海底撈月

堕なの。

海底撈月

「無駄なことをしたい気分なの」

 そう言ってあなたは、裸足で海の中へ入っていった。それを心配そうに眺めれば、元気な笑顔で親指をグーに立ててきた。鏡花水月のような景色を目を細めて見る。私には眩しい清らかさだ。

「ほら、入って来なよ」

 私の手を引いて、海へと二人でダイブした。二人して転んで、そしてどちらからともなく笑みが零れる。まるで青春時代のワンシーンだ。

「冷たいねぇ〜」

 そう言って笑う君は純粋だ。一切の濁りのないその瞳にたじろいでしまう。あなたの瞳に、私という穢らしい存在は映ってはいけないような気がする。

 あなたは水を何度も掬っては海に戻す。後ろからではよく見えなくて、あなたの隣に立った。月に手を向けて、掌から零れ落ちていく水とあなたの姿が神聖で犯し難いものに見えた。

「ねえ、私のこと、神様か何かだと思ってない?」

 図星を突かれて、動揺したのを悟られたらしい。あなたは口元に手を当てて苦笑した。

「そんなことないよ。私も、あなたと同じ人間なんだよ」

 そんなはずがない。あなたのその美しさと、現世の物とは思えない、幻想的な雰囲気に魅せられたのだから。

「私はあなたと友だちになりたいの」

 あなたは頷くしかないことを分かっていて、私に選ばせる。目を合わせられれば、逸らせないまま時間が過ぎる。

「無駄でしょう? 海面に映る月を拾おうとするなんて」

 その行為ですら美しいあなたに、無駄なことなんて存在しないのに。

「この時間も無駄でしょう。頷くしかないのに」

 やはり分かっていて言ったのだ。私は静かに頷いた。逃げられるなど、初めから考えていなかった。あの時間は、着きもしない心の準備の時間だ。

「泡沫夢幻だよ。皆んな一緒だ」

 あなたの美しさも永遠ではない。だけどそれでも。

「ずっと、友だちだよ」

 ズッ友とか、あなたに似合う言葉ではないというのに、確かに嬉しかったのだから人は分からないものである。

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海底撈月 堕なの。 @danano

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