第29話『逆襲!! 帝国艦隊を殲滅せよ』

⦅ご主人様、天秤騎士フリーデンを見失いました⦆

「そうか」


 フリーデンは災霊鬼定子の結界が自然消滅した時点で逃げた。

 引き際の潔さはさすがというべきだろうか。

 すでに広咲城侵入者はすべて鎮圧済みだ。

 城郭防御壁は展開され、城郭一帯を覆う強固な防御神術に守られている。

 俺はメティアに念話で連絡を入れる。


⦅広咲城突貫工事の進捗は?⦆

⦅任せてよ。醜女蜘蛛到着までには合わせるよ⦆

⦅それってギリギリ間に合わないってことじゃねえか⦆

⦅ごめーーん、でも安心して。この広咲城の城郭防御壁と装甲なら直撃しなければ耐えられるよ⦆

⦅全っ然安心できねえから!?⦆


 俺は既に帝国飛空艇艦隊の直上、空に控えている。

 ユニークスキル【神獣覚醒】にてマスコットキャラから戦闘形態に変化した巨大グマの神獣くまみん。

 白い毛皮から神力の光が溢れ輝くので今は銀色の神々しさに溢れた様子だ。

 両手両足は神力の青い炎がまとわりつき、そのせいなのか空を駆け回ることが出来る。


 隣を見れば同じく神獣に乗って同行する美咲さんの頼もしい姿。


 神獣【桜鷹丸】


 羽を広げると最大十メートルを超える巨大な鷹の神獣だ。

 白を基調に毛先に向けて桜のような色彩の羽毛が美しい。

 桜色の神力の粒子が羽から鱗粉のようにさらさらと舞う。

 それがまるで桜の花が散る情景を想起させた。

 

「美咲さん、脚は大丈夫なの?」


 美咲さんは定子に脚を貫かれて負傷していたのだ。

 本来なら下がって欲しいところだが。


「ご心配ありがとうござます。ですが治癒の術で回復済みです。急所はずらしてあったので戦闘に支障はありませんよ」

「無理はしないでくださいね」

「分かっています。しかし、弟子があれほど頑張ってくれたのですから私も頑張らないといけません」


 むん、とガッツポーズでやる気を見せる美咲さん。

 勇ましさより可愛らしい仕草だ。

 思わず俺ほのぼの。


⦅けっ、だらしない顔⦆


 メティアがぼそっと俺を非難する。

 うるさいよ。


「こほん、分かりました。だけど無理しないでくださいね」

「ええ、それにようやく頼経さんと一緒に肩を並べて戦えるのです。武人としても心躍るものがありますね」


 これにはちょっとびっくり。

 美咲さんは聖女のようだと思っていた。

 けれど今は武人としての違う顔が見える。


「なにより帝国と災厄の使徒のこれまでの所業……さすがに腹に据えかねるものがありますので」


 ヒェ、美咲さんけっこう怒ってる。

 まあ、今は頼もしいと思っておこう。


 帝国飛空艇艦隊は魔物の森上空でスライム飛行船からの超高度狙撃を警戒して攻めあぐねている。

 対して、こちらは数々の帝国側の策をはね除けて反撃の準備が整った。

 特に、桜花の奮戦の様子は味方の中で共有されており、指揮は最高潮に達している。

 ――時は来た。今が好機。


「さあ、いよいよ【天空の箱船作戦】も大詰めだ」


 俺は美咲さんと頷きあう。

 スキルで味方部隊に伝達。


「これより帝国飛空艇艦隊を撃滅する。初撃は俺と美咲さんがつとめる。他は作戦通りに。

――行くぞ!!」

「「「「応!!」」」」




 夕暮れに差し掛かる恒星により赤み始める空。

 不吉な色を背景に急速下降する俺と美咲さん。

 それは帝国艦隊にとっての凶兆だ。

 最初に気がついたのは空を警戒する見張りの帝国兵だった。

 空のスライム飛行船にばかり気をとられていた大勢の帝国兵。

 そのなかにあってサボっていた者が最初に気がついたのは皮肉だろうか。


「なんだあ、あれは……」


 やる気のなさそうな帝国兵が目をこらして見れば、黒い二つの点に見えていた者がぐんぐん近づき、徐々に輪郭まで見えてくる。

 更には神聖な神力の光までついているとなればようやく確信する。


「て、敵しゅううううーーーーーーーーー」


 男の声はしかしあまりにも遅かった。

 いや、俺と美咲さんの神獣があまりに速かったのかもしれない。

 高速ゆえに視野が狭まるが俺はしっかりと飛空艇を捉えていた。

 巨体だから捉えやすい船体。

 ――狙うは空母級だ。


「くまみん!! 【ライトニングベアクロー】」

「くまぁ!!」


 俺の言葉を受けてくまみんの手に神力の光によって形成された巨大すぎる爪が形成される。

 

「くまあああああああああああああ」


 くまみん気合いの咆哮とともに光のベアクローが空母級の鉄張りの船体を無残に、大きくえぐり取っていった。


 ドゴォォーーーーンッ!!


 船体を大きく揺るがし、豪快な破壊音が響く。

 ベアクローにえぐられた空母級は船体中央近くまで届くほどに切りさかれて一気に傾いていく。


「桜鷹丸!! 【神翼の断罪】」


 くまみんの空けた損傷を拡げるように桜鷹丸のくちばしと翼が鋭く神力で研ぎ澄まされ、空母級を貫き切り裂いた。


 ザンッ!!


 鋭い切断音。

 まるで全身刃のような突貫攻撃。

 船体の竜骨まで切り裂かれた飛空艇は空中で二つに分かれてゆく。

 ゆっくりと分解し、崩壊しながら墜落していく。

 多くの命がこれだけで失われることだろう。

 だが割り切らなくてはならない。

 これは戦争なのだ。

 俺は自身を鼓舞するように叫ぶ。


「まず一隻。美咲さん」

「――頼経さんっ」


 俺と美咲さんは視線でアイコンタクト。

 それだけで互いの神獣が背中あわせとなる。

 互いの体を反動にしてそれぞれもう二隻の空母級に狙いを定めて飛翔する。

 帝国飛空艇艦隊の空戦飛行魔獣部隊はまだ展開されていない。

 だからこそ空母級から出る前のこの先制攻撃が戦況を左右する。

 奇襲でどれだけ空母ごと沈められるか……時間との勝負。

 目の前の空母級では慌てて緊急出撃の準備をしている。

 させないよ。


「くまみん!! 【インパクトベアフレア】」

「くまっ!!」


 くまみんはキリッと心なし緩い表情を引き締めた。

 空母級に向け、全力で駆けていく。

 徐々にくまみんの体は青白い神炎に包まれ、神風を纏い混ざり合う。

 そして、それは進行方向に渦となって尖り空母級に牙をむく。

 更には空中で移動系スキル【瞬脚】を発動。


「いけえええーーーーっ!!」

「くまあああああああっ」


 くまみんは体全体を巨大な砲弾のようにして空母級の船体を食い破り、つらぬいた。

 俺は空母級を貫く最中、素早く蹴りでエーテライト機関を根刮ぎ刈り取り、アイテムボックスで回収していた。


「あの巨体だ、エーテライト機関がなければ墜落するしかないよな」


 俺の読み通り、プロペラだけでは重い船体を支えきれず、くまみんによる損害もあってあっけなく墜落していった。

 美咲さんは?


 もう一つ空母級を落としにいった美咲さんは船体に大きな傷をつけている。

 中破程度の損害。

 しかし、美咲さんは秘密兵器を裂け目に向けて放り込む。

 シャル印の制圧用催涙兵器だ。

 空母級からはすさまじい白い煙が立ち昇る。

 あれえ、思ったより煙多くね?

 しかも空母級内部からすさまじい悲鳴が聞こえている。

 ――えっ、悲鳴?


「えっと美咲さん、催涙兵器をうち込んだんだよね?」

「そのはずなのですが……」


 阿鼻叫喚、地獄を思わせるような悲鳴と殺戮音に俺も美咲さんも戸惑いを隠せない。

 少し見守っているとどうやら内部にいた空戦騎獣であるグリフォンたちが反乱を起こしたらしい。

 魔導具の首輪をしているのが見える。


「あのグリフォンの首輪。隷属して従わせるタイプのものだな」

「無理矢理従わせているのですか?」


 津軽藩のブラッディーイーグルは信頼関係を結んで契約している。

 優しい美咲さんからすれば帝国のやり方は許せないものなのだろう。


「催涙兵器で視界が悪くなって帝国兵が命令を出せなくなったのだろうな。この機にグリフォンが反乱したという訳か」


 甲板に一際別格の風格を持つグリフォンが立った。

 全身スカーレットの毛皮は炎をまとっているようにも錯覚する。

 他とくらべても一回り大きな体躯はボスクラスなのだろう。

 美咲さんは桜鷹丸を飛翔させるとそのグリフォンに刀を振る。

 するとその隷属の首輪を術ごと断ち切った。

 スカーレットのグリフォンは美咲さんに頭を垂れると船内に戻っていく。

 美咲さんもグリフォンたちを解放するために後に続いていった。


「ふむ、まさかグリフォンとはな。想定した中では最悪に近い部隊だったが無力化出来そうでなによりだ」


 帝国の空戦戦力でもワイバーンや、グリフォンは強い。帝国の上級部隊のため警戒していた。

 まさか他の空母もそうなのかと思ったが出撃していくのはペガサスに乗った部隊ばかりだ。


「ほっ、美咲さんの船が特別だったのか」


 まっ、ペガサスも十分厄介なのだけれどね。

 散々好き勝手やった俺に帝国の空戦騎獣部隊が集結し、殺気立っていた。

 無傷の空母級一隻と墜落した飛空艇からどうにか離脱できた者たちが合流した。


「数はおよそ180騎といったところかな」


 今のところなかなかに順調といえる。

 奇襲で空戦騎獣部隊を半数以下に減らすことが出来た。

 現代地球の戦争ならこれだけ被害を出したら撤退するだろう。

 でも帝国は撤退などしない。

 俺が昔、帝国に間違ったして広めているからな。


 残った飛空艇も俺に向けて包囲しながら魔導大砲の砲門を開いていく。

 おいおい、俺一人相手に陣形を崩すとかド素人か?

 わずかな時間、単騎で空母級を次々落としたものだから警戒したのかもしれない。でもそりゃあ悪手でしょ。

 俺は手を振り、一斉に指示を下した。


「ブラッディ―イーグル部隊出撃。

 オークライダー対空砲撃部隊、砲撃開始。

 並びにエルフ飛行船部隊、味方空戦騎獣部隊の援護射撃開始。

 地上のイデア歩兵部隊、ラビットライダー部隊、津軽藩騎馬隊は地上帝国部隊に総攻撃を開始せよ!!」

「「「「応」」」」


 地上ではラビットライダー部隊が反転攻勢。

 イデア歩兵部隊も合流し、帝国の地上部隊に怒濤の反撃が始まった。

 さらに津軽藩の騎馬隊も背後に回り、奇襲を仕掛けたのであっという間に帝国軍は敗色濃厚の戦いになっている。

 ただでさえ災害級の魔物ジェノサイドベアの群れが相手。

 にもかかわらず、オーガのイデアさんが率いる精強な地上歩兵部隊が加わり、背後からは騎馬隊が奇襲するのだからひとたまりもない。

 地上の戦闘はこれで勝敗が決したといえる。

 後は空の戦いが最終的な勝敗を左右する。

 ここが正念場だ。



「待ちくたびれたぜ、ばかやろ、このやろ」


 迷彩装備の大風呂敷を取り去り、家老の市さん率いるブラッディイーグル部隊が魔物の森より一気に飛び上がる。

 魔法による上昇気流を発生させ、急速上昇を可能にする奇策を市さんが採用した。

 あっという間に帝国ペガサス部隊の後方頭上から滑り降りるような形で奇襲をかけていく。

 それまではエルフの遠距離狙撃によるけん制でペガサス部隊は気をとられていた。

 完全に背後から奇襲をかけられた形となる。

 奇襲ひとあてで三十騎が落とされていった。

 そのうち六騎が市さんによる撃破数だ。


「市さん強すぎっ」

「なにぼさっとしてやがる、砲撃がくるぞっ」


 市さんの言葉ではっとする。

 そういえば艦隊に俺狙われてるんだった。

 

「くまみん!! 【瞬脚】」


 一瞬で空高く飛び上がった俺とくまみんは間一髪砲撃の集中砲火から逃げ切る。


「じゃあペガサス部隊はブラッディイーグル部隊に任せた。俺は重巡洋艦級を狙う」 


 戦場を見渡せば魔物の森の各所から対空砲撃が開始されている。

 ジュナさん率いるオークライダー部隊が各所に散って森に隠れ、ゲリラ砲撃を仕掛けている。チビウサのアイテムボックスで対空榴弾砲台を出し入れして敵に捕捉されないよう砲撃を繰り返している。

 対空榴弾砲台はメティアの知識と神代の遺跡の加工技術を使って製作したものだ。

 正直、現代兵器に近い性能がある。

 この世界の文明レベルではチート兵器ともいえるだろう。

 加えて帝国の魔導大砲と違い榴弾を採用しているため、着弾とともに炸裂し大きな損害を与えている。

 飛空艇内の魔導火薬に誘爆して、早速駆逐艦級が墜落していく。


「フッフッフ、森に隠れての対空砲撃だ。どこから攻撃しているかわかるまい」

《頼経の戦術が悪辣すぎて帝国に同情したくなるね》


 ひどい言われようだ。


《現代でもこんなひどい戦法あり得ないよ》

「せっかくのスキルを有効に使った戦術だよ。それよりこっちにかまけてていいのか」

《だいだいの改修は終わったよ。仕上げは忖度スキルに任せてある》

「そいつは朗報だ」

《それより注意して。帝国の旗艦からかつてない高密度のルインオーラを観測したよ。今までの災厄の使徒とも比較にならない強敵がいるかも》

「そいつは凶報だな」


 醜女蜘蛛でも頭が痛いっていうのに。


「頼経さん、心配はいりませんよ。私も一緒に戦います」


 グリフォンの解放が終わった美咲さんが合流してきた。


「心強い。重巡洋艦級をたたく。さすがにあの一隻の火力は侮れないのだが……」


 近づくと予想していたとおり、重巡洋艦級から対空砲撃の火線。

 俺は慌てて回避するのだが、美咲さんはその中にあえて突っ込んでいく。


「ちょおおおーーーーっ、美咲さん!?」


 俺は驚きのあまり素っ頓狂な声があがる。

 美咲さんは襲いかかる銃撃にひるむことなく刀を構え。


「フッ――」


 キィンキンキンキンキンキンキィン…………。

 無呼吸で刀を小さく無数に振りながら銃撃をさばいていくのだ。


「うっそだろ、おい」


 しかも慣れてきたのか、逆に打ちかえして対空砲台を破壊までしてくれた。


「イミガワカラナイ……」

《頼経、ボーーとしてないでこっちも援護だよ》

「はっ、そうだった」


 俺は拳を構えると魔技を発動する。


「スライムの弾丸ライフル!!」


 くまみんに回避を任せて俺は狙撃を始める。

 スライムの弾丸が次々と対空砲台に突き刺さり潰れていく。

 飛空艇の弾幕が薄くなると美咲さんは桜鷹丸を船体に寄せて斬る。

 斬る斬る斬るっ!!


「ざ、斬鉄!?」


 重巡洋艦級はすべて装甲が鋼鉄製の船だったらしい。それでも美咲さんはかまわず斬ったのだ。


「頼経さん!!」


 言葉通り斬り開いた先にはエーテライト機関と動力部が見えている。

 意図を察した俺は、


「アイテムボックス、遠隔発動!!」


 切り離していないからオーラは多く消費した。

 だがそれ以上にリターンが大きい。

 無傷の最新機関を手に入れた。

 この重巡洋艦級は他の飛空艇に比べてもより進んだ技術が使われているようだった。

 航行能力を失った飛空艇を見送りながら俺は抗議する。

 

「美咲さんちょっと、無茶しないでっ」

「えっ、斬鉄は皇国の武士ならみんな出来ますよ。出来ないのなら偽者です」

「マジかよ……ってそうじゃなくて、なんで銃撃の中を突っ込むの?」

「むしろ、あの程度の銃撃でなぜひるむのですか?」

「うっそだろ」

「皇国武士の達人級ならばみんな銃撃くらい斬り捨てますよ」


 どうなってるんだ、皇国の武士は。

 戦闘民族武士怖い……。


「桜花が脳筋なのって美咲さんの影響?」

「なっ、ち、違います。それをいうならいつも盛大にやらかす頼経さんのせいではないでしょうか?」

「えっ、やらかすって俺そんな風に見られてたの」


 言い争う俺たちにメティアから不機嫌な忠告が入る。


《痴話げんかはやめてくれないかな》

「「痴話げんかじゃない(ありません)!!」」


 俺たちの揃った切り返しにメティアはニコリと底冷えする声音でいった。


《仲がいいのはわかったからいい加減にしようね》

「「はい、ごめんなさい」」


 戦況は優勢に進んでいる。

 ペガサス部隊に対峙するブラッディイーグル部隊は美咲さんが救ったグリフォンたちの援護もあって大勢は決しつつある。

 飛空艇艦隊も既に半数以下まで減り、残っている船も旗艦以外被弾している。

 見れば市さんが帝国の旗艦に向けて単騎で特攻をかけているところだった。


「って、ちょおお、市さんさすがに一人で無茶……」


 慌てて制止を駆けようとしたのだが、


「へっ、ぬるい攻撃だぜ」


 美咲さんの時よりも多くの銃撃にさらされながら市さんはすべての銃撃をはじくか、もしくは跳ね返して反撃までしている。

 皇国の武士はオーラじゃなくて違う力の覚醒でもしてるんじゃないかな。


「ほら、市さんだって普通に出来てるでしょ。先ほどの脳筋発言は撤回してください。あのくらい普通なのです」

「そうだね。わるかったヨ」


 俺はもう諦めの境地で謝るしかなかった。

 しかも市さんは騎獣から降りて甲板に乗り移る。  

 帝国兵たちが大量に現れて取り囲んだ。

 市さんの耳から下げた鈴の音が戦闘の喧噪の中でも不思議と響く。

 周りが敵だらけの中、目が見えていないのが不思議なくらい攻撃を避ける避ける。

 ちりーん、ちりーーん、と鈴の音が鳴り響く。

 市さんは敵中をかいくぐりながら素早い剣閃で流れるように斬り捨てた。

 あっという間に周囲にいた帝国兵は血吹雪をまき散らしてバタバタと倒れていく。


「へっ、汚えぇ血桜だぜ、バカやろ」


 俺は市さんのあまりの強さに言葉がない。

 これが達人。武士の達人なのだ。

 やっべえーーーー、武田家に喧嘩売っちゃったけどどうしよう。

 帝国よりも武士で最強の軍団を敵に回した方がやばかったかもしれない。

 今更ながらに俺は後悔していた。

 武士というものを甘く見積もっていた。  

 

《今更だよねええ》


 メティア先生、頼りにしております。だから助けてええ。


「――っ!?」


 直後、俺ははっとした。

 旗艦の甲板上に艦隊司令と思われる貴族の男が現れた。

 司令というだけあり十分な強さを感じ取れる。

 だがそれがかすむほどの圧倒的な威圧感を持つ存在があった。

 美しいキツネ耳と八尾の尻尾を持つ美女。

 彼女から伝わる気配が戦場の空気を一変させた。

 

「へっ、やべえ奴が出てきやがったぜ」


 市さんも貴族の男よりもキツネ耳の女を警戒する。

 だがキツネ耳の女は騎獣に乗ることもなく、単身で空に舞い上がる。

 扇子を振ると市さんが突風にあおられ吹き飛んでいく。


「むう、こいつは」


 市さんがどうにか耐えきった後にはもういない。

 飛行の魔法で高速飛翔していた。

 俺と美咲さんの前にその姿をさらす。


「ふふっ、城郭神。それと貴方が大将首かしら」


 口元を隠していた扇子をパチンと閉じたとたんに消えた。

 気がつけば俺の目の前にいる。

 死を予感した。

 すでに扇子で首を狩ろうと迫ってくるのだ。

 やっばいっ!!


《頼経っ!!》


 俺はメティアの攻撃予測支援でギリギリ身を捻るも右腕が持っていかれた。

 扇子によって腕が吹き飛ばされ、美咲さんの悲鳴が耳に残る。


「――頼経さんっ」

「あら、躱したのね。ちょっとは楽しめそうかしら」


 キツネ耳の美女は妖艶に下唇をなめる。

 不味い、強すぎる。

 俺の腕を飛ばした女はまだまだ本気を出していないことが態度でわかった。

 なんとかしないとこいつ一人相手に全滅しかねない。 



 


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