第5話

少佐が闘志満々の戦闘歩兵2個中隊を率いて駐屯地を出発した時に時間を戻す。

すっかりと人気が絶えた村の広場では3人の衛生兵が個人装備武器のイスラエル製サブマシンガンを握りしめて不安げに立っていた。

走って来た軍曹が村民の行方を聞くと、22歳でそばかす顔の東ヨーロッパ出身の女衛生兵が震える指で北の方角を指さした。

軍曹は心細げに自分を見つめている女衛生兵を何とか安心させようと思ったが何も気がきいた事は思いつかなかった。

軍曹は衛生兵たちを連れて村の北側、枯れた川が走っている場所に向かった。

村の家々は全く人気が無かった。

軍曹は村民の逃げ足の速さに舌を巻いた。

枯れた川に面した場所に配備した4人の兵士が軍曹達に気がついた。

40過ぎのインドネシア出身の兵長が苦虫をかみつぶした表情で軍曹に枯れた川をさし示した。

500人余りの村民が着のみ着のままで枯れた川の村側の傾斜を苦労して駆け降り、反対側の傾斜を懸命によじ登って、サバンナの街道に向かって逃げていた。

避難する村民の先頭はすでに遠く、呼び戻すなど、不可能な事だった。


戦い緒戦で軍曹は未熟ながらも銃を扱える自警団兵士40人を失い、民兵の大群相手に手持ちの30人で戦わなければならなくなった。

軍曹達が唖然として逃げる村民を見つめている間にも、村の西側では突撃銃の射撃音に交じって野太い重機関銃の咆哮が時折聞こえてきた。

突如、逃げる村民の列に向かって街道沿いに潜んでいた100人ほどの民兵が射撃を始めた。

民兵は最初に銃を持った自警団兵士達を狙って撃ち倒すと、次いで村民たちを無差別に掃射し始めた。

村民たちの悲鳴と断末魔の叫びが軍曹達にも聞こえてきた。

そばかすの女衛生兵が顔を覆って小さく悲鳴をあげた。

逃げる村民の列の後尾にいた人々が方向を変えて軍曹の方に向かって悲鳴を上げながら逃げて来て、列の先頭の方の村民達は死者と負傷者と悲鳴をまき散らしながら街道を逃げていった。


村に向かって逃げてくる村民が軍曹達の前でバタバタと銃弾に倒れた、最初の銃撃でかろうじて生き残った数人の自警団兵士が民兵たちに応射しているが、慌てているのでそのほとんどの銃弾は無駄弾だった。

身重の女が足を撃たれて倒れ、夫らしい男が妻の腕を掴み、引きずって来た。

夫婦の幼い子供達が泣きながら二人にすがりついた。

銃弾が夫の頭を破裂させ、倒れた夫婦と子供達に銃弾が集中した。

家族全員が銃弾に体を切り裂かれ血まみれの肉塊となって動かなくなった。


軍曹はハンドトーキーで村西側の重機関銃陣地で指揮を執っている伍長を呼び出し、状況を尋ねた。

伍長達が民兵の進出を何とか食い止めている事を確認した軍曹は、自分に何かあった時の指揮を伍長に任せる事と、村の南側と東側の守備兵を西側に呼び寄せて縮小した防御陣地の構築をさせる事を命じた。

軍曹が伍長とやり取りをしている間にも村に向かって逃げてくる村民の数がどんどん減っていった。

射的の的のようにどんどん打ち倒されて、瞬き一つするたびに逃げてくる村民の数が減っていった。

軍曹はインドネシア人兵長に援護射撃をするように命じると、3人の守備兵と3人の衛生兵に枯れた川に降りるように命じた。

兵士達は軍曹が先頭になって枯れた川に駆け降りた。

軍曹は衛生兵達に川の斜面に降りて来た村民を村の内部に収容する事を命じ、守備兵3人を連れて川の斜面をよじ登って、待ち伏せしていた民兵に射撃を開始して、村に逃げてくる村民と何人か生き残っている自警団兵士の収容を始めた。

軍曹達は前進して突撃銃を単射をしながら確実に民兵を撃ち倒していった。

銃撃を逃れた村民達が死に物狂いで走って来ては次々と枯れた川の斜面に身を投げると待ち構えた衛生兵が次々と村民を抱えて村側の斜面に連れて行くと慌ただしく斜面を登らせた。


村側の土手に陣取った兵長も慎重に狙いをつけて射程内の民兵を射殺していった。

軍曹は自らも銃を撃ちながら民兵に向かって射撃をしていた自警団の兵士に近づくと援護するから村に戻れと叫んだ。

自警団兵士が振り向くとそれは先ほど森に向かって斥候に出かけた40代の男だった。

男が軍曹に頷くと、自分の隣で銃を撃っている自警団兵士の肩を叩いて後退する事を告げた。

40代の自警団兵士が後退しながら銃を撃っていたが、足に被弾して仰向けに倒れた。

軍曹が男の襟首を後ろから掴んで引きずりながら川に向かって後退を始めた。

村の方を見ると10数名の逃げおおせた村民が土手に伏せながら不安そうにこちらを見ていた。


40代の自警団兵士は軍曹に引きずられながらも民兵に向けて銃を乱射した。

突如自警団兵士の銃声が止み、自警団兵士を引きずる軍曹の手に重みが増した。

見ると、自警団兵士の胸に数発の銃弾が当たり、目と鼻と口と耳から夥しく出血をして事切れていた。

軍曹と並んで射撃をしていた自警団兵士が死んだ男の顔を見て恐怖の叫びをあげるとパニックを起こしてあさっての方向に逃げだした。

軍曹が呼び止める間もなく自警団兵士はサバンナに走り去った。

軍曹と共に村民と自警団兵士の収容をしていた傭兵が民兵に向けて射撃をしながら軍曹の周りを固めた。

自警団兵士が走り去ったサバンナの方角から悲鳴が聞こえ、自警団兵士が倒れた辺りに向かって振り上げられたナタが、太陽に光をきらきらと反射しながら何本も走って行った。

撃たれ倒れた自警団兵士にナタを振りかざした少年民兵が殺到したのだ。

軍曹は胸の手榴弾を握り、安全ピンを抜いてレバーを弾き飛ばした。

火薬が点火して煙をシュウシュウ噴き出す手榴弾を手にした軍曹は間延びした声で、死人が千人死人が二千人死人が三千人と数えると、自警団兵士に殺到している少年民兵の辺りに高く放り投げた。

煙を引いて飛んでいった手榴弾が少年民兵達の上空5メートルほどで炸裂し、鉄の雨を降らせて彼らを殺害した。


軍曹達は追ってくる民兵を近寄らせないように半円形の方陣を組み、銃を撃ちながら川の方に後退した。

辺りの村民と自警団兵士の殆どを撃ち倒し、標的が軍曹達だけになった民兵達が銃撃を軍曹達に集中させながら一斉に突撃してきた。

川の斜面をすべり降りた軍曹は左右の兵士の肩を叩いて拳を突き出した。

兵士達は一斉に手榴弾を取り出し、軍曹を見た。

軍曹が自分の手榴弾を掴んでピンを抜き安全レバーを飛ばすと、兵士達も一斉にそれに倣った。

軍曹は人差し指を上にあげて手榴弾を高く投げろと言う意味の仕草をしながら、また死人が千人死人が二千人と数えだした。

手榴弾は発火してから爆発するまで5~6秒かかる。

間延びした声でカウントをした後に投げるとタイミング良く敵の頭上で爆発するのだ。

地面に転がった手榴弾は伏せた敵に対しては3メートルも離れれば威力が期待できないが2~3メートル上空で炸裂するとたとえ敵が伏せていても半径15メートルほどの範囲の敵兵に損害を与えることが出来る。

しかし、煙を吐きながらじわじわと熱くなってゆく手榴弾を手に持ってゆっくりカウントするのは気持ちの良い物では無い。

兵士達がひきつった苦笑を浮かべて軍曹のカウントを聞いていた。

川の斜面に殺到してくる民兵たちの雄たけびが近付いて来た。

死人が三千人とカウントした軍曹が手榴弾を高く放り投げ、左右の兵士も同時に手瑠弾を投げた。


4個の手榴弾が煙を吐いて飛んで行き、大音響を発して爆発した。

もうもうと上がる土煙りの中をあどけない子供達の悲鳴がこだました。

軍曹達は枯れた川底を走り、村側の斜面をよじ登った。

その途中、一人の兵士の背中に銃弾が当たった。

兵士は口から大量の血を吐き出しながらずるずると斜面をずり落ちた。

衛生兵の一人が斜面を滑り降りて兵士の傍にしゃがみ込んだ。

衛生兵が軍曹に向けて顔を横に振った。

軍曹は死んだ兵士の銃と弾丸を回収するように命じた。

軍曹は、軍曹の周りに集まり、不安そうに軍曹を見つめる村民たちと自警団兵士たちを見た。


10人足らずの子供と乳飲み子を抱えた若い女、中年の男と女が一人ずつ、そして3人の自警団兵士がいた。

現在の所、軍曹は1人の兵士を失っただけだった。

軍曹の手元には軍曹を含めて29名の戦闘歩兵と、そこそこの戦闘訓練をした3名の衛生兵、自警団兵士3名がいた。

この時点で民兵組織側は80名近くを失っていた。

しかし、まだ700名以上の民兵が村への攻撃を続けていた。

枯れた川の向こう側の民兵は手榴弾の爆発の迫力に押されてそれ以上進んで来なかった。


村の西側で腹を震わせるような振動と共に、大爆発の轟音が響いてきた。

枯れた川から村の中に入った村民と自警団兵士が頭を抱えてしゃがみ込んだ。

軍曹はその爆発音がクレイモア地雷のものだと悟り、西側から押し寄せてきた民兵の大群が重機関銃陣地から100メートル以内に迫った事を知った。

軍曹は衛生兵と村民をひきつれて西側陣地に向かった。

インドネシア人兵長が指揮をとりながら守備兵が油断なく後方を警戒しつつ軍曹達に付いてきた。


実際に民兵の群れは100メートルどころかもっともっと近づいていたのだ。

陣地の守備を指揮していた伍長はクレイモア地雷を爆発させるタイミングに悩んでいた。

近づいてくる民兵が散開し過ぎている為にせっかく敵を一網打尽で吹き飛ばせる兵器が宝の持ち腐れになってしまう。

伍長は一計を案じ重機関銃に射撃を中断させた。

そして、守備兵達に陣地から出て展開し突撃銃の射撃を加えるように命じた。

伍長の目論見は図に当たり、重機関銃の弾丸が尽きたと思いこんだ(実際に重機関銃の弾丸は残り少なかった)民兵達が陣地正面に殺到して来た。

伍長は守備兵達に陣地に戻れと叫んだ。

だが、ここでひとつ誤算があった。

攻撃に先行してひそかに重機関銃陣地から50メートルほどに忍び寄っていた20名ほどの民兵の一団が急に立ち上がり、陣地の外に出ていた傭兵達に一斉射撃をした。

思わぬ方向から射撃を受けて4人の傭兵が倒れた。

伍長は陣地に飛び込むと重機関銃手に新たに現れた民兵の一団に全力射撃を命じて、クレイモア地雷の発火プラグを手に取った。

重機関銃手が新手の民兵達に向けて重機関銃を向け、射撃を開始して近づいてくる彼らを次々に引き裂いて行った。

守備兵達が陣地に飛び込み、陣地正面に殺到してきた民兵が顔まで見分けられる範囲に来ると、伍長は重機関銃手に頭を下げるように怒鳴ってから発火プラグを3回握りしめた。

物凄い大音響と振動が走り、3個のクレイモア地雷が陣地正面の民兵達を吹き飛ばした。

ンガリは横5メートルほどを走っていた同じ集落の子供がまるで赤い砂でできた人形が突風で吹き飛ばされるようにバラバラに砕け散りながら空中に消え失せたのをはっきりと見た。

一瞬遅れて爆風がンガリを襲い、彼は尻もちをついて地面に転がった。

周りの音も一緒に吹き飛ばされたかのようにンガリは耳が聞こえなくなった。

体中あちこちの痛みを我慢しながら体を起すと、陣地正面の草原は赤いペンキと肉片をあちこちにばら撒いた様な凄惨な情景が広がっていた。

ンガリはかろうじてクレイモア地雷の殺傷範囲からずれていたのだ。

後ろを見るとンガリ達を監視していて、しゃがんだり隠れたりすると容赦なくンガリ達を後ろから撃っていた年長の少年兵達が慌てて逃げていった。

ンガリは自分の銃を拾って、逃げて行く少年兵達の後ろを追った。


陣地の近くまで接近していた20人ほどの民兵達も重機関銃の至近距離からの射撃でバラバラに引き裂かれた10数名分の死体を置いて逃げていった。

陣地では民兵達が一斉に退却に移った事を見届けた伍長がへなへなと腰を下ろした。

そして、民兵からの銃撃に倒れた傭兵達の回収を守備兵に命じた。

倒れた4人の内3人は即死、一人は肩と腰を撃たれて自力では動けなかった。


軍曹と他の部署の兵士達や待ち伏せ攻撃から生き残った村民、自警団兵士達が陣地裏の建物の傍まで来た。

軍曹が通信兵をこちらに寄こすように陣地の後方30メートルほどの建物から声を掛けた。

伍長は陣地の中で重機関銃の隣にうずくまっている通信兵の肩に手を掛けた。

通信兵は胸と頭を3発の銃弾に撃ち抜かれて死んでいた。

銃弾は通信兵の心臓と背中に背負った通信機を貫通していた。

通信機も、通信兵とともに戦死していた。


軍曹は新たに4人の兵士を失い、1人が重傷を負った。

軍曹を含めて戦える傭兵が24名、衛生兵3名、自警団兵士3名になった。

そして、一番の痛手は救援に駆けつける少佐との連絡手段を失った事だった。




少佐は囮部隊の応答が無い事に苛立ち、悪態をつきながら通信兵になおも呼び出すように言った。

ハンドトーキーが鳴り、最後部のトラックから連絡が来た。

先ほど少佐達を駐屯地に追い返した政府軍大佐が乗ったベンツが政府軍兵士を乗せたトラックを引き連れて追尾してきていると知らせて来た。

少佐は最後部のトラックに乗った兵士に政府軍大佐の車に銃の照準を合わせていつでも撃てるようにしろと言った。

銃が暴発しても構わんその時は確実に大佐の心臓を撃ち抜け、と小声で言い、護衛の兵士達がくすくす笑った。

少佐も気分を落ち着かせるように笑顔を浮かべて、傭兵団の上級司令部を呼び出した。

無線に出た傭兵団大佐に状況を知らせ、強行突破をして囮部隊の救出に向かって良いか尋ねた、が断固として却下された。

傭兵団大佐はこちらでも手を回して何とかすると言い、とりあえず駐屯地に戻るように少佐に命令した。

少佐は無線を切り、流れ去るサバンナの景色を見つめた。

連絡が取れない以上、軍曹はたとえ全滅しても村を死守するだろう。

少佐はまた、タバコに火を点けた。

今度は手は震えなかった。

少佐は煙草の煙を吐き出しながら頭を垂れた。





軍曹は村を死守する事に決めた。

村の入り口の重機関銃陣地にゆき、双眼鏡を目に当てて草原を見回した。

村のすぐ近くから森の方まで無数の死体が散らばっていた。

その殆どが年端も行かない子供だった。

軍曹は不機嫌に唸った。

未熟な少年兵達に大事な重機関銃弾となけなしのクレイモア地雷を使ってしまったのだ。

軍曹は敵の主力はほとんど無傷だろうと推測した。

民兵は軍曹の戦闘基準からは大幅に後退して森の中に全部の兵が引っ込んでしまった。

軍曹は村の大部分を放棄することに決め、今保有する戦力で守り通せる範囲を考えた。

軍曹は陣地から村を見回して守備兵の配置を考えながら、この機を逃さずに伍長に敵の遺棄死体から可能な限り、武器と弾薬を回収する事を命じた。


そして、重機関銃陣地の近くの3つの建物を防衛拠点に作り替える為、守備兵や生き残った自警団兵士、村民達を手分けして弾避けになりそうな物を運ばせてバリケードを築き、それぞれの建物の防備を強化させた。

土嚢を作っている暇がないので、近くにある民兵の遺棄死体を回収し、積み上げて応急の胸壁を建物の周りに作り上げた。

実際に死体はその臭いを無視すれば土嚢並みに頑強な防御物資になるのだ。

積み上げられた死体の胸壁を気味悪そうに見つめる村民たちを3つある建物の中央の建物に収容して、負傷兵を運び込ませ、その建物を衛生兵と自警団に守らせた。

軍曹は左右の建物と重機関銃陣地に兵士を配備し直した。

回収した民兵の武器弾薬をそれぞれの建物に運び込んでいる時、生き残った村民の若い女と中年の女が軍曹の元にやって来た。

2人の女は、私達にも銃を渡してほしいと言った。

突然の申し出に軍曹は面食らったが、一人でも人手が欲しいので、民兵から回収した突撃銃を女達に渡した。

若い女は乳飲み子を背負ったまま堂に入った手付きで突撃銃の弾倉を調べて弾が入っている事を確認してから安全装置を掛け、軍曹ににやりと笑いかけた。

中年の女も一通りは銃の扱いを知っていた。

突撃銃と弾薬を重そうに中央の建物に運んで行く女達を見送った軍曹は腕時計を見た。

少佐が駐屯地を出発したとの連絡があってから1時間30分が過ぎていた。

あと2時間30分持ちこたえれば・・・。

軍曹はまだまだ3~4時間は十分に持ち堪えられる自信があった。

何度も何度も絶望的な状況を切り抜けてきた軍曹だった。

今回も何とか切り抜けられそうな希望が生まれ、少佐とまた酒を飲んで馬鹿騒ぎをする事に思いを馳せ、笑顔を浮かべた。


軍曹は配置についた守備兵達を廻りながら声を励まして、もう少しの我慢で援軍が来る事を、そして、民兵どもを逃がさないように頑張れと言ってから、少佐達にも獲物を残しておけと言い、豪快に笑った。

守備兵達の顔に笑顔が浮かんだ。

軍曹は守備兵達の闘志を引き出した事に満足して煙草に火を点けた。

民兵達は再編成の途中らしく、森は静まり返っていた。

軍曹は民兵組織が新たな攻勢に出ないうちに、配下の兵士達に突撃銃の弾丸の割り振りをした。

重機関銃陣地にいて防戦していた兵士達はすでに持っていた弾丸の半分近くを使っていた。

軍曹達は村に着いた時、35発の弾丸が入った突撃銃の弾倉を兵士一人当たり13個持っていた。


弾倉を均等に分けて行くと兵士一人当たり7個になった。

また、兵士一人あたりに4個づつ配られていた手榴弾を消費した兵士にも分けて行き、一人当たり2個の手りゅう弾を持たせた。

3人の衛生兵は個人防御用に持っているイスラエル製のサブマシンガン用にそれぞれ32発入りの弾倉6本を持っていた。

死亡した兵士から回収した突撃銃5丁は負傷した兵士と村民たちを収容する建物に置かれた。


軍曹は死体や様々な物で作った胸壁で3つの建物を囲み、村の入り口の重機関銃陣地に引き寄せられる民兵を側面から掃射できる位置に兵士を配置した。

これで重機関銃陣地と建物からの十字砲火で大勢の敵を殺す事が出来るだろう。

軍曹は胸壁に沿って6名の兵士を配置し、その指揮を軍曹が執る事にした。

胸壁の守備につく兵士の後ろに民兵の死体から回収した突撃銃をずらりと並べ、弾丸が無くなった兵士に軍曹が素早く銃を手渡せるようにした。


左右の建物にそれぞれ3人の兵士を配置し、側面と後方の守りとし、敵を引き寄せる防衛の要の重機関銃陣地に先程の防衛戦闘の指揮を執った伍長を含めた5名の兵士を籠らせた。

軍曹は引き続き重機関銃銀地の土嚢の外側に死体を積み上げて更に陣地を強化した。

頼みの綱の重機関銃の弾丸は残り100発余りとなった。

撃ちっ放しにすると10秒足らずで撃ち尽くす量だ。

軍曹は弾を節約して撃つように射手に徹底させた。

例え連射が出来なくとも12・7ミリの巨大な弾は突撃銃の弾丸よりも何倍も威力があるからだ。

村の大部分は放棄する事に決め、村の中心部から来る敵に備えて建物からの射界を遮る何軒かの家を焼き払った。

これで軍曹が作り上げた防御線にたどり着くまでに民兵達は遮蔽物無しで30メートルは走らなければならなくなった。

傭兵団の兵士にとっては30メートル先の動き回る敵兵は眼をつぶっていても射殺出来る距離だ。


軍曹は残り6名の兵士を2名づつ3班に分けて村の南側と北側と東側に配置し、側面や後方から入り込んでくる民兵の監視役にし、民兵が村の内部に侵入して来た時に防御陣地に警報を発して、なるべく敵兵の勢力を削ぎながら陣地まで後退してそのまま陣地の防御に加わるように指示した。

その間に村民に村の井戸から可能な限り水を汲んで来させ、食料を陣地に運び込ませた。

軍曹のただ一つの気がかりはRPGと呼ばれる肩撃ち式の対戦車ミサイル発射機だが、今までの戦闘の間に民兵がそれを使用した形跡はないので考える事をやめた。

どちらにしろRPGを撃ち込まれたらこの程度の建物など木っ端みじんに吹き飛ぶ。

そうなれば、建物を捨てて、死体とガラクタで作った胸壁越しに戦うしかない。


敵と味方の数を考えたらその時点でこの村での戦闘は手御仕舞なのだ。

軍曹は民兵がRPGを持っていない事を、持っていても大量に所持していない事を願った。

軍曹は腕時計を見た。

少佐が駐屯地を出発してから2時間30分が経過していた。

あと1時間30分持ちこたえたら・・・・。

軍曹は今の内に兵士達に食事を摂らせる事にした。

軍曹を始めとする下士官が警戒に当たっている間に兵士に食事を摂らせた。

軍曹は何か動きが無いかと双眼鏡で森を見つめ続けた。





少佐は駐屯地に戻ると、車列を練兵場に配置して兵士達をトラックのすぐ横に待機させ、即時出撃待機状態にした。

そして配下の将校と自分達のために練兵場のすぐ横にテントを張らせ、そこで事態の変化を待った。

兵士達にトラックの横で食事を取らせながら、通信兵に囮部隊が応答するまで無線で呼び続ける様に、そして、囮部隊の応答があり次第、状況次第によっては即時撤退を許可する事を伝えるように指示を出した。

少佐は上級司令部からの出撃許可命令を待ちながら、囮部隊の応答を待ちながら、動物園の熊のようにうろうろと落ち着かなく歩きまわった。




続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る