第44話 2学期と席替え
中学の頃には経験したことのなかった、女子との思い出のある夏休みを終え、新学期を迎えた。
2学期には大きなイベントが控えている。1学期の体育祭と並ぶ重要イベント、文化祭だ。
だけど、実はその前に、もう一つ大事なイベントが待っていた。
そう、それは席替えだ。
1学期は隣の三間坂さんに色々ちょっかいをかけられて、困ったこともあったけど、それ以上に彼女のおかげで楽しかった。
席替えで、一ノ瀬さんの近くの席になれるかもしれないという期待もあるけど、三間坂さんと離れると考えると、なぜか無性に寂しく思えてしまう。
今日はその席替えの日だ。
教室の前の方では、クラス委員が用意したくじが教卓の上に置かれており、前の席の人から順番に引きにいっている。
この席とも、そして三間坂さんの隣も、今日で終わりか……。
「高居君、顔が暗いよ? 一ノ瀬さんと隣同士になれるか不安なのかな? それとも、私と席が離れるのが寂しかったりして~」
「――――!?」
まるで俺の心を見透かしたかのような三間坂さんの言葉に、俺は誰が見てもわかるほどに動揺してしまう。
「え~、なになに、もしかして図星だった?」
「ち、違うよ!」
このままではまずい。俺は思ったことが顔にでやすい。また三間坂さんの術中にはまってしまう。
焦る俺だったが、ラッキーなことに、そこで俺がくじを引く順番が回ってきた。
「あ、くじを引かなきゃ!」
俺は三間坂さんとの会話を打ち切り、教室の前方へと向かう。
三間坂さんと一旦離れられて安心だと思ったが、次にくじを引くのは三間坂さんなので、彼女は俺のすぐ後ろについてくる。
「もしかして、また私の隣の席になれたらな~とか思ってたりして~」
後ろでなにやら色々三間坂さんが囁いてくるが、俺はそれを無視して、教卓に置かれた箱からくじを1枚取ると、すぐには開けずに一旦席に戻る。
くそっ。
三間坂さんのせいで、念を込めてくじを引くのを忘れてしまった。
これではあまりいい席は期待できないかもしれない……。
俺は黒板に目を向けた。そこには、席の場所と対応する数字が書かれている。
正直言えば、席の場所自体はそこまで気にはしていない。真ん中の真ん前とかはさすがにちょっといやだけど、目が特別悪いわけでもないので、そこ以外ならそれほど気にはしない。
心を落ち着かせて、俺はくじを開いた。
俺の席は一番後ろの窓際の席だった。
なかなか気楽な席だ。
一般的には当たりの席だろう。
だけど、本当に重要なのは、俺自身の場所じゃない。問題なのは誰が近くにいるかだ。
……できれば隣がいいが、前や斜めでもいい。
俺は彼女に視線を向けた。
自分でもなぜかわからないが、俺は一ノ瀬さんではなく、三間坂さんに目を向けていた。
「高居君、私の席が気になるの?」
自分のくじと黒板とを見ていた三間坂さんは俺の視線に気づき、またからかうような顔で聞いてくる。
「……そりゃね。ずっと隣同士だったんだし、気にもなるよ。……で、何番だったの?」
「ん~、わりといい席かな~」
三間坂さんは素直に教えてくれない。そうだ、三間坂さんはこういう人なのだ。
「そういう高居君は何番だったの?」
聞いても素直に答えてくれないのに、自分は聞くんだ。
ここで抵抗しても話が進まないので、俺は自分のくじを三間坂さんの方に開いて見せた。
「お! いい席じゃない。当たりの席だね!」
「……そうかもね」
そうだね。一般的には当たりの席なんだろう。
でも、俺にとっては別にそれほど当たりじゃないんだよ。
「だって、私の隣の席なんだから」
「……えっ?」
三間坂さんは、俺に向けて自分のくじを開いて番号を見せていた。
彼女の番号は、俺の隣の席の番号だった。
確かに、俺の引いた席は当たりの席だった。
「またよろしくね、お隣さん」
「……うん。よろしく」
こうして俺と三間坂さんは2学期もまた隣同士となった。
一ノ瀬さんとはまた席が離れてしまったけど、不思議と残念な気持ちよりも、安心した気持ちの方が強かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます