『無能』エクソシストの成り上がり
さばけん。
第1話 人権の有無は実力で決まる。
いわゆる『異世界』のような世界。魔法や剣士、勇者、魔物、ダンジョンなどが存在する。
そして、人々は魔法使い、剣士、回復師(ヒーラー)などの『才能』が生まれつき必ず持っている。
しかし、その中には何の『才能』もない、『無能』と呼ばれる、人々も確かに存在していた。『才能』とは人権であり、『才能』がないと人権がない、という世界であることも事実だ。
灰色の空が今にも落ちてきそうなほどに激しい雨が降り続く17歳の誕生日。
前髪から滴り落ちる雨水が目に入ってくる。
父さんが死んだ。
200人以上を葬ってきた国直属の殺し屋。
『不敗のホーク』そう呼ばれた父は死んでしまった。いや、まだわからない。今は消息が分かっていない。
僕は、殺し屋の素質はあった。しかし、ターゲットを前にすると動けなくなってしまう。
僕はこのままでいいのだろか。人に頼って、自分に自信が無いままで。
そういえば、街で他の世界に移転できる魔法陣が展開されている店があった筈だ。
せっかくだ。他の国に行って旅でもしてみよう。良くも悪くもこの世界に思い残したことはない。
父以外に家族はいないからな…。
移転魔法の魔法陣にて。
「よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げ、魔法陣の中心に立つ。
「おう、若いねえお兄ちゃん。名前聞いてもいいかね?」
魔法陣を展開している魔法使いが微笑みながらいった。
「えーっと、こういうときは…自己紹介か。リン・ホークです16です」
「そうかい、そうかい。若いねえ。じゃあ、なんで他の世界に渡ろうとしたんだい?」
「改心の旅っていうやつですかね。はい」
「立派だねえ」
「そういえば、この世界と他の世界を行き来することってできるんですか?」
「ああ、できるとも」
「ほほお…」
会話をしているうちに魔法陣が光り始めた。
「光ってる」
「おっ、出たよ。君が行けるところはねえ…えっと、ニホンという国みたいだよ」
「おお、その国はどんな感じですか」
「近代化が進んだ国みたいだね。戦争とかもなさそう。あっ、でも『悪魔』っていうのがいるみたいだよ」
「『悪魔』…てなんですか」
「ワシが聞いたことのある話では、人の姿をした人を喰らう呪いのようなものだ」
「ほう、それはたいへんですな」
「他人事みたいな反応だね。まあいいや、それを倒す『エクソシスト』っていうのも存在するみたいだ。それとそのエクソシストを育成する学校も」
「ほへー」
「きみにエクソシストにぴったりだとワシは思うがな。ハハッ」
「行ってきな。健闘を祈ってるよ。おまけにニホンの言語は一通りわかるようにしておくね。それと住むところも。ついでに戸籍も用意しておくよ」
「ども」
視界が光に包まれた。
現代ニホンにて。
「おお、ここがニホンか」
っていうかここどこ。
303号室と書かれたアパートの部屋の玄関にいつの間にか立っていた。
「ここかな。あのひとが言ってた住むところって」
とりあえずなんとなく靴を脱ぎ、部屋にあがった。
「おお、意外と広いかも」
シングルのベッドが2つと学習机が2つ。
その机の上になにかのパンフレットが窓から差し込む光に反射していた。
「なんだこれ。」
パンフレットを手に取り、ざっと目を通す。
「『エクソシスト育成特別高校』…!?」
じゃあ、ここは学校の寮ってことか。
「ってことはここ相部屋か」
どんな人かなあー。いい人だといいな。
「ただいm…えっ」
「えっと、不法侵入じゃないから安心してください…はい…」
「お、おう…」
気まず…。とりあえず自己紹介からだな。
「あ、君、杉鷹燐君だよね?」
「え?」
慌ててパンフレットが入っていた封筒の住所の下に書かれてある字を見る。
『杉鷹燐』
そういえば、爺さんが戸籍を用意しておく、て言ってたなあ…。
「ウン、ソウダヨ」
2人とも苦笑いをした。
「そういえば燐君。自己紹介してなかったね」
「確かに」
「僕は有栖 旬。よろしくね」
「よろしく」
「この学校はね、同じクラスの人と2人1組で生活するんだ。僕はクラスになじめないって判断されたみたいで転校生の君と同じ部屋になったんだ。まあ、今日は14時からの授業だから朝はゆっくりだね」
「うぬ」
「今日の授業って何するの?」
「多分だけど、エクソシストの適合判定と得意な戦い方を見極めるための実践じゃないかな。あっと、戦い方っていうのはねエクソシストの中には、『剣士隊』っていう武器を使って戦う隊と、『呪術隊』っていう魔法を使う10万人に1人か2人くらいしか生まれない特別な精鋭が集まった隊と『兵法隊』っていう格闘技とかを主に使って戦う隊の三つがあるんだ」
「ほほお…。にしても、なんで君はそんなに親切にしてくれるんだい?」
「転校生の君は知らないこともあるだろうからね。それに、困ったときはお互い様だからね」
「いい奴だなあ、君は」
「ははっ、そんなことないよ」
と言いながら有栖は頭を掻いた。
『無能』エクソシストの成り上がり さばけん。 @sabakenn
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