第三章 神々の黄昏 16節

【16-4】

「そしてその様な観点に立った時、三位一体という精巧なシステムは、神々が形成する共同体の在り方そのものをベースにして、設計されたのではないかという考えに至りました。父と子と聖霊は、等しく唯一の<神>である。即ち、<神>の集合体は等しく唯一の<神>であるという等式が成立するのではないかと考えました。更にキリスト教のシステムとしての精巧さは、<神>の抽象化と具象化とを、同時に成立させる機能を有していることです。人々は子であるキリストの像を礼拝することで、不可視の存在である<神>に祈りを捧げます。その祈りには、<神>への絶対的な尊崇の念が込められています。この様なシステムを通じて、数多の個体によって形成される集合体として一つの<神>は、全体の存在に必要なエナジーを、信徒から効率的に生成させることが出来るようになったのだと我々は考えました」

「汝のいう仮説は非常に興味深い。論理的で、おそらく事実に近いと推察される。吾は既に正確な記憶を失っているが、吾の記憶に残存している、吾等の共同体とキリスト教を信仰する人間との関係は、確かに多くの部分で汝の説明と一致していた」

「私もそれに同意します」

「ご賛同いただき、ありがとうございます」と、林は謝意を示した。そして、

「<神>は常に人々と共におわし、人々の行いを見ておられる。この事も、あなた方の共同体とキリスト教信者との関係性を端的に表しているのですね?」

と、二人に確認する。

「確かに吾等は常に人間と共生し、人間の精神からエナジーと情報を得ていた。そのことを汝が意味しているのであれば、汝の思考することは正しい」

林は蔵間の肯定を聞き、満足げな笑みを浮かべた。永瀬には林のその笑顔の理由が、何となく理解出来た。それは例えば、難解な数式の解答を得た数学者が感じる満足感の表現だろう。自然科学の学究の徒である永瀬にも、同様の経験があった。永瀬がそんなことをボンヤリ考えていると、林は永瀬に顔を向け、

「ここで永瀬先生に基本的なことをお聞きしたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」

と微笑を浮かべながら言った。永瀬は唐突な展開にどぎまぎしながら、

「は、はい。何でしょうか」

と慌てて答える。

「人は何故、<神>に対して尊崇の念を抱くと思われますか?」

答えに窮した永瀬は、

「<神>が偉大な存在だからですか」

と口にした後で、我乍ら間抜けな答えだな――と思い焦った。しかし林は、「仰る通りです」と彼の答えを肯定すると、静かな口調で再度語り始めた。

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