第15話 習っていないのに、得体の知れない魔法が使えました


 恵里花が無意識に怪しい厨二病思考に埋没し、スーツケースを撫でている時、その現象は起こった。

 そう、まさに何時の間にかという状態で、スーツケースやリュックサック、ショルダーバックにウエストポーチまでが、何故か2つになっていたのだ。


 どうやら、恵里花は無意識に魔法を使ったらしい。


 ぼんやりしていた恵里花と違って、神官や魔法使い達にオスカー達は、その異様な魔法に驚いていた。

 その為に、彼らは、ただ、黙って、恵里花を見ていた。


 一方の恵里花はというと、まだ思考の海に浸かっていたので、その視線に気が付くことは無かった。


 〔いやだわぁ~…本当に……

 使ったら終わりなんて、当たり前のコトなのに

 なに、恥ずかしいことを考えていたのかしら…


 じゃなくて、早く蜂蜜やお砂糖を溶かす為の

 ワイン樽を確認しないと………〕


 恵里花は自分がやるべきことをようやく思い出し、無意識にスーツケースから手を離して、ワインの空き樽の前に移動する。


 そして、空き樽を覗き込んだ恵里花は、中が綺麗に乾いているのを確認した。

 どうやら、中身を使い終わった後に、洗浄して天日干したらしい。


 〔良かった……綺麗に管理されているから……

 これなら、直ぐに使える状態だわ………〕


 樽の中の状態を見た恵里花は、この中にお湯を入れて、蜂蜜と砂糖を溶かしたいと思った。

 そして、オスカーが光りを作り出し、天井のライトに明かりを灯したことを無意識に思い出した。


 その時には、無自覚で人差し指を空中に伸ばし、恵里花はくるくると指で螺旋を空間に描き…………。

 スイッとそのまま、樽の中に指先を向けていた。


 すると指先から、湯気の立つお湯が溢れ、樽の中に満たされていくのだった。

 恵里花は、自分の指先から溢れるお湯に目を見張った。


 〔なにこれ? えっとぉ~…もしかして…魔法?

 恵里花ってば…チート能力をもらっていたの?


 いや、でも、誰か(神様)に…夢とかで……

 逢ったりとか……無かったはずけど……


 でも…詠唱もしないで使えるって…便利ねぇ~

 《聖女召還》って分類のネット小説

 色々と読んだことあるけど………


 《召還》された者は、本当に…

 チートな能力や《魔力》を持っているのねぇ~


 なんか…嬉しくなっちゃう…うふふ…


 ここって…本当に…剣と魔法の世界なのねぇ…


 って、コトは…《聖女》で《召還》なんだから


 《浄化》とか《治癒》が使えるはず


 良し…このお湯に…《治癒》をイメージして…

 《魔力付与》してみようっと〕


 恵里花は、意識して治癒魔法を付与してみた。

 すると、お湯が柔らかい金色の輝きを放つ。

 それを見た恵里花は、思った通りの魔法が使えたと確信したのだった。

 

 〔うふふ…成功って感じね…

 次は…この魔法で出したお湯に

 蜂蜜と砂糖を溶かしてみましょうか?


 たしか…先に熱いお湯を器に入れて

 後から、お酒を入れる方が

 香りが良いって何かで読んだしね


 蜂蜜とお砂糖を溶かしたお湯に

 こっちの世界のワインを先に入れて…


 最後に…恵里花が持ってきた

 ワインを入れればイイよね


 とりあえず…試してみよう…〕


 恵里花は何も考えずに、厨二病全開の思考で、思いついたことを次々と実行していく。

 いや、深く考えることをこの時、拒否していただけなのだが………。


 恵里花が、スーツケースから蜂蜜と砂糖とワインを、取り出す為に、自分の持ち物の群れに振り返ると………そこには。


 スーツケースもリュックサックもショルダーバックもウェストポーチも、各2つ有ったのだ。 

 それを認識して、呆然と驚いている恵里花に、オスカーがやっとの思いで声を掛ける。


 「姫君………その…貴女が使った魔法は

 何というモノなんですか?」


 オスカーからの問い掛けに、本人の意思を離れて、条件反射のように勝手に口が答える。


 「えっ? 荷物が増えたのは、コピー………

 じゃなくて…複写の魔法です…たぶん?」


 恵里花の言葉に、オスカーは首を傾げながら、ゆっくりとひと言ひと言の言葉を復唱する。


 「ふ・く・しゃの魔法?」


 そんなオスカーの様子に気付く余裕の無い恵里花は、はたから見ると、動揺のカケラもないように見えていた。

 なぜなら、淡々と質問に答えていたから…………。


 「ええ、まったく同じモノを、作り出す魔法よ」


 恵里花の言葉から、そういう魔法があると認識したオスカーは、そこを追求しなかった。

 その代わりに、恵里花の体調を聞く。


 「そうですか……

 それで、魔法を使ってどうでしたか?


 頭痛がする、吐き気がする、目眩がするとか

 そういう症状はありませんか?」


 オスカーの問いかけの意味もわからないまま、恵里花は感じたままを答える。


 「う~ん…そうねぇ……ちょっと目眩したかな?

 あと…カキ氷を食べたときに感じるような……

 キンときた感じが…頭に…しましたね~…」


 小首を傾げて答える恵里花に、オスカーは心配そうな表情で、更に問い掛ける。


 「どこも、なんとも無いんですね」


 そう確認された恵里花は、躊躇(ちゅうちょ)なく答える。

 そして、現実逃避しながら言う。


 「うん…大丈夫よ…ってコトで…

 スーツケースの中にあるモノを

 出したいんだけどぉ~…」


 出しても良いかな?的な言葉に、オスカーはあっさりと答える。


 「どうぞ」


 オスカー達が、複写魔法にソコまで反応しないので恵里花は、自分が習ってもいない魔法が使えたことを、思考の片隅へと追いやった。


 「良し、やってみますか」


 独り言を言いながら恵里花はスーツケースの鍵を外して、ゆっくりと開けたのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る