第11話

「やるではないか!グラン!」


王様の声で周りの声も変わっていく。


「あの無能王子が2人相手に勝ったわよ?」

「そ、そんなことありえるの?!」

「し、信じられないわ!」


他の王子の母親たちがどんどんと口を開いていく。


それに伴ってクズリックやクレスカスの母親の肩身は狭くなっているようだった。


王様が俺に言ってきた。


「グラン。今まで無能と言われていたのによく頑張ってたんだな、偉いぞー。ふむ。やはり私としてはお前は王の座に相応しいと思っているのだが……」


とかなんとか言っている王様。


(王位なんてどうでもいいんだよなぁ、そうだな。いずれ言う必要はあることだろうし、今のうちに言っておくか)


俺はもう勘違いされないように言っておくことにした。


「俺は王位に興味はありません。よって、継承権は破棄しますし、継承に関するもろもろの問題からも辞退させてもらいます」


ぺこり。


頭を下げておいた。


王様が俺を見てくる。


「お、王位がいらんのか?!」


王様だけじゃなかった。

マリグナント兄さんやゴツレス兄さんも俺を見ていた。


「おいおい、いらないって正気か?」

「そうだ。グラン。考え直せ。王位だぞ」


2人もそう言ってきたが俺は首を横に振った。


「興味ありません。おふたりは本気で王の座を狙っているんでしょう?2人で頑張って競い合ってくださいよ。そこに俺を巻き込まないで欲しいんですよ」


俺はそう言うと王様に目を戻した。


「ってわけで、分かりました?俺にはもう極力関わらないでほしいんですよ。誰にも迷惑かけてないし」


そう言うと俺は「じゃ」と手を挙げて家の中に帰っていくことにした、のだがそのときだった。


「待て!グラン!」


俺の名を呼ぶ声。


振り返るとそこにいたのは四男のジロリーだった。


「王位継承権がいらない?!破棄する?!ふざけるなよ!お前!」

「お前?」


俺がそう聞き返すと。


「ふざけるなよ!グラン!」


と、訂正してきた。

意外と可愛いやつである、が。


「俺がもらったものを自分の意思で破棄してなんの問題がある?」

「問題大ありだ!」


ジロリーは続けてくる。


「元々継承権は王様が与えるものだ。こいつなら継承させていいと見込みがある者に与えられるもの。信頼の証である。それを放棄するということは、王様の信頼を捨てることと同義だ!不敬罪だ!」


(なるほど。言っていることは正しいような気もする、しかし、だ)


「だから、なに?」

「へっ?」


ポカーンとするジロリー。


「だから、なんだ?俺は王様からの信頼を捨てるような不届き者ということでいい。俺は王様にだって逆らうよ?でも、だからそれがどうかしたの?」

「あ、あの、その……あの、うん……」


言葉に詰まり始めた。


こいつの脳内では俺がここまで強気に出てくるとは思っていなかったのだろう。


「またなにか言いたいことがあるなら部屋まで来なよ。その時は話を聞いてやるよ」


俺がそう言って家に帰ろうとしていると王様が話しかけてきた。


「ま、待ちなさいグラン。ワシもお前には王様の候補になって欲しいのだが」


俺は王様の顔を見てにっこり笑った。


「死んでもなりませ〜ん。王位継承権は返品しま〜す」


王様はひたすら困惑したような顔をしていた。


そして叫んでた。


「えっ?!王様になりたくないってマジ?!」


部屋に帰る道中セバスチャンが話しかけてきた。


「くーっくっくっく!くーはっはっはっは!よくやってくれましたよぉ?!おぼっちゃま!サイッコーだ!あんたは!王様のあんな顔初めて見たぜぇぇぇぇ!!!」


またテンションが上がっているようだった。


「今日はテンションが上がってるね」

「これが上がらずにいられるかよぉ?!ぼっちゃま?!」


俺はこのテンションに困惑しながらも自分の部屋の扉を開けた。


セバスチャンは中まで着いてくる。


俺が机に座るとセバスチャンは話しかけてきた。


「いやぁ、今日はいい夢が見れそうですなぁ。前から偉そうでうぜぇって思ってたんだよなぁ王様のこと」

「王様なんだから偉そうなのはとうぜんだよ」

「くはっ☆そうだった☆」


そんな会話をしていたとき。


「くぅん」


俺の太ももにドッグが頭を乗せてきた。


頭を撫でてやるとセバスチャンは聞いてきた。


「ぼっちゃん。対面よろしいですか?」

「好きにしなよ」


そう言うと遠慮なく俺の対面に座ってきた。


「ぼっちゃま。こういうのどうです?」


セバスチャンはどこからかビンを出してきた。


(酒か)


この世界では12歳から飲める。


まぁ、俺は飲んだことないんだけど。


「いっぱいクイッといきませんか?クイッと」

「そうだね。たまにはいいかもな」


前世では忙しすぎてこういうのも飲めなかったな。


酒を飲んで、知り合いとバカ騒ぎして、酒とつまみ、それから犬の頭を撫でながらのんびりとする。


こういう祝日っていうのは地味に憧れていたのだ。


そして、


(こういう毎日がただ続いてくれればいいんだよなぁ)


俺はそう思う。


そして、


(この毎日を邪魔させるやつは許さん、というわけだ)



何時間くらいたっただろうか。


「ぐがーっ」


執事のくせにセバスチャンは、無限に飲むものだから先に机に突っ伏して寝ていた。


俺もウトウトとし始めていたとき、扉がノックされた。


「私ですフレイヤです」

(フレイヤ?)


そう思いながら俺は扉を開けた。


そこにはフレイヤが立っていた。


「急にですが帝国に帰らせてもらうことになりました」

「へぇ、帰るんだ。気をつけてね」


そう言って扉を閉めようとしたのだが。


「お待ちください!」


扉を掴んで無理やり開けてきた。


(すごい執念だな)


そう思いながら扉を開けた。


「なに?」

「私はまだ婚約を諦めておりません!グラン様と婚約するための策をねりねりしてきますから!」


そう言って彼女は自分から扉を閉めた。


「ふーん。作戦をねりねりか」


まぁ俺としては帝国のお姫様と婚約することなんて万に1つもないんだが。


(まぁ、無駄な努力頑張ってくれ)


俺はそう思いながら眠りにつくことにした。


今日はなぜだか、ぐっすりと眠れそうな気がした。


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無能王子と馬鹿にされてきた俺、実は無能を演じていただけなんだが、隣国のお姫様の前で真の力を見せてしまい求婚されてしまう。 にこん @nicon

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