第三章 神々の黄昏 16節

【16-1】

切れそうだ。

馬鹿女子高生共。

横に拡がって、狭い道を塞いで、ぺちゃくちゃ騒いでるんじゃねえ。

のろのろ歩くな。後ろの人が通れねえだろうが。ここはお前等の専用道路か?

お前等と違ってみんな忙しいんだよ。早く職場に行って仕事しなきゃならないんだよ。

解かってんのか?

こうやってまじめに働いてくれる人たちがいるから、お前等はそうやって生きていられるんだぞ。

それなのに、そんな人たちの通勤を、お前等みたいな何の生産性もない馬鹿共が、邪魔していいと思ってんのか?

何でわざわざ横一列に並んで、ちんたらちんたら歩いてやがるんだ?

少しは遠慮して、道の端っこでも歩けよ。世の中に嫌がらせでもしていやがるのか?

下らないことで馬鹿笑いしてんじゃねえ。うるさいし、それに馬鹿丸出しだぞ。

わざわざ自分が頭悪いのを、宣伝しながら歩いてんじゃねえよ。

お前等が馬鹿なのは周知の事実だよ。今更言われなくてもみんな解かってるよ。

世界中が認識しているよ。気づいてないのはお前等だけなんだよ。

お前等は虫か?知能なんかこれっぽっちも持ち合わせてないのか。脊髄反射だけで生きてるのか。

食って、寝て、糞小便垂れ流して。それだけがお前等の生活かよ?

この先のお前等の人生なんか、手に取るように解かるぞ。

どうせ同レベルの禄でもない男に捉まって、ぶくぶく中年太りして、四六時中文句を垂れ流しながら、だらだら生きていくだけだろう。

何見てるんだよ。何でこっちを見やがるんだ。

何だよ。人を見て、くすくす笑ってんじゃねえよ。

お前等みたいな馬鹿に笑われる筋合いはねえよ。

何様のつもりだ?虫けらのくせしやがって。

片っ端から殴り殺してやろうか。

殴り殺してやる。

殺してやるぞ。

あんな馬鹿共は、生きている価値がない。殺してやる。

一人残らず殺してやる。

殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、…。


***

永瀬晟(ながせあきら)が腕時計に目をやると、時刻は午後3時を過ぎていた。

蔵間宅を訪れて既に2時間余りが経過していたが、永瀬にはそれ程長い時間とは感じられなかった。それは林海峰(リンハイファン)と蔵間顕一郎(くらまけんいちろう)たちの世界に完全に引き込まれてしまったからだろう。彼らの間で交わされた会話の中身は、永瀬にとって異世界の物語としか思われない、まるで現実味のないものだった。しかし、今や彼はその物語を完全に受け入れてしまっていた。

「さて蔵間先生、大変有意義なお話しを聞かせていただき感謝いたします。随分と長くお時間を頂戴し大変恐縮ですが、もう少しお話しをさせて頂いてよろしいでしょうか?」

林がそう言うと蔵間、正確には彼の精神世界にいる<神>は、

「それが吾等と関連することであれば、許可する」と応諾した。

「勿論です先生。これまでお聞かせ頂いたお話しから、我が教団が長年に渡って探求してきたテーマの解答が漸く得られると、私は確信しました。是非とも今日、その答えに到達したい」

そういう林の双眸に力が満ちているのを見て、永瀬は固唾を飲んだ。蔵間と美和子は黙って肯く。

「次に私が話題にしたいのは、我々人間と<神>とを繋ぐ架け橋とも言うべき、宗教についてです。」

「宗教?それは汝の所属する教団のことか?」

「いえ、私がお話ししたいのはキリスト教についてです。あなた方は嘗て、キリスト教を信仰する集団と共生していたのですね?」

「そうだ。吾もこの者も、この世界で個体として存在を始めた時から、キリスト教徒という人間の集団と共生関係にある共同体に所属していた。我々が最後に共生していた、ケネス・ボルトンとメアリー・ボルトンという夫婦もキリスト教徒であった。特にメアリーという人間はかなり熱心な、人間の言葉を借りるのであれば信仰心の厚い信者であった」

「やはりそうですか。我々は、キリスト教という宗教が、あなた方にとってどの様な役割を担うものであったか、一つの仮説を持っています。しかし、それについてご説明する前に、一般的な宗教についての考えから説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「それは興味深いな。続けることを許可する」

蔵間と同時に、未和子も肯いて是認した。

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