-interlude-

 昔々、ホルツ近海には怪物が棲んでいました。

 夜な夜な近くを航海していた船を襲い転覆させ、粉々になった木くずが港に流れ着きます。


 ホルツには怪物がいる。近くを通っただけで襲われて積み荷も船員もすべて沈んでしまうらしい。


 そんな噂が広まるとホルツ周辺を航海する船は次第に減っていき、交易をする国や町は減っていきました。漁師たちも海に出るのを怖がるようになり、ホルツは徐々に廃れくたびれていきました。


 そんなとき、旅の途中で立ち寄ったひとりの画家がホルツの漁師の娘に目をつけました。彼女はとびきり歌が上手く、誰もが聞きほれる美声の持ち主でもありました。


 画家は彼女によく似た人魚の少女の絵を町の地下洞窟の壁に描きました。

 するとどうでしょう――絵の中の少女が、漁師の娘とおなじように歌をうたい始めたのです。ふたりの少女の二重奏が響き渡り――あまりの心地好さに怪物は眠りに就きました。


 そして、怪物は二度と目覚めることはありませんでした。

 以来、その画家のことを救世主と呼び――人魚の絵と共に崇め奉ったのでした。


~ホルツの昔話のうちのひとつより~

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