episode1-34 決着
自らの影から放たれたその雷撃は、エルフの高い魔法耐性をぶち抜き上半身を丸ごと消し飛ばした。残った下半身が自立する力を失い地面に崩れ落ちる。
「はぁっ、はぁっ……、うぅ、おぇぇ」
「よくやった如月。休んでおけ」
ライトニングを撃った後すぐに闇渡りで戻ってきた如月が、玉座の裏で息を荒くしながら吐き気を催したようにえずく。目の前であんなグロテスクなものを生み出してしまったのだから無理もない。
流石のエルフと言えど上半身を丸々失っては再生も出来ないようで、地面に倒れた下半身から上半身が生えてきたりはしないし、一人でに動き出す様子もない。……勝った、と見て良いだろう。
ブラック2の闇渡りで一度背後をとり、それをあえてエルフに倒させることで闇渡りライトニングの警戒を解かせる。そのうえで、ブラックが如月を連れてもう一度背後をとって超至近距離からのライトニングを撃ちこむ。
予定にない突貫の作戦だったがうまくいってよかった。当初の予定ではシンプルにブラックと如月で背後をとるつもりだったが、一度見せた手が素直に通用するかは不安な部分があった。そしてその不安はやはり当たっていた。闇渡りで背後をとるのは完全に読まれていた。
ブラックだけ突出してレベルが上がっているのは少々落ち着かない気持ちもあったが、今回はそのお陰で助かった。
【こちらも終わったぞ】
「見てたよ。カミサマもよくやってくれた」
エレメントたちは途中から俺たちの方を狙いだし沖嶋が鎖でそれを叩き落していたわけだが、結局その魔法もカミサマがバリアに封じ込めて攻撃に転用するため、終盤は魔法を使いたくても使えないという状態に陥っていた。そして最終的にはカミサマに追い立てられ、如月のライトニングの射線に誘導されて全滅した。
「ゴーレムは、……放っておいても良いか」
残る敵はイエローとホワイトにダイブしたゴーレムだけだが、こちらから下手に近づかなければゴーレムに出来ることなどほとんどない。加賀美と沖嶋が協力すれば削り切れるかもしれないがそんな危険を冒す必要もないだろう。
「加賀美、沖嶋、よく頑張ったな」
「へへっ、大勝利~」
「ひとまず安心していいのかな」
こいつらも十分戦ってくれた。
一時だけの関係とはいえ、皆俺の配下として恥ずかしくない働きだった。
「桜ノ宮も、まあ、助かった」
「ふふ、気にしなくていいのよ。みんなを助けるためだもの」
白々しい。何を企んでるのか知らないが……、しかしこいつの知識と頭脳に助けられたのも事実。感謝しているのは嘘じゃない。
「早速で悪いけど、どこかにこのダンジョンのコアを置いてある場所に続く道があるはずだ。動ける奴は一緒に探してくれ」
スキルの部分解除により玉座を消滅させ、衣装を元の制服に戻して歩き出す。
戦果の確認をしたい気持ちはあるが、今はそんなことをしている場合じゃない。
「俺も見てみるよ」
「これくらいはしないとね」
「私はりりちゃんと加賀美くんを見てるね」
最大の障害を取り除くことには成功したが、俺たちの目的は指揮官を倒すことじゃない。それは目的を達成する過程で排除しなければならない敵だっただけのこと。俺たちがこの最深部にまで進んできたのは、ダンジョンのコアを手に入れるためだ。
「気を抜くなよ沖嶋、桜ノ宮。コアの守りに多少の兵を置いてるかもしれないからな」
必殺技の反動で変身が解除され身動きが取れない加賀美と、気分の悪そうな如月、そして二人を介抱する小堀を残し、探索を始めた沖嶋と桜ノ宮に注意しておく。
可能性は低いから念のためだけどな。指揮官を倒せるほどの冒険者を相手に、多少警備をつけたくらいでコアを守り切れるわけがないのは相手もわかってるはず。そんなことをするくらいなら決戦の戦力として組み込みだろう。
「一番怪しいのはやっぱり防壁の裏か」
「沖嶋くんの鎖で壁を叩いてみるのはどうかしら?」
「うん、とりあえずやってみるよ」
戦闘中、一部の壁が崩れて通路が現れ、そこから伏兵が出て来たように、コアへと続く道は土の壁で偽装されている可能性が高い。それは桜ノ宮も同じ考えだったらしい。桜ノ宮の提案を受けた沖嶋が鎖を鞭のように振るって壁へと叩きつける。
「ちょっとは削れるけど、どうだろ?」
「あの奇襲の時エルフは何か詠唱をしてたわよね? もしかすると、そう簡単に見つからないように魔法で通路の大部分を埋め立ててる可能性があるわ」
「たしかに、一理あるな」
そう考えればカミサマが偵察をミスったのも説明がつく。偵察の際、罠や伏兵の存在も確認させるため、カミサマには広間周辺に不自然な空間がないかも調べるように指示していた。そしてそれはないという報告だったから伏兵による挟撃という可能性は捨てていた。
だが、通路を完全に埋め立て、魔法によって開通することを前提としていたのならば、モンスターたちは広間周辺ではなく少し離れた場所に待機していたということになる。それならカミサマが見落としてもおかしくない。
「この壁、そんなに硬くはないな」
叩きつけられた鎖によって削り取られた土を指でこねてみると、岩石のような硬さは感じられず、むしろ粘土のように簡単に形を変えられた。
「鎖を貫通して進ませるくらいなら出来るんじゃないか?」
「試してみる」
沖嶋の鎖が、今度は叩きつけられるのではなく、刺すように垂直に突き入れられる。
「――! この先、行き止まりじゃなくて空間があるみたいだ」
「そう、やっぱりコアを守るように布陣していたのね」
「よし沖嶋、鎖で――」
このくらいなら多少時間はかかるかもしれないが沖嶋の鎖で掘り進められそうだと考え、指示を出そうとして言葉を止める。
もしかするとあのスキルは、こういう状況で役に立つかもしれない。
「少し下がってろ。特権的我儘『クラッカーフィールド』」
その瞬間、薄暗くじめっとしていた土剥き出しの坑道の地面や壁が、香ばしい匂いを漂わせる薄黄色のクラッカーに変化する。光源に乏しいため薄暗いのは相変わらずだが、地面や壁の色そのものが明るめのためさっきよりはマシに見える。
にしてもクラッカーか。あんま菓子姫ってイメージのお菓子じゃないな。
「氷室くん、もしかしてこれは新しいDスキルかしら?」
「あぁ。地形をお菓子に変えるスキルらしい。よくわからんが、こんな壁なら簡単に割れるだろ?」
「うわ、ほんとに面白いくらい簡単に割れるな」
促された沖嶋が試しにと軽く壁にパンチをお見舞いすると、バキバキと小気味いい音を立ててクラッカーの壁が割れて崩れ落ちていく。
「これだったら氷室くんのゼリービーンソルジャーズでも進めるんじゃない?」
「出来るだろうけど、なんでだ?」
ブルーはあまり向いてないだろうが、ブラックはレベルも高いし問題ないだろう。しかし沖嶋で駄目な理由もない。
「少し沖嶋くんたちに話しておきたいことがあったの。氷室くんが掘削してる間に済ませてくるから、ちょっと沖嶋くんを借りるわよ」
「へぇ、俺は聞かなくても良い話ってわけか」
「あら、意外ね。氷室くんが私たちと仲良くなりたいと思ってたなんて知らなかったわ」
「……好きにしろ」
要するに仲良しグループとしてのお話があるから首を突っ込むなってことだ。
こいつが本気でみんなを助けたいなんて気持ちで最深部についてきたわけじゃないことはわかってるが、流石に沖嶋たちに悪だくみの話なんてしないだろうし放っておいて良い。
今は一刻も早くコアを確保するのが最優先。何か不測の事態があっても対応できるよう、俺はここでゼリービーンソルジャーズの掘削工事を監督することにしよう。
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