第32話 脅威襲来

 な、何が起きたの⁉

 理解が追い付かないままわたしは吹き飛ばされ、木に衝突する。

 グハッ!!

 そのまま地面に倒れこんでしまう。

 やばい。衝撃で体がうまく動かない。

「大丈夫か⁉」

 パキラさんが急いでわたしのもとへと駆け寄る。

「ほら、飲め」

 そういってパキラさんは回復薬をわたしに飲ませる。

 受けたダメージがみるみる回復していく。

「あ、ありがとうございます」

「礼は後だ。それよりも」

「はい。わかってます」

 そういってわたしたちが見つめる先にいるのはフェンリル。

 さっきまで何の反応もなかったのに。

 フェンリルの速さを見誤ってた。まさかあんなに速く動けるだなんて。

「皆さんは下がってその他の相手をしてください。フェンリルはわたしが」

 パキラさんは真剣な表情で見つめてくる。

「本気かい?」

「そのために来たんですから」

「・・・わかった。・・・お願いしといてなんだが・・・死ぬなよ」

「はい。パキラさんも死なないでくださいね」

「もちろんだ」

 そういって自衛団の人たちのほうへと向かっていったパキラさんを見送った後、わたしはフェンリルの前に出た。

 家よりも大きい白色と灰色の体躯、オオカミに似たその姿からは圧倒的な存在感がある。

 その迫力はまさにあのオーガジェネラルと同じ、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 『イェオライト』、『ティールセント』を重ね掛け。

 『ベーガリオム』、『レイズウィンド』をいつでも発動できるように備えておく。

 わたしが攻撃の姿勢に転じる中、フェンリルがわたしの方を向いた。

「貴様がこの中で最も強い人間だな。魔導士め」

 ⁉しゃべった⁉

 知能が高いとは知ってたけどまさか人の言葉を発するなんて!

「言葉がわかるなら教えて。どうしてこの村を襲うの?」

 わたしの言葉にフェンリルは牙をむき出しにして威嚇してくる。

「どぼけるな!貴様らが先に攻め込んだのだろう!」

 鼓膜が破れそうなほどに大きな声。

 先に攻め込んだ⁉どういうこと⁉

「あたしたちはそんなことしてないよ!」

 パキラさんがそう叫ぶ。

 しかしフェンリルは怒りを鎮めない。

「とぼけるでない!我の領域で好き放題してくれおって。報いを受けよ!」

 フェンリルの姿が消える。

 さっきは反応できなかったけど。集中し続けたらなんとか動きを察知することができる。

 来る!

 わたしは急いで後ろへと退避する。

 すれすれのところでフェンリルの突進を避ける。

 正面から感じるとてつもない冷気。

 突進してくるフェンリルはもはや自在に動く吹雪だ。

 魔法で強化しているとはいえわたしは戦士職じゃないから、あんなのまともに受けたら回復薬を使う間もなく死んでしまう。

 より一層集中を高める。

 四方からくるフェンリルの攻撃をなんとかよけ続ける。

 でも、攻撃できるタイミングがない。

 幸いなのは狙われているのがわたしだということ。

 たぶんわたしが自衛団の人たちの力をあげていることに感づいているんだろう。

 それはつまりわたしが負けたらほかの人たちを倒すのは余裕だということ。

 でも『奮起』には感づいていないんだろう。みんなが倒れない限りわたしはなんとかフェンリルの攻撃を引き付けることができる。

 でもそれだけじゃ勝てない。

 何か方法は・・・

 そうだ!

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