修行

 翌朝。

「今日は僕たち四人は交渉しに行くから大和は修行しててね」

「分かりましたけど、素振りとかしてればいいですか?」

「いや、こいつらに修行をつけてもらってて」

そう言ってけいは狼と狐を指さす。


「あれ? そういえば昨日いつの間にかいなくなってましたけど、この子たちはどこにいたんですか?」

「僕と恭介の影の中に隠れてたね。こいつら連れて街中歩くわけにはいかないでしょ」


「へぇー。すごいですねこの子たち。さすが神様。あ、そういえば名前を聞いてなかったです」

「こっちが小太郎、こっちが凛」

どうやら狼の子は小太郎で、狐の子は凛というらしい。


「お二人ともよろしくお願いします」

大和は小太郎と凛に丁寧に頭を下げた。

凛の方はすまし顔で大和を見ている。

小太郎の方は大和に擦り寄った。


「あれ? なんか懐かれてるね」

「なんででしょうか?」

「んー。あ、大和って苗字大神だったよね?」

「はい。大神大和です」


「日本語の狼の語源は大神って説があるらしいよ」

「そうなんですか?」

「ほら狼って畑を荒らす猪とか鹿とか狩ってくれるじゃん? だから畑を守る存在ってことで崇められてて、狼を神として祀る狼信仰とかもできたりしたんだよ。もしかしたら大和って狼と縁があるのかもね」


「はぁー。確かに小さい頃から狼結構好きですけど。えっと、それで結局この子たちに修行をつけてもらうってどういうことですか?」

「こいつら魔法使えるんだけど、それを躱したり防いだりしてて」

「アバウトですねー。分かりました」

「ちゃんと休憩しながらやれよー。ほんじゃなー」

「はい。いってらっしゃい」



 それから大和は押入れの中に入り準備運動をした。

「よし! 始めましょうか。改めてよろしくお願いします」

大和が頭を下げると、真似するように小太郎も凛もお辞儀した。

大和が木刀を握る。

二匹と大和は少し距離をとった。


五秒程見合っていると、突然二匹の頭上に茶色の線で描かれた魔法陣が出現した。

「おぉっ!?」

大和はそれに驚いたと同時に空気の塊のようなものに押され尻餅をついた。


「えっと。これを避けたり防いだりするのか。なるほど」

大和は素早く立ち上がり、また木刀を構えた。

今度は空気の塊を木刀で受ける。

手が痺れたがなんとか倒れることはなかった。

「でもずっとこれじゃ手がえらいことになるな。上手に受け流さないと」



 それから一時間。

ひたすら避けて、防いでを繰り返した。

「はぁ、はぁ、なんとかコツは掴めてきたかも」

ほとんど手に負担なく受け流すことに何度か成功した。

あとはこれを毎回できるようにするだけだ。


そう思って次の魔法を受け流そうとしたとき、足がよろけて受け流しに失敗した。

そして木刀が折れてしまった。

「ありゃま。でも大丈夫! コレクト!」

大和が得意げにそう言うと、木刀が元通りになった。


「ん?」

大和はあることに気が付いた。

木刀は二つに折れた。

そして大和は手元にある方にコレクトしたのだ。

すると足元に転がっていたもう片方は消えてしまった。

「これは……」


ということは、もし俺の腕が切断されてその切断された腕に向かってコレクトすれば、今の俺が消えてその腕の方に体が生えてくるってことになるのではないだろうか。

「こわっ! 帰ってきたら日向に相談してみよ……」

その後はたまに休憩を挟みつつ受け流す練習を続けた。



 何時間経ったのだろうか。

ここは時計もないただの真っ白な空間なので今が何時なのか分からない。

大和は無心で修行を続けていた。


「大和ー。帰ったよー。お? 今日ずっとやってたの?」

「……ん? あ、帰ってたんですね」

「やっぱ根性あるね~。手みせて」

「? はい」


大和は不思議に思いながら手を差し出した。

そして驚いた。

大和の手はプルプルと震え、マメが潰れ血が出ていた。

「あ、全然気づきませんでした。こんなことになってたんですね」

「流石努力家だね」


「かっこ悪いですね。こんな情けなくプルプル震えてるのみると悲しくなります」

大和はそれがまるで恥であるかのように素早く手を引っ込めた。


「いやいや。努力の証でしょ。どうする? テーピングしとく?」

「風呂上がってからにします。とりあえず風呂行ってきます」

「分かった。体マッサージしとけよー」

「はーい」


大和はふらつきながら温泉に向かった。

「小太郎も凛もお疲れー。頑張ったねー」

けいは二匹の頭を撫でた。



風呂から上がった後みんなで集まった。

「テーピングしてるね。頑張りすぎた?」

「俺の体が弱いだけです。そんなことよりコレクトについて質問したいことがあるんですけど」


「昨日検証の途中で終わったしな。私も気になってる」

「俺の魔法って壊れたものを元に戻せるじゃないですか。それで今日も木刀が折れる度にコレクトで直してたんですけど、木刀が二つに折れたとき、片方にコレクトするともう片方は消えたんですよ」


「ほーん」

「これって、例えば俺の腕が切断されてその腕に対してコレクトしたら、俺の体は消えてその腕から体が生えてくるってことでしょうか」


「んー。多分そうはならんな。上手く説明できる気がせんけど、せやなー。コレクトって状態異常を治すんやろ?」

「はい。状態異常を治して、状態を正常にするのがコレクトです」


「その場合やったら正常じゃないのは切断された腕じゃなくて大和の体やん?」

「……んーそうなるんですかね?」


「せやから多分切断された腕にコレクトしたら消えるんはその腕やと思う。そんで大和の体が元通りになるはず」

「なるほどー。……そうですね。確かにそうかもしれないです。なんか安心しました」


「てか確かに大和自身にコレクトしたらどうなるんやろな。それは試してないん?」

「あ、そういえば試してないですね」

「昨日は日向の魔力が回復したよな。ってことは自分の魔力も回復すんのかな」


「それができたら最強だな」

「コレクト」

大和は胸に手を当ててそう呟いた。


「……見たとこ魔力は回復しとらんな」

「そりゃそうか。それが出来たら質量保存の法則が壊れる。やっぱ無から有は生み出せないんだな」

「いや結構壊れてると思うけどな。昨日私が回復した魔力量は大和が消費した魔力量より遥かに多いし」


「そもそも自分には効果がなかったんですね。さっきのは杞憂でしたね」

「ん? 大和、テーピング外してみて」

「さっき巻いたばっかなんですけど……」


大和がテーピングを外す。

すると大和の手に先ほどまであった潰れたマメは無くなっていた。


「あ、体にはちゃんと効果あるのか」

「いよいよわけわからんな」

「あれ? これは今日の努力が消えちゃったってことですかね?」

「別に時間を戻したわけやないやろ。体の状態を正常にしただけなんやから今日の努力はちゃんと成長に繋がってるはずや」

「それなら良かったです」


「思ったより色々使えるみたいだね」

「大和結構強いかも」

「仮にも召喚された勇者ですからね。……勇者といえば、勇者にしか抜けない剣って剣身がまだ地面に刺さってるんですよね?」


「……あ、そっか! コレクトで直せるのか!」

「やっぱりそうですよね!?」

「ほんとやな。次の目的地の国やしちょうどええな。勇者の剣のとこ寄って行こうか」


「やったー! やっと勇者っぽくなれるぞ!」

「良かったな大和」

「はい! めっちゃ嬉しい!」

大和は全身で喜びを表現していた。

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