05 あなたに花を -3-
「たっだいまー、ってあれ」
駅舎まで戻ってくると、ぐったりした表情のリゲルが待合室でのびていた。なにやってるんだ、こいつ。つんつんと突いてやるとハッとした表情で起き上がった。
「オリヴィエ! 勝手にどこ行ってた――⁉」
「ごめんごめん、はいこれお土産どーぞ」
菫の花束を差し出すとリゲルは怪訝そうな目を向けてきたもののすんなり受け取ってくれた。いやしかし美形と可憐なお花はやっぱりよくお似合いである。
ありがとう、だなんて殊勝な礼を言われるとは思っていなかったので無言受け取りでも構わないし、手を離れたことで気楽にもなった。
「埒が明かない」
「ん?」
「あの駅員だ――儂は知らん、儂は関係ないの一点張りで……だったら関係者を出せと言っているのに完全に無視だ。ふざけてんのか?」
「あーじゃあ、交渉上手くいってない感じだ」
待合室に掛けられた風景画を眺める。なんてことはない町並みだが、ミレッティらしい筆遣いが目を惹く作品だ。やはりモデルはこのネルケなのだろう。倦んだような空気が絵の中にも漂っている。
出会った住民たちは善人ばかりだった。親切だった。
評価するなら「いい町」でしかありえないのだが、住民たちはひどく退屈そうだった。爆発する手前の空気のよどみを掬い取ったような絵だ、と散歩のあとのオリヴィエは意地悪く考えてしまった。
どこか高い場所から見下ろすように、駅舎や時計台などの特徴的な建築物を配置し、住宅や商店が連なる町並みを濃やかに描いている。見事な風景画ではあるのに何かが足りない。
ただ、これがミレッティが本当に描きたかったものなのだろうか。オリヴィエは首を傾げてしまう。
主題がぼやけているようにも見えた。
ミレッティがこの絵で何を描きたかったのだろう、それが判然としないのである。
「オリヴィエ」
「ん?」
「……この花、どうしたんだ」
「あ、気に入った? 女の子から買ったんだよ。可愛いっしょ、菫だよ」
「菫……」
リゲルの視線が、風景画と花を行ったり来たりする。この顔は何か気づいたときの顔だ。オリヴィエも真似をして、菫の花束を見てから壁の風景画を眺めてみた。
高所から町の風景を見下ろすような構図となっているのだが、絵の下部は緑色に彩られているため草原のような場所に立っているとわかる。
その合間に見える紫の彩り。
「菫が咲いている……」
先ほどサシャと一緒に町をめぐった時に立ち寄った場所が頭に浮かんだ。
「そうか。これは――俺、この絵が描かれた場所わかったかも」
に、と歯を見せて笑うとリゲルはぴくりと眉を動かした。
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