第3話 ここは、行動あるのみ


 自分が見ているモノに、室内に居る者達の誰ひとりとして、気が付いていないことに、呆然とした後、恵里花は気が付いた。


 〔えっとぉ~…いやだ、もしかしなくても

 すごく不味い状態じゃないの………


 あの神官らしき男性が……

 確か、ここを神殿とか言っていたのに……


 神聖なはずの、この建物の窓の外に

 何で、触手系の化け物?


 って…あっ…うわぁ~…もしかして……

 私達を《召還》したセイとか………


 じゃないわ…現実逃避しても現状は変わらない

 まだ、神殿の窓の外に、居るんだから………


 でも、何故なのかしら? 

 なんかウネウネとした魔物? が


 窓の外に、はっきりと目視できる状態で

 がっつりと居るのにぃ~…なんでなの?

 

 いや、本当に誰も、あの窓の外にいるモノに

 気が付いていないみたいなんだけど……〕


 窓から目が離せなくなってしまった恵里花の視線の先で、蠢く魔物?の触手が神殿の窓に、ピシッとヒビを入れるのを目撃してしまう。


 〔ひぇぇぇぇ~……窓がヒビったぁ~……

 うわぁ~ん……もしも…あの窓を………

 破壊して、アレが室内に侵入されたら…たら…


 この世界の人間と違って

 知識も《力》も無い恵里花達なんて………

 ひとたまりも無いわ


 本気で…冗談じゃ無いわ

 こんな所で死にたくないもの…

 動け、恵里花っ


 パパが言っていたじゃない


 『攻撃は最大の防御、先手必勝』


 って、あの言葉に従うしか無いわ


 叫べ、恵里花


 大和お兄様の………


 『言ったモン勝ち、相手を飲み込め、振り回せ』


 …って、何時か言われた通りに………


 ここは、命令に弱い犬属性を持ってるはずの…

 騎士様にターゲットロックオンよ


 ここが勝負どころよ

 頑張れ、恵里花っ


 立ち上がって、彼らに命令するのよ


 ここは、支配した者勝ちよっ〕


 そう、本能的に震える自分を叱咤して、恵里花は床からググッと立ち上がる。

 その姿は、まるで生まれたての小鹿のように頼りない姿で………。

 そこに集まった騎士達etc.の一部の視線を釘付けにしていた。


 だって、異世界から無理矢理召還した聖女候補を、誰が指導するかを決めなきゃいけないのだから…………。

 誰だって、好みはあるのだ。


 少しでも、好意を持てる聖女候補の導き手になろうと、相手を選ぶ為に、それぞれの好みの容姿などを持つ方向へと視線は注がれていたから…………。

 だから、窓の外や、次々と倒れる《召還》を行った者達へは、彼らの視線は行かなかったのだ。


 恵里花にそんな彼らの事情なと理解(わか)るはずも無かった。

 ただ、もう、ここは自分を助ける為にも………。


 『情けは、人のためならず』


 困っている他人に情けをかければ、何時か廻り廻って自分や子孫に、その恩恵が帰って来るを信じて歩き出す。

 もっとも、この時の恵里花には、そこまで考えて行動できていたわけではなかった。

 ただ、目の前で人が倒れたので、本能的に動いてしまったのだ。


 〔とにかく、地位が高そうで

 命令すれば動いてくれそうな者を……〕


 そう思い、室内で1番豪華に見える(恵里花にとって)、肩止めをつけている騎士の元へと歩き出す。

 勿論、旅行カバンは、とてつもなく重いので、その場に置いたままで………。

 目を付けた騎士の前に立つと、恵里花ははっきりとした意思を込めて、話し掛けた。







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