第24話 室矢重遠の娘たちの女子会

 未来へ戻った、りょう愛花莉あかり


 室矢むろやカレナに自分が消滅しないと太鼓判を押されて、一気に疲労を自覚する。


「つ、疲れましたわ……」


 自宅で泥のように眠っていたら――


 軽快な電子音が、メロディーを奏でた。


 寝ぼけたままで触り、スマホのロックを解除。


 画面を近づける。


「ふああ……。誰が……ぴょっ!」


 

 ――東京にある千陣せんじん流の拠点


 都心とは思えない、見事な庭と一体化した日本家屋。

 そこを訪れた愛花莉は、案内の仲居に続き、しずしずと歩いた。


 板張りの廊下に段差はなく、摺り足に向いている。


 セミカジュアルの洋服を着た彼女は、少しばかり浮く。


 縁側から畳が敷き詰められた広間に出た。

 外に面している障子などは外されており、塀で囲われた中庭を眺められる。


 そこにたむろしていたのは、女子中高生ばかり。

 中央のテーブルを囲み、思い思いに座っている。


 案内役の女は、縁側で正座をした後で愛花莉の来訪を告げ、戻った。


 床の間に一番近い、当主がいるべき場には、シックな茶髪のロングで、同じく暗めのブラウンアイの女子高生。


 バリバリバリ


「来ましたか、梁愛花莉さん」


 ドオオォン! と、効果音がつきそうな圧力。


「ここへ呼ばれた理由は、もうお分かりですね?」


 ズルズル


 引きつった顔の愛花莉は、縁側で立ったまま、その女子を見た。


 サクサクサク


「せ、千陣さん……。それに、各流派の代表とも言える方々が、私なんかのために揃って――」

「アハハ! 惚けるのは止めなよ? 愛花莉ちゃんの霊圧がしばらく消えたことが、分かっていないとでも?」


 すぐ本題に入ったのは、佐伯さえきという女子だった。


 黒髪ロングに、コバルトブルーのような青の瞳を持つ女子小学生も、それに続く。


「しかも、全盛期のお父様と二人きりだったとは、どういう事ですか!? 母親を説得すれば、済むのでは?」


 上座にいる千陣が、すぐに発言する。


「やめなさい、天沢あまさわさん……。ですが、今の発言で、おおむね理解できましたよね?」


 ベリッ ザーッ!


 たおやかな、ヨーロッパ貴族のような女子が、場を取り成す。


「そろそろ、愛花莉さんを座らせては? 別に、この場は査問ではありませんし……」


 いかにも真面目そうな女子が、その隣で頷く。


北垣きたがきさんの言う通りだよ?」


 ため息を吐いた千陣は、首肯する。


「北垣さんと錬大路れんおおじさんが言うのなら……」


 仕草で促せば、愛花莉は魔法少女をやっていそうな女子の隣に座った。


 その間に、千陣はさっきからバクバクと食べている女子を見る。


南乃みなみのさん、手を止めてくれませんか? 今は、大事な話し合いです」


「オッケー!」


 茶髪のセミロングで、茶色の瞳をした猫っぽい少女は、軽い調子で応じた。


 パーツは詩央里しおりだが、性格は重遠しげとおに似たのだろう。



 ――30分後


「分かりました。自身の存在が危うかったのですし、二度とやらないのであれば、今回は不問に処しましょう」


 代表となっている千陣は、結論を出した。

 同席した女子からも、反対なし。


 生きた心地がしなかった梁愛花莉は、ホッとする。


 ようやく、テーブルの上に手を伸ばした。


「それにしても、やっぱりお父さんは最強だったのかー!」


 赤紫の瞳で、銀髪ロングの女子が、自分の感想を述べた。


 他の女子も、次々に話し出す。


「会ってみたい!」

「それは難しいかと……」


「私たちも、カレナに頼んでみる?」

「どうやって?」

「下手すると、逆に私たちが消えますね……」


 室矢家のハーレムで作られた、娘たちによる女子会は、ただの世間話へ。



 母親はそれぞれに自分が助けられ、協力して苦難を乗り越えた。

 けれど、娘たちは違う。

 将来的に、四大流派の名家として、政略結婚をする身だ。


 母親同士が仲良く、父親が一緒。


 この共通点により、繋がっているだけ。


 彼女たちの子供まで影響するが、そこからは室矢家の威光を利用するだけの世代へ……。


 室矢重遠しげとおがどれだけ強くても、所詮は個人だ。


 ビジネスの立ち上げでも、三代目でコケることが非常に多く、それでなくても事業の整理と今後を見据えた方針転換が求められる。



「今度は、京都のお菓子で――」


 ともあれ、重遠で始まって終わる室矢家も、全く意味がないわけではない。


 これまで接点に乏しかった四大流派を繋げたうえ、日本のピンチを何度も救ってきた。

 

「それで、お父さんは女たらし?」

「……服越しに抱きしめられただけで、危険ですわ」


 愛花莉の発言で、全員の手が止まった。


 ポツリと、誰かが呟く。


「そういえば、お父さんは睦月むつきたちに制服を着させて、一度に3人ぐらいだって……」


「今でも?」


「たぶん……」


 気まずい雰囲気になった。


「ぐへ~!」


 車に潰されたカエルみたいな声を出した南乃が、どさりと横に倒れた。


 千陣と似ている清楚系だが、もっと雰囲気が柔らかい、二条にじょうすみれの娘が、すぐにフォローする。


「お、お父さんにも、何か事情が……。じ、事情が……」


 室矢家の良心である菫の娘ですら、自分と同じぐらいの外見をした女子に制服を着させての運動会を全肯定するのは、少しキツかったようだ。


 涙目で真っ赤になったまま、必死に言葉を探す。


 呆れた愛花莉が、応じる。


「事情も何も、『ムラムラした』というだけでは?」


「年が離れすぎた弟や妹ができれば、不和の種になります! 外で遊ばないだけ、よっぽどマシですよ?」


「そうですね。お父様の相手をした数でも、嫉妬の対象になりますし」


 千陣と北垣は、冷静に受け流した。


 魔法少女になりそうな咲良さくらは、顔に縦線が入ったままで、突っ込む。


「というか、誰? この話題を振ったの……」

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