを、力や敏捷に振っていって装備できる汎用高級防具を全身に装備していても届かない数字だ。
ちなみに俺の防御力は3桁台。ダメージを反射するためになるべく下げてあるから、防御力自体はもの凄く柔らかい『豆腐』だ。
「全員一旦距離を取れ! 前衛タンクは2人ずつ交代で、ドラゴンの攻撃を同時にパリィ、受け流すんだ! 体制が崩れたら魔法と遠距離攻撃を一斉射撃!」
エルラドの的確な指示が飛ぶ。確かに2人で攻撃をパリィすればでかいドラゴンでも隙ができる。問題はダメージの受ける量だ。
ポーションを割り続けてるとは言え、1秒に10%程度しか回復しないポーションでHPを維持するには、ダメージを受けずに逃げ回る時間が必要だ。
「うおりゃああっ」
前衛タンクが2人同時の決死のパリィを行う。レッドドラゴンの爪による切り裂き攻撃をすれ違い様に防ぐ。攻撃を弾き返すものの、強い衝撃が地面に走る。
「今だ! 一斉攻撃!」
体制が崩す事に成功する度に、後衛から嵐のような攻撃がドラゴンへ降り注ぐ。
「らららららら!」
変な声で一番デカく叫びながら戦っているウィザードはスウだ。もはやなんだか安心する。
作戦通りタンクが交代でパリィを続けるが、攻撃を10周もしたところで攻撃隊の3分の1程度が倒れ、リスポーンに飛ばされてしまった。その度に減ったタンク同士で2人組を組み直すが、徐々に回復へ逃げる順番のスパンが厳しくなってくる。当然100%までHPを回復している時間など無い。
ドラゴンは60%程度のHP。これはMMOPRGの経験上言えるが、そろそろモンスターの攻撃パターンが変化してきてもおかしくない。
攻撃隊の猛攻が続く。こいつを倒そうという意志を皆から感じて俺もなんだか熱くなってしまい、ありったけのバフアイテムを追加で消費し、攻撃力やHPを底上げした。
「やっぱりか……」
レッドドラゴンが飛び上がる。こう言ったものはパターンだ。ドラゴンが出てくるゲームを100もプレイすれば、大抵の動きはどれかに当てはまるだろう。風の動きからブレス攻撃がくると俺は判断し、物陰を探すが、神殿の空間には柱しか障害物がない。
「おそらく範囲攻撃がくる! それぞれ物陰に走れ!」
エルラドがそう叫んだ時には、レッドドラゴンの口からは赤い炎が空から地面に向かって放たれていた。
俺は幸い柱の影で逃れたが、おそろしい熱風が横を過ぎ去る。こんなの素で当たったら一溜りもないことくらいはわかる。
インターフェースに表示されている攻撃隊の各HPが半壊している事に気づく。残ったのは……10人ちょっとか?
「くっ……さすがに回帰させて1からチャレンジするか……?」
そう言うエルラドの判断は間違っていない。
リスポーンしてボスモンスターと再度戦える状況になるには、ペナルティデバフである『ウエイトマナ』という名の付いたデバフが時間経過で解除されるまで待たなければならない。時間にして5分ほど。要はリスポーンで復活してから5分の間は何もできないという事だ。
「最後までやるっスよ! エルラドさん!」
声を上げたのは長髪のウィザードだ。彼はエルラドと同じ[御伽集落]のギルド名を掲げた……。
・三等星[御伽集落]
懐かしい名前がそこにはあった。MYO(みょー)を始めた頃、初めて組んだパーティーのウィズだったはずだ。あれ以来連絡を取っていないが、御伽集落に入ったのか……。いや、何より今も前線でプレイしていることに喜ぶべきか。
柱の影でブレス攻撃を避けながらエルラドと三等星の会話が飛び交う。
「三等星、お前がいくら火力ウィズとは言え、あと30%ちょっとはある……人数なしで削れるのか?」
「時間を稼ぐ事ができれば可能っス! ここって所でヘルバを使うっスよ」
ヘルバ……[ヘルバースト]の略だ。ウィザードの現状存在する一撃最強の魔法スキルで、獲得条件の難しさ、スキル本の入手難易度の高さから使える者は限られているが威力は化け物級だという。
絶対的ピンチな状況、少人数が生き残っている今、最高にワクワクするチャレンジ……。不謹慎にも心臓が高鳴っていた。
「俺が時間を稼ぎます」
俺はつい、名乗り出ていた。
「君は……ササガワさんか」
「俺を知ってるんですか」
エルラドとまともな会話をするのは、以前ダンジョンの入り口ですれ違った時以来だ。
「当然ですよ。昔よくシルバー平原で殴り合ったでしょう。それにこの前一度話したじゃないですか」
シルバー平原とは、昔プレイしていたブルーストーンオンラインに存在した戦場の名だ。奴にギルドを潰された嫌な思い出が少し蘇る。
「ササガワさんは敵陣営でしたが、知る限りどのMMOPRGでも上位の猛者だっと覚えています。今もきっとそうなのでしょう。その初期装備のように見える[鉄の装備]もきっと理由があって身につけている」
エルラドは思っていたより俺のことを見ていたようだ。こいつは本当に俺と同じで、MMOPRGが好きなんだろう。
「ササガワさん。君はこの残った人数で、あの30%分を削りきれると思いますか?」
俺はつい、ニヤけてしまった。
敵の猛攻の中、MYO最強のギルドを統べる男に攻撃隊の判断を試されているのだから。
他のプレイヤーも全力だ。三等星もヘルバーストを詠唱できるようだが、それだけでは心許ない。おそらくもう一つ火力に上乗せが必要だ。
「俺にはあいつの攻撃から時間を稼ぐ奥の手がある。エルラドさん、あとはあんたが出し惜しみしなければ間違いなく倒せる」
青黒い全身の装備からオーラを放つエルラドの、兜の隙間から見える表情が一瞬何だか嬉しそうに見えた。
「じゃあ、倒すとしますか」
エルラドはそう言って持っていた双剣を仕舞う。
そして新たにエルラドの手に現れた武器は、すらりと長い、かつて見たことないほどに美しい漆黒の両手長剣だった。
「やっぱりあるじゃないか『奥の手』」
「君の煽りに今日は乗っておきますよ、ササガワさん」
なんだか嬉しそうにそう言い放って、エルラドは瞬息で柱の影から飛び出した。
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