友情の始まり

 大和の魔法について新しいことが分かった。

どうやら壊れているものを元に戻すことができるようだ。


「大和、どういうことなの?」

「多分木刀にとって折れているのは状態異常ってことなんだと思います。だからコレクトで正常な状態に、つまり元通りにできた」


「んー。なんか納得いかないな。わけわからん。コレクトについては色々検証が必要だな。魔法のことならやっぱ日向を交えた方がいい。あとで相談してみるか」

「そうだな。とりあえず、風呂行くか。ここの温泉有名なんだよ~」

「楽しみです!」


大和のコレクトについては一旦置いておいて、温泉に行くことになった。



 「おー! すごいですねー! にごり湯じゃないですか」

「いい雰囲気だな。落ち着く」

「温泉とか久しぶりだ」


「ふぃー。いい湯だなー」

「だなー」

「それにしても、二人とも鍛えてますねー。俺も大概鍛えてるつもりでしたけど、二人に比べるとまだまだですねー」


「いやいや。僕たちは先生にバチボコに鍛えられたから勝手にこうなっただけで、大和は自分を変えるために自分の意志で努力した結果でしょ? 立派だと思うよ」


「そうですかね。そう言われると素直に嬉しいですね。ありがとうございます。へへ」

大和ははにかんだ。


「そういえば、改めて考えてもほんと災難だったね。気づいたら違う世界にいるとか」

「ほんとだよなー。ごめんな。こっちの世界の都合で勝手に召喚したりして」


「けいが召喚したわけでもないですし、どうせ俺はあのままだったらいつか駄目になってたと思いますよ。変わろうと努力はしてましたけど、何も状況が変わる気配はなかったですし。ギリギリ心が折れてなかっただけで、そろそろ限界だとは思ってました。何か自分を取り巻く環境が一変するようなきっかけが欲しかったんです。ちょうど良かったんですよ」

「そっか……」


恭介は大和に何か言おうとしているが、言うかどうか迷っているようだ。


「えーっとな。言うべきか迷うんだけど」

「何ですか? なんでも遠慮なく言ってください」

「そうか。じゃあ言うけどさ。色々相談してくれていいんだよ?」

恭介は真剣な顔つきでそう言った。


「相談ですか?」

「うん。隠してるつもりかもしれないけど、大和ずっと空元気でしょ? 初めて話した時からずっと感じてたんだけど、なんか誤魔化してるようにしか見えない。会ったばかりの関係だし、信用できないのはしょうがないのかもしれないけど、僕たちこれから一緒に旅する仲間でしょ? 悩みがあるなら相談してほしい」


「……バレてましたか。すみません。これじゃまるでかまってちゃんですね。分かりやすかったですか?」

「いや、上手に隠せてたとは思うよ。多分ずっとそうやって周りに心配かけないように生きてきたんでしょ?」


「何でわかるんですか? そういう魔法?」

大和は観念したように苦笑いしながらそう聞いた。

「違うよ。強いて言うなら昔の自分たちに似てるからかな」


「確かに恭介はそんな感じだったな」

「天姉もね。まぁとにかく、大和の空元気には多分天姉も日向も気づいてると思う。だから、安心しろ。お前の苦しみに、僕たちはちゃんと気づいてる」


「ぶちまけたいことがあったらいつでも言ってねー。師匠である僕が聞いてあげるよー」

それを聞いた大和は一瞬固まったが、すぐに目を逸らした。


そして

「……はい。……あの、俺ちょっと、のぼせちゃった、みたいでっ。涼んできていい、ですか?」

そっぽを向きながら震える声でそう言った。


「ああ。僕たちはもうちょい入ってる。ゆっくり涼んでこい」

大和は顔を背けたまま黙って頷いて風呂を出た。


「なんか大和見てたら昔を思い出して勢いのまま言ってしまった。本人が隠してたんだし余計なことだったかも。やっぱ言わんほうが良かったと思う?」


「どうだろうな。少なくとも僕には正解だったようにみえたけど?」

「そうか。それなら良かった」

「恭介って冷静にみえるけど割と感情的なとこあるもんな」

「うっ。分かってるつもりなんだけどな」


「いや、そこが恭介の良いところでもあるし。多分大和にもちゃんと伝わってる」

「だったらいいな」


風呂から上がると大和が椅子に座って呆然としていた。

大和はこちらに気づくと少しだけ微笑んだ。

大和の目は少し赤くなっていたが、それには二人とも触れなかった。



 風呂から上がったところで、けいたちは天音と日向が泊まる部屋を訪ねた。

そして二人に大和の魔法について新しく分かったことを説明した。


「マジか。そもそもわけわからん魔法やったけどいよいよ意味不明やな。魔法陣が起動できんかったのもやっぱ気になるし。ちょっと詳しく調べてみてもええか?」


「はい。全然良いですけど、何すればいいんですか?」

「私にコレクトしてみてくれへん?」

「わかりました」

大和は日向の肩に手を置いて魔力を込める。

「コレクト」


「ん? コレクトって声に出して言った方がいいの?」

「うっ。いや別に言わなくてもできますけど、なんか気分アガるじゃないですか」


「天姉の場合は魔法陣使うからあんま分からんかもしれんけど、魔法ってイメージが大事なんよ。声に出すことで、自己暗示やないけどそんな感じで自分の中で方向性を定めるのに良かったりするんや」

「へぇーそうなんだ」


「そうなんですねー。なんかかっこいいかなって思って言葉にしてましたけど、まさか効果があったとは」


「いや、そんな話はどうでもええねん。えーっとなー。結論から言えば、大和はコレクトしかできないと思われる」

「え、どういうことですか?」


「なんかな? どうも魔力の性質が違うっぽい。魔力の量自体は十分足りてるのに、初心者用の魔法陣すら起動せんかったのはそれが原因みたいやな」

「性質が違うって?」


「そのままの意味や。そうやなー。電源周波数が違うと家電が使えんかったりするやん? そんなイメージかなー」

「んー。よくわかりません」


「まずは魔法っていう現象の正体についてやな。この世界には、あらゆる場所に満ちてるマナっていう物質があるんやけど、マナは魔力を込めることで性質が変化するんや。そんで魔法ってのはマナに魔力を込めることで、マナが炎だったり水だったりに変化する反応が起こってるってことなんや。つまりマナが家電で魔力が電源ってことやな」

「なるほどなー」


「ちなみに魔法陣だったらどんな性質にマナを変化させるのかってのを決める必要がない。魔法陣自体がそれを表現してるからな。魔力を込めればそれを蓄積して、勝手に魔力を調整して放出してくれる」


「それってどんなメリットが?」

「魔力を調整する必要がないから才能がなくても魔力さえあれば魔法が使える」

「ほーん」


「でも魔法陣ってあんま小っちゃかったり、雑やったりしたらエネルギー変換効率が悪くなって必要な魔力が膨大になるけどな」

「小さいのもダメなんですか。でかい方がいっぱい魔力がいりそうですけど」


「でかい方が演算が効率化されるとかなんとかかんとからしいで。まぁ話が逸れたけど結局」

「俺はどんだけ努力して魔力の量が増えても」

「コレクトしか使えんっちゅうことやな」


「つらい。でも! 今日コレクトに新たな可能性を見出しました! 使いようによっては結構良いかもですよ!」

「そう。そのコレクトなんやけど、すごいかもしれんで」

「何がですか?」


「私、けいのこと空間魔法のテレポートで迎えに行ったやん? 距離が距離やったから結構魔力消費してて昨日今日ずっときつかってんけど、大和のコレクトで魔力が回復した」


「……ん? なんで?」

「多分コレクトって魔力が少ない状態も状態異常として正常にするんやろうな」

「は? なにそれズルくね?」

「でもな、ほら見てみ」

日向が大和を指さす。

大和はうつらうつらしている。


「多分魔力の消費は結構激しいんやろな。もう魔力がきれてる」

「あれ? なんか、すごく、眠いです……」

「ここで寝んなよ。ここ女部屋なんやからな」

「ふぁーい」


「とにかく、検証は明日に持ち越しやな。今日はもう休ませたって」

「わかった。んじゃ部屋に戻る。おやすみ」

恭介が大和を肩に担ぐ。

「「おやすみー」」


部屋に戻る途中。

寝息を立てている大和に恭介が

「良かったな。もしかしたらお前ヒーローになれるかもしれないぞ」

と言った。

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