第22話 腹の立つ妄想

 家宅捜索にやって来たのは隊長のシャルディとその部下4人だった。

 アルケーは鎧を鳴らしながら家に入って来た騎士達を出迎える。


「あら? 隊長さん自らお出ましとは意外ね」

「君達は魔人を倒し、デーモンウェッジを破壊した猛者だからな。僕が出向くのは当然だ」

「それはまるで私達を警戒しているような言い方ね」


 アルケーは玄関の扉が開いた時に、外にも10人以上の騎士達が控えているのが見えた。今も窓の外から鎧の足音が忙しなく駆けているのが聞こえる。まるで犯人の隠れ家を包囲している様な雰囲気だ。


「貴方の部下達がかなり横暴な事をしているのだけれど? ちゃんと教育してる?」

「彼等は捜査をしているだけだ。何の問題もない」


 騎士達の略奪とも取れる行為に関して、隊長であるシャルディは悪びれる事もなく肯定する。

 そしてアルケー達を見据えると、澄ました顔で用件を伝えた。


「さて、さっそくだが君達を拘束する」

「は?」


 突如として騎士達は剣を抜き、その切先を3人に向ける。


「ちょっ!? これはどういう事よ!?」

「君達はハルトの共犯者という疑いがある。大人しく我々と一緒に来るんだ」

「はあ? 何がどうなってそういう結論になるのよ!」


 言いがかりにしたって目茶苦茶過ぎる。

 たった数日前にこの世界にやって来たアルケー達に、ハルトとの関わりなんてない筈だ。

 そこまで思った所である事に気付いた。


(笑亜!)


 そうだ。笑亜はハルト達と一緒に住んでいたのだ。

 アルケーの訴えに応え、シャルディは拘束の根拠を語り出した。


「冒険者、志藤笑亜。君はハルトと共にこの村に来たそうじゃないか。奴と共謀してジュリエッタ様を誘拐し、共に監禁していたんじゃないか?」

「違います! 言いがかりです! 私はこの村に向かう途中に偶然2人と出会ったんです。ジュリさんが公爵令嬢だという事も昨日初めて知りました!」


 笑亜は訴えるがシャルディは決め付けた様な目で彼女を睨む。そして挑発するかの様な嫌味な口調で煽って来た。


「死神の笑亜。パーティーを組んだ仲間が次々と全滅していく死神だそうだね。冒険者達からも忌み嫌われているそうじゃないか。冒険者ギルドに居辛くなった君は御令嬢を攫って一儲け考えたんじゃないのか?」

「は、はあ?」


 その飛躍した推理に笑亜から呆れた声が漏れる。

 次にシャルディはアルケーに視線をやった。


「そして魔法士アルケー。君が御令嬢を洗脳したのだろう?」


 これまた根も葉もない言いがかりにアルケーも呆れ顔になる。


「貴方、頭大丈夫? 何の根拠があってそう言えるのかしら?」

「君達が破壊したデーモンウェッジがあった丘を見に行った。凄まじい魔法の跡で驚いたよ。そして思ったんだ。君なら洗脳魔法も容易く出来ると」

「バカバカしい。そもそもジュリは洗脳なんてされてないじゃない」

「洗脳魔法は他人には分からないように施すのが基本だ。君程の魔法士なら、常人には気付かれない程の高度な洗脳魔法も可能だろう」


 まるで名推理を披露する探偵の様にシャルディは言葉を並べるが、一つもあってないので余計に腹が立つ。

 アルケーの顔は落ち着いているように見えてるが、腹立たしさで目元がピクピクと動いている。


「呆れたへっぽこ推理に溜息も出ないわ。貴方の言い分は全部妄想じゃない。騎士隊長ってバカでもなれるのね」

「貴様! 隊長を愚弄するのか!」


 怒った騎士達が更に剣を突き付ける。

 むしろ愚弄されているのはこっちだと言いたい所だ。


「おい、俺にはどんな疑いが掛けられてんだよ!?」

「君は彼女達と一緒に居たからとりあえず確保する」

「ついでかよ!?」


 何故かガッカリする三郎。

 しかしそんな事で場は和まず、アルケー達は部屋の隅に追いやられてしまう。


「おい、どうすんだよ?」

「とりあえず大人しく従いましょう」

「はあ?」


 驚く三郎の横でアルケーは両手を上げて無抵抗の意を示す。


「ここで抵抗しても騎士を敵に回すだけよ。さっきの言いがかりなんて、調べればすぐに的外れだって分かるもの。ムキになる事ではないわ」


 あくまで面倒事は避けるという方針を彼女は崩さない。もちろん腹は立っているが、これで最悪、反抗した罪で罪人となってしまえば、これからの魔王討伐が更に困難になってしまう。


「その通り。いろいろ言ってしまったが君達はまだ共犯者と決まった訳ではない。これからの取り調べで無実が証明されれば君達は自由の身だ」


 シャルディは無礼を詫びる事なく、むしろ従順に従う事を勧める様に言う。

 非ぬ妄想で拘束しといてどの口がと思うが、3人は仕方なしに従った。

 家宅捜索の為、取り調べは集会場で行う事となった。

 シャルディは思い出した様に、連れて行かれる三郎を呼び止めた。


「ああそうだ、三郎殿。君、中々良い剣を持っているな」


 それは彼が預けた太刀と腰刀の事だろう。


「ほう。あれの良さが分かるとは良い目してるじゃねえか」


 自分の持ち物を褒められて単純に少し嬉しくなった三郎は、見直した様にシャルディを見る。

 横暴な所はあるが、彼もまた武人なのだと少しの親近感が湧いた時だった。


「あれは僕が貰い受ける」

「……は?」

「魔王軍との戦いに備え徴発させてもらう。これはその代金だ」


 手に握らされたのは薄っぺらい金貨1枚。これが我が愛刀の価値らしい。


「ハッ! ハハ、ハハハハハ!」


 三郎はあまりに突拍子ない出来事に思わず大声で笑ってしまう。

 それを嬉しみの笑いとでも思ったのか、シャルディもにこやかな顔をするが、次の瞬間、三郎の蹴りが彼の腹を捉えた。


 ドガッ!!


 玄関を突き破ってシャルディの身体が吹っ飛んだ。

 驚いた部下の騎士達が慌てて襲いかかるが、三郎は彼等を枕の様に次々と外に投げ出して行く。完全武装した重さ100kgに近い騎士達をだ。

 その光景にアルケーは唖然としてしまった。事態を荒げたくなかったのに、これで台無しだ。


「あ。やっちまったぁ」


 我に返った三郎は口に手をやってどうしようかと困惑するが、そんな仕草をしても、もう遅い。


「えぇ……。何してんのぉ?」

「だって……。あいつがしょうもねえ事言うからよ!」

「バカァ!!」

「う、うるせえ!」


 三郎は直垂の袖をまくり上げ、騎士の落とした剣を持つやズンズンと外に出る。こうなったら仕方ない。もう止まれない。

 外に出ると騎士達が包囲する様に集まっていた。

 三郎は彼等の前で果敢に啖呵を切った。


「やいやいやい! 騎士だか猪だか知らねえが、武士の刀を奪うたあいい度胸だ! 俺の刀が欲しけりゃ代金なんていらねえ! 力強くで奪って見やがれ!!」


 凄まじい怒気と大音声で宣戦布告する。


「何でこうなるのよ……」


 アルケーが頭を抱えて困り果てる。

 そこに笑亜がちょんちょんと伺いを立てた。


「私も参加して来て良いですか?」

「もうヤダ! 私の従者血の気が多い奴ばっか!」

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