第24話学校に置いてはいけないモノ

 伏木小学校では人の形をしたもの、或いは人物の描かれた絵や写真を置いておいてはいけない。と言うルールがある。

 例えば、人の形なら理科室にあるような人体模型、または美術のデッサン用のトルソー。そして、写真や絵は音楽室の音楽家の似顔絵だったり、校長室に置かれているような歴代校長の写真だとかだ。



 だから、卒業アルバムの類も置かれていないし、卒業アルバムに載せるような写真も学校内では撮らない事になっている。

 これは確実に、心霊写真になってしまうからだ。



 学校内に人の形をした物を置かないのは、その人形であったり写真が歪むからである。写真の歪みはまだしも、デッサン人形が物理的に歪むのはそれを見た者は皆一様に恐怖した。

 しかし、それを見たからと言って呪われたり、そういう風に身体が歪んだりしないのが唯一の救いだろうか。



「もし、置いといてゆがんだらどうするの?」



 慈雨の素朴な疑問に、桃瑠が少し考えて口を開いた。



「えぇー、っとねえ・・・確か、ゆがんだヤツ集めて一応お経挙げて壊してからゴミで出すんだ、って聞いた」

「・・・ゴミとして出して大丈夫なんだ・・・・・・」



 何とも、不思議で不気味な話だなあと慈雨は思いながら隣に置かれたを横目で見やる。



 そう、慈雨の横にはその、誰かが悪戯で置いて行ったせいで歪んでしまった人体模型が置かれていた。



 人体模型自体がどんな物かは、慈雨も前の小学校で見た事があるから知っている。

 そう言えば、その模型も真夜中にひとりでに学校中を走り回る、なんて噂があったなあなんて思い出しながら醜く歪んだ人体模型を見ていた。



 初めてその歪んだ模型を見た時、斬新で前衛的な芸術作品だなあ、と思ったのだが桃瑠から冒頭の話を聞かされ、とても驚いた。



「でも、どうしてゆがんじゃうんだろうね?」

「・・・さあ? それは知らないなあ」



 まあ、此処で暮らしていると慈雨が思うような当然の疑問だとかはそう言った現象はそんなものなのだろう、で済まされてしまうのだ。

 疑問に思った所で、解決できない事の方が多いからだろう。



 此処では、妖基準の理不尽がまかり通ってしまうのだ。



 だからこそ、祇鏖のように妖だが、人間の間に立ってくれる者の存在は大きい。



 退屈そうに座って留守番をしていたふたりが居る空き教室のドアが突如ノックされ、引き戸がガラリと開けられた。



「お待たせ、ふたり共。見張り役ありがとう」



 そう言ったのは艶鵺であった。

 何時もの警備員の制服では無く、ダークスーツに身を包んだ姿でふたりの前に現れた。



「大丈夫、何にも無かったよー」



 ねー、とふたりは頷きあう。



「そう、ありがとう。あ、皇慈君頼むよ」



 艶鵺がそう言うと、廊下に居たらしい皇慈が入って来た。此方は警備員の制服姿だ。



「ウィー、ッスじゃあ運びまーす」



 入って来た皇慈が人体模型を無造作に掴むと小脇に抱え、運び出すのを慈雨と桃瑠はその後ろから付いて歩いた。

 そして一番後ろを、空き教室の電気を消してドアの施錠をした艶鵺がゆったりと歩いて行く。



 彼らが居る廊下は電気が点いているが、それ以外は外も真っ暗だ。



「これ終わったらどうする?」

「酔いどれ横丁でラーメン食べたーい」

「おや、良いですね。じゃあ、終わったら奢らせて下さい」



 と、ふたりの会話に入れば慈雨も桃瑠も嬉しそうにはしゃいだ。



「コラコラ、あんまりはしゃいじゃ駄目ですよ」



 艶鵺が口許に人差し指をやり、シー、と静かにするように注意した。

 流石に霊能者である艶鵺や皇慈が居るからと言っても、危険なものは危険なのだから。



「・・・はぁーい・・・・・・」

「ごめんなさい・・・・・・」



 慌てて口を噤み、ふたりは大人ふたりに挟まれて校舎を出た。そして、校庭で遊んでいる者達をやり過ごし、教職員用の駐車場のある場所までやって来た。



 すると其処には祇鏖と校長、そして教頭が居た。

 そして、彼らの前には矢張り歪んでしまった模型や写真、絵が無造作に積まれていた。今回のような悪戯が度々あるので、ある程度集めてからお経を挙げて捨てるようにしているのだ。



 そしてそれらの儀式は静かに行われ、静かに終わった。



「・・・・・・では、皆さんお疲れさまでした。慈雨君、桃瑠君。気を付けて帰って下さいね」



 校長にそう言われ、慈雨と桃瑠ははーい、と返事をして艶鵺の車でなかよし商店街へと戻って行くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る