思っていたのと違う未来

「先生、本当に本当にメメがここにいるんですか?」

「いますよ。どうぞ、どうぞ」


うるさいなーーと思いながら起きる。

ここから、時計が見えないのは入院しているみんなへの配慮だろうか?

ただ、空気の匂いで早朝を表しているのがわかる。

多分、掃除をする為に窓を開けているのだろう。

一定の温度を保っているのに、時々朝の匂いがやってくるんだ。


「ここにいますよ。でも、さっき連絡したのに随分と早いですね」

「今日は、ずっと探したいって仕事が休みだから……。それで、寝ずにメメ君を探してたんですよ」

「そうでしたか。それで、慌てて来られたんですね」

「ちょうど、この近くを探していたんです」


誠一の声が聞こえたと思った瞬間だった。


「メメ。メメ。生きてた。よかったーー」


沙羅ちゃんが、目の前に現れた。

その顔は、ぐちゃぐちゃで。

たくさん泣いていたのがわかる。


「ごめんね、ごめんね。もう鳴かないから嫌だとか言わないから……。メメがいなくなる方が嫌だから。だから、帰ってきて。お願い」

「よかった、メメ君」


僕が想像していた未来とは違ってびっくりしてる。


「よかったね、メメ君。お母さんが来てくれて」


院長先生は、僕にだけわかるようにウィンクをした。

ありがとう、院長先生。

僕も、院長先生にだけわかるようにウィンクをする。


「それじゃあ、出しますよ」

「お願いします」


院長先生は、僕をゲージから出すと沙羅ちゃんの腕に引き渡した。


「もう、勝手に外に出ちゃ駄目だよ」

「……」

「本人は、鳴いてるつもりなんですよ。だから、お二人が頭の中でメメ君の声を想像してあげて下さい」

「はい」

「わかりました」


院長先生の言葉に沙羅ちゃんと誠一は、頷く。

僕は、沙羅ちゃんと誠一が住む家に帰宅した。

ここに帰ってくるまで、沙羅ちゃんがずっと僕を抱き締めてくれてた。


僕は、もうここに帰ってくる事はないんだと思っていたのに……。


「メメ。今日は、私が朝ご飯入れてあげるね」


沙羅ちゃんは、僕に朝ご飯を入れてくれる。

そうそう。

これだよ。これがやっぱり美味しいんだよ。


「やっぱり、沙羅のご飯が美味しいって喜んでるね」

「そうかな?」

「そうだよ。俺があげた時よりも食い付きがいいよ」


当たり前だ!

誠一よりも、沙羅ちゃんといる時間の方が長いんだから!

でも、誠一のご飯も悪くなかったぞ。


「メメ、これからも一緒にいようね」

「一緒にいよう。メメ君」


仕方ないなーー。

二人がそんなに言うなら、一緒にいてやってもいいよ。


「……」

「聞こえた、メメの声」

「俺もだ。沙羅ちゃんが見せてくれた動画の声が聞こえたよ」

「そうだよね。こうやって、頭の中で想像すればいいんだよね」

「そうだな。メメ君はちゃんと鳴いてるんだ」

「そうだね」


楽しそうに二人が笑ってる。

沙羅ちゃんも幸せそうだ。

よかった。

よかった。

本当によかった。







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僕が神様にあげたもの 三愛紫月 @shizuki-r

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