化け物と愉快な集団

 山の麓から複数の気配を感じる。それも普通ではない力の持った者たちだ。仲間たちにも普通ではない力を持っていた奴はいたが、それとはまた別の力。


「もうあいつらが?いや…何か奇妙な力を感じる。となると、一体何者だ?少し様子を見てみるか…」


 近くに生えていた樹齢500年以上はありそうな大木を登り、気配を感じた麓の方へ目を向けるが…いない。

 その代わりに何か巨大な化け物が木を薙ぎ倒しながらこちらへ向かってきているのが見えた。


「…なんでこっちに来るんだよ。もしかしてここがあいつの住処なのか?」


 そう考えている内に木が薙ぎ倒される音が近づいてくる。

 やがて前方にあった木が倒され、巨大な化け物の姿が現れる。


 それは……牛の頭と蜘蛛のような体が合わさった中々にキモい姿をしていた。研究所に居た時に読んだ『妖怪辞典』に載っていた『牛鬼』と酷似している 。

 読んだ時はキモすぎて「え、きも」と口に出してしまうぐらいにはキモかったのを覚えている。


「妖怪って空想上の生物だったんじゃないのかよ…もしかして俺が間違ってるのか?……本で見たやつよりはまだマシだけどやっぱキモいな…」


 キモイ、そう呟やくと牛鬼の顔がみるみる悍ましくなっていく 。


「まさか…言葉が分かる?…それだけ高度な知識を持ってるいるとは…」


 しかし、言葉だけが分かるようで、話しはしない。もしかしたら話せるのかもしれないが…今のあいつじゃ無理だろう。何故ならあいつはめっちゃ顔真っ赤にしながらこっちに突っ込んでくるからだ。


 ……つっこんでくる?おい待て


 地面を振動させながら、巨体が目の前に迫り来る。ギリギリで避けるがすぐにこちらへ方向転換し、突っ込んでくる。…正直アトラクションみたいで楽しい。アトラクションなんて乗ったことないけど。


 とまあ、続けていく内に、俺は飽きていた。

 単調な動きしかせず、考えもなしに突っ込んでくるだけ。最初に怒らせなければもっと楽しめただろうが……これは、そうだな、研究所にあった辞典で読んだあれだ──『時すでにおすし』だ。


 ……正直言って。初めて見た生物1号として生かしといてやったのだ。


 再度、牛鬼が文字通り鬼の形相で突っ込んでくる。それに俺は真正面から牛鬼の角を掴み、そのまま腹が見えるようにひっくり返す。牛鬼は何が起きたか分からず目を白黒させる。

 馬鹿力はこういう時に役立つのだ。え?力は使わないんじゃないのだって?これは命の危機だからノーカンだよノーカン。全然命の危機じゃないけど。

 そんな馬鹿みたいな言い訳をしていると、牛鬼がじたばたと藻掻くが……


「…意外と力は弱いな。まあ、んなことどうでもいいや。どんぐらい硬いのか確かめさしてもらうよ」


 拳に力を込める。せーのっ!という掛け声と同時に牛鬼の腹目掛けて勢いよく打ち込んだ。

 拳が腹に直撃すると──次の瞬間、辺り一帯が紫色の血で染まった。

 牛鬼があまりに強すぎる力に耐えきれず、破裂したのだ。かろうじて頭は残っているようだが、それ以外は全て吹き飛び、死んでいる 。


「なんだ、あんま硬くないじゃん。期待して損した」


 手に付着した血を振り払い、この場から去ろうとする。が、複数の走る音が聞こえてきた。それも麓で感じた気配だ。


「……少し観察してみるか」


 どんなやつらか気になり、観察するために自分自身の気配を消す。

 走る音が近づいてき、止まった。

 そこに居たのは女3人と男3人の集団だった。

 そのうちのリーダーらしき女が周囲を見て、ありえないという表情をしながら口を開く。


「一体誰が、牛鬼を殺したの?それもこんな惨たらしく…」


 俺です。俺がやりました。っていうか惨たらしくは殺してない。潔く一発ワンパンだ。


「これ、もしかして一発でやったんじゃないのか?一箇所にだけ血が大量に溜まっている。」


 理解者がいて、うんうんと頷いている俺に危機が訪れる。

 リーダーらしき女の後ろに居たごつい男が気配を消しているはずの俺を見据えていたのだ。


「そこに居るのは誰だ?出てこい」

「ッ!?」


 なぜバレた!気配は完全に消していたはずだ。なのになぜ…


 言っても出て来なかったからか、男に苛立ちの様子が感じられた。女が困惑しながら男の方を見ている。


「落ち着いてください。誰か居たのですか?」

「あぁ、気配を消しているようだが…俺には見えるぜ」


 あいつらから感じる奇妙な力によるものだろうか。まあ今はそんなことはどうでもいい、出ていくか?いや、色々聞かれたら面倒だ。いっその事逃げるか?恐らく俺のスピードには着いて来れないだろう。しかし、それで敵対していると思われたらそれもそれで面倒だ。


 どうするべきかと頭を悩ませていると、俺の頭上を何かが掠めた。

 上を向くとそこには…KA☆TA☆NA☆

 こっわ、殺意マシマシじゃん。


 ドスの効いた声で男が話かけてくる。


「出てこねぇなら、殺す。分かったらなら早く出てこい」


 痛いのはもう懲り懲りだしなぁ。ちょっとだけ姿現してすぐ逃げよう。うんそうしよう。


 流石に顔を晒すのはまずいと思い、そこら辺にあった土を拾い、力で圧縮して仮面のような形にする。


 …なんかこれだと淡白すぎてやだな。顔でも描くかと思い、指でゴリゴリと削っていく。


「よしできた。これで大丈夫だろ」


 顔を描いた仮面を付け、気配を消すのをやめる。

 集団は突然現れた俺の姿を目視し、警戒を強めた。


「やっぱり居やがったか…お前は何者だ?」

「さぁ?俺自身も俺についてあまり分かってないんだよね」


 実際そうなのだ。俺は自分が何者なのか分からない。人外の力を持っているが、本質はちゃんとした人間なのだ。だからこそ、この質問の答えは『分からない』なのだ。


 男が俺に回答で更にイラついたのか。掴みかかろうと、俺に走ってくる。かなり速いが、俺には到底追いつけるような速度ではなかった。


「質問一個答えたし逃げてもいい?」

「一個で済むと思ってんのかよ!」

「確かに…」


 ま、そんなこと知らないけどね。というか、もう疲れたから逃げよう。うん。明日も逃げないといけないし。


 男に背中を向け、全力で走り出す。男も俺が逃げ出すことを感じたようで、速度を上げるが…


「おい待て!ッ?!速いっ!」

「それじゃ、さいなら」


 後ろを向いて手を振ると、男は顔をさっきの牛鬼のように真っ赤にさせながら鬼の形相をしていた。


 クソがああああという叫びが聞こえたのは恐らく気の所為だろう。


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 えちょまです

 昨日書くつもりが寝落ちしました。まじごめんなさい。

 空星くんは全世界の言葉を話せます。やったね(((o(*゚▽゚*)o)))

 途中空星くんがKA☆TA☆NA☆とか言ってましたがあれは研究所の仲間たちから教えられたものです。

 あと闇隠PV5000感謝ァ!あんがいございます!

 それじゃ

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普通じゃない人達が住むアパートの管理人になりまして えちょま @mepuru127

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