第23話 フェーデ
「貴様、我々に逆らうのか!?」
自分達の隊長を蹴り飛ばされ、周囲に屯していた騎士達が一斉に剣を向ける。
だが三郎は少しも怯まず怒声を飛ばした。
「うるせえ! テメェ等調子に乗りやがって、何が共犯者探しだ! やってる事は賊と同じじゃねえか! この村にゃあ住まわせてもらってる恩があんだよ! さあ持ってった
頑として一歩も譲らない。
騎士達は今にも襲い掛かって来そうな殺気を漲らせた。
「手を出すな!」
だがシャルディはそんな部下達を止め、腰のロングソードを抜き放って前へ出る。
彼が一騎討ちを求めていると三郎には分かった。
「ほう、根の腐った奴だと思ってたが武人としての矜持はあるんだな」
「王国騎士シャルディ・フレーザ。貴様に対しフェーデを宣言する」
「フェーデ?」
初めて聞く言葉に三郎は聞き返す。それを笑亜が補足した。
「決闘の事ですよ。ああやって騎士達は力づくで人を従わせるんです」
「なるほど分かりやすくて良いな」
納得した三郎は彼の勇気に応え、こちらも名乗りを上げた。
「我こそは朝比奈三郎義秀! その勝負、受けて立ぁつ!」
ここにフェーデは成立した。
2人の武人は皆が見守る中、互いに剣を向けた。
とは言え、完全武装したシャルディと違い三郎は鎧を纏っておらず、得物も初めて扱うショートソードだ。本来なら盾で防御しつつ、隙を突いて相手を攻撃する物だが今はその盾も無い。更に相手の武器の方がリーチも長い。
三郎は中々間合いを詰めず、様子を見る獣の様にシャルディの周りをうろうろする。
「どうした? 来ないのか?」
自身の装備的有利を鼻に掛けシャルディは煽る。
すると三郎は全く剣が届かない所で下から大きく素振りをした。刹那、カンッという甲高い音がして、一つの石がシャルディの頬に直撃する。
「だあぁぁ!!」
この奇襲を機に、三郎は雄叫びを上げてシャルディに襲い掛かった。
意表を突かれたシャルディはすぐに剣を構えようとするが、その時には既に彼の得意とする間合いより内側に飛び込まれていた。
大型でリーチの長いロングソード故に、極端に接近されると逆に戦いづらいのだ。
三郎はショートソードで斬り付けるが、シャルディはロングソードを盾にしてこれを防ぐ。
だがこれは三郎の予想通りだった。彼が持っているショートソードは片手剣である。つまり両手で握るロングソードと違い片手が空いているのだ。
三郎はシャルディの股に手を潜り込ませると、片手の腕力で彼を持ち上げポーンと宙に投げ飛ばす。
きっとシャルディからしたら何が起こったのか分からなかっただろう。急に暴れ出した視界に間抜けな声を上げて、そのまま受身も取れず地面に叩き付けられた。
三郎は起き上がろうとするシャルディを蹴倒し馬乗りになると、彼の頭を抑え付けてショートソードの刃をうなじへと押し当てた。
「殺しちゃダメ三郎!!」
だがアルケーによってそれを止められる。
「ああ? 何で?」
せっかくのチャンスを止められ不満気に女神を睨む。
「何回も言わせないで。私達が倒すべきは魔王よ。その配下でもない騎士を殺しても意味ないわ」
三郎はシャルディの白いうなじを惜しそうに見詰めた後、仕方なさそうに舌打ちした。
「おい、どうだ? 降参するか?」
降参するなら許してやろうと問い掛ける。
だがシャルディはそれを屈辱的な顔で返した。
「くっ! やれ!」
三郎はその台詞に違和感を覚えた。「降参などしない。殺せ」という意味ではない。何故なら彼の目はまだ諦めていないからだ。
直後、視界の端できらりと光る物が見えた。三郎は直感で剣を振るい飛来した何かを打ち落とすが、同時に腕や胴などに激痛と衝撃が走り転倒してしまう。
「ぐぅ!?」
何事かと見れば、周りを囲んでいた騎士の数名が何かを構えていた。
「
それはこの世界ではクロスボウと呼ばれる代物だった。
三郎の時代ではあまり見かけなくなった武器だがその知識はある。台座に乗せた矢は引金を引くだけで発射され、弓の様に腕力を必要とせず素人でも扱える。何より狙いが付けやすい厄介な武器だ。
三郎を退けたシャルディは勝ち誇った様に立ち上がる。
「フェーデとは仲間の助力も認められているんだよ。つまりここにいる全員が君の相手さ」
その言葉を待っていたかの様に騎士達は抜剣する。
普段のパトロール任務等で出ているとは言え、それでも30人は居た。
それでも三郎は屈さない。
「元よりそのつもりだバカ野郎!」
吠える三郎にクロスボウの一斉射撃が放たれた。
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