第4話 不可思議な日常

ふぁー……。もう朝か。昨日は大変だったな。本当に夢でも見てた気分だ。


「考えても仕方ない。今できることをやろう。今日は幽霊の声について調べていこう。その前に……珈琲を入れないとな!」


 俺はいつも集中したり、リラックスしたりする時にコーヒーを飲む。あの鼻から抜ける香ばしい豆の香りと上品な漆黒色。ブラックでもミルクでも砂糖を入れても美味しい。


 お湯を沸かしてる間にコップにインスタントコーヒをセットする。ペーパーフィルターに豆がはいってるやつだ。それからお湯を少量注ぎ20秒ほど蒸らす。そこから数回に分けて注いでいく。糖分も欲しいから今日は甘めのコーヒーミルクにしよう。

 なんでインスタントかって?楽じゃん、、。そっちの方が。まあ次はしっかり淹れるよ。

 


ズるッ……

 

「美味いねーやっぱ。飲みながら調べよう」


 俺は自室のパソコンを使って黙々と調べていく。

 

カタカタ……


「んー。幽霊の声はマイクロ波幻聴効果?電子レンジは水を振動させるが幽霊の場合は頭蓋骨の振動……。音声をマイクロ波の代わりに照射すると、頭内部の衝撃波が耳の神経を揺さぶり、言葉のような音を聞かせる……か」


 鈴の音ってどうすんだよ。あんな鮮明に聞こえるかな?あーーくそ。調べてもわかんない。


 なかなか鈴の音現象の原因を探ることが出来ず行き詰まっていたとこでコーヒーを口に運んだが、、。


「あれ? もうない。おっかしいな......それほど集中してたのか。いつもはブラックだったが今日は甘いからすぐ飲んでしまったな」


 もう一杯飲みたいところだがカフェインの摂りすぎは良くないのでやめておく。


 作業をしているうちにお花を摘みたくなってきた。何かに没頭するとついつい我慢してしまう。


「ふぅ。そういえばコーヒーには利尿作用もあったな。」


 しかし、ここで危機が迫っていた。


「やばい……。紙がない……」


 くそ! どうすれば、、。幸い大の方ではないため何とかなるが……。確認しておくべきだった。


 俺は最終手段として湯切りをした。本当は紙が欲しかったが……。



 ふと時計を見るともう午後6時に回っていた。夕飯は簡単に野菜炒めにしよう。



「よしっと。できたできた。いただきます」


「ブフッーー! あ、甘いぞこれ。ま、まさか」


 塩と砂糖を間違えてしまった。なんだその漫画みたいな間違いって感じだ。素材の味を生かすため醤油は入れずに塩(砂糖)と胡椒で味付けしたため甘い。


「はぁーー。今日はついてないな。変な間違いもしてしまうし」


 何とか甘い野菜炒めを食べ終わり食器を運ぼうとした時、、


 ーーバリン!


 突然皿が割れた。俺が落としたのではない。食器棚にあったはずの1枚の皿が床に落ちて割れていた。


「・・・・」


 はは……。 小さい地震だ。地震。食器棚から落ちそうな場所にあったから揺れが伝わって落ちたのか。


「まったくもう。片付けが大変じゃないか」


 自分に言い聞かせるように呟き、割れた皿を片すため塵取とほうきを取りに行き戻っててきた時、空いた口が塞がらない状態だった。


 そこにはありえない光景が目に飛び込んできた。


 誰もいないはずのリビングに紙とペンが浮いていた。 いや、意味わからん。


 何やら紙に文字を書いているらしい。紙にはこう書いてあった。



 〔お皿割っちゃってごめんなさい〕



「いいよいいよ。気にしないで。次は気をつけてね」


 〔うん!おにーさんありがと!〕


 なんだ素直に謝れるいい子じゃんか。


 じゃなくて、ついに俺の頭はおかしくなった。情報がまとまらず自然に反応してしまった。


「病気だ俺は。幻覚幻聴。フルコンボだ」

 

〔おにーさんは病気じゃないよ〕


「そうか? 最近変な鈴の音が聞こえてきたり、今日だって普段しないミスも連発するし」


 現に紙に書かれた文字とお話してるし。


「これも夢だ。夢って分かる妙にリアルな夢だ」


 〔まだ信じてくれないの?〕


 信じるも何もありえないからな。ものが宙に浮くなんて。重力さん仕事してますか?


 〔じゃあ見てて〕


「見るって何を…………」



もう驚くことも出来なかった。

 床に散らばった皿の破片は宙に浮き、不燃ごみの容器に入り片付けられた。


 〔ね!〕

 

 ね! じゃないよぉ。どうすんだよ……。こんなの見たら証明も糞もないじゃん……。


 三つ星シェフに安い豚肉をいい感じに加工してA5ランクの黒毛和牛です。って言ってるようなもんだ……


こんなありえないことが起こってるってことは今までの変な現象もこいつが原因か?



 「じゃあ鈴の音の原因は君か?」


 〔うん。あとぜんぜん気づいてくれないから少しイタズラしちゃった〕


 イタズラ? おいおい……。今日の変なミスって俺じゃなかったのかよ!勝手にコーヒー飲んだり、トイレットペーパー無くしたり、砂糖と塩入れ替えたり。地味に嫌なイタズラだな!


 〔これで信じてくれた? 私のこと〕


 これ以上言い訳出来ないし思いつかない。信じるしかないのか…………。幽霊を科学的に証明してやるという硬い意思は綿の如く引き裂かれた。


「もうイタズラはするなよ。元気でな」


 (何言ってるのおにーさん。しばらくここにいるよ)


  へ? どういうことだ。 それってつまり俺憑れるの? なんかこう……霊界とかに帰るんじゃないのか?? というかこの霊何者なんだ。


「そもそも君はどっから来たんだ? 幽霊って言っても何者なんだ?」


 俺は改めて疑問を口にする。


 (ぷっ……ククク……どこ向いてるの? それ、冷蔵庫だヨ……)


「分かるかー!こっちは見えないんだから仕方ないだろ。どっか定位置にでもいてくれ」


 

 (声は聞こえるのにすがたは見えないの?)


 

 声? そういえば筆談でのやり取りはどうした?いつから聞こえてるんだ?俺の頭の中に直接流れてくる不思議な感覚。



「ああ、もう訳分からんよ。今日は情報量が多すぎる。もう寝るとするよ。明日サークルメンバーに相談したいから付いて来てくれるか?」



 (わかった!憑いていくね!おやすみ、おにーさん)



「ああ、おやすみ」



 久しぶりに誰かからおやすみを言われた。大学のため京都に引っ越してからずっと1人だったしな……。



 強烈な眠気が襲い、なんだか懐かしい気持ちに浸りながら俺はゆっくりと目を閉じた。

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