第11話・姉の助言
「これ着てよ」
ある日。姉貴が大きな紙袋を渡してきた。
「駅前の塾に通ってるんでしょ。朝は私の知り合いも駅使うし、見られたら恥ずかしい格好しないで」
そこまで酷い格好をしているつもりはないけど。
渡された服はどれも黒かったから着てもいい。
「あと、明日の塾の後に寄れるように歯医者の予約しておいたから」
「はあ?」
「ちょっと口閉じて。あんた息臭いのよ。歯周病かもしれないから歯医者に行ってきて」
医者に行けと言われるほど俺は臭かったのか。
あまりのショックに言い返せない。
しょんぼりと歯医者に行ったら、歯周病ではなく小さな虫歯がいくつか見つかった。
しばらくは歯医者通いが必要だ。
「このあと歯医者なんですよ。最悪。早く帰ってテキストやりたいのに」
指導中につい愚痴ってしまうのは許して欲しい。
今は1分1秒が惜しいんだ。
「虫歯の治療は早めがいいよー。試験の直前に痛みが出たら最悪だろ。これから寒くなる。体調管理には今まで以上に気をつけなきゃいけない」
講師から歯の治療の大切さをこんこんと説かれ。
俺は不満を飲み込まざるを得なくなった。
「歯の健康が食を楽しむうえで大切だと言われるけど。その理由を英文で答えられるように考えてみて。明日、その答え聞くから」
歯の健康と食。
そもそもどちらにも興味がない。
歯がなくなれば、入れ歯にすれば良い。
食事も面倒だから最近はエンシュアを飲んで終わることもあるぐらい。
俺は食べることに無頓着だ。
それでも、それが宿題なら。
俺は考えなくてはならない。
結局良い答えが思いつかなくて。
治療が終わったあと歯医者に聞いたら。
ジジババ向けのパンフレットをもらえた。
その中身を要約して英訳したら宿題の完成。
入れ歯の噛み合わせが悪く、食事を満足に取れなくなると鬱になることもあるらしい。
俺は鬱になんてならない自信がある。
それよりもエンシュアの空き缶を母親が嫌がることのほうが、よっぽどストレスだ。
家で捨てにくくなって塾の行き道で寄るコンビニで捨てていたら、余計に怒られてヘドが出る。
結局、あの人は自分の対面ばかりを気にして生きているんだ。
父さんがエンシュアによく似たパウチ入りのラコールを買ってきてくれた。
これは素晴らしい。
ゴミはティッシュに包んで捨ててしまえば中身は分からない。
これで文句はないだろう。
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