白昼夢

 

第1話

 私は試験の受付のバイトをしている。身分証明書を確認し、紙を渡し、試験室に案内するという簡単な仕事だ。午前中の仕事が終わり、昼食を食べ、私は午後からの受付を開始した。時刻は13時ちょうど。午後からの試験は14時からで、受験者が集まり始めるのは13時半からだ。暇だなぁと思いながら、誰もいない待機室を眺めていると、ドアが開く音がした。振り返ると、そこにはクマがいた。しかもそれはヒグマだった。ここは佐賀県だぞ。ヒグマなんているわけない。そう思い、私は自分の頬をつねった。普通に痛い。しかし私は一縷の望みをかけ、クマに話しかけた。もしかしたら、先輩が私にドッキリをしかけているのかもしれない。


「こんにちは。……身分証明書はお持ちですか?」


「グァー」


 やばい。これは本物のクマだ。てかクマが身分証明書なんて持ってるわけないじゃん。なんでこんなこと聞いたんだろ。私が混乱していると、クマが先ほどと同じような唸り声を上げてゆっくりと近づいてきた。確か目を合わせながら後ずさりすればいいんだっけ? 私は前にテレビで見たクマの対処法を必死に思い出しながら、実践した。しかし気がつくと、私は壁際に追い込まれていた。こ、殺される。でも死ぬのは嫌だ。私は勇気を振り絞り、クマの鼻を殴った。すると、クマは仰向けに倒れた。それから私はクマが死ぬまで顔を殴り続けた。その後、救急隊がやってきてクマは担架で運ばれ、私は警察に逮捕された。それにしても、バイト先にやってきたクマに襲われそうになったので反撃した私が逮捕されるなんて不思議な話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白昼夢   @hanashiro_himeka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ