第16話

(一方のフォルティス側。飯野が羽黒に撃たれたところまで時間を戻して)


「何や、えらいことになっとるな」

「呑気に言ってる場合か。向こうに幕引きされる前に先に手を打たなけりゃ、この【ゲーム】が終わっちまうぞ」

 一服しながら少し思案したあと、コーセイがS高『チーム』に向かって歩き出す。

「何ぞええ手が浮かんだんか?」

「まあどう転ぶかは五分五分だな。お前は口を挟むなよ、クリハラ」


 S高『チーム』の3人に近づくと、コーセイは「ちょっといいか?」と声を掛けた。

「ゆっくりやろうと思ったが状況が変わっちまった。あんたらのうち一人死んでもらわなきゃならん」

 そう言いながらコーセイはリボルバーを手にして構えた。3人に緊張が走る。

「おい、コーセイ! そいつは……」「黙ってろ、クリハラ」

 クリハラを言葉で制してコーセイは撃つ構えを崩さない。

「銃を持ってる? ってことはあなたが……【A】」

 怯えるユキをアイコが抱きしめる。

「緊急回避ってやつだ。目には目を、向こうが自爆覚悟でくるならこっちもそうせざるを得ない。済まないが協力しんでくれ」

「……どうしてそう思ったの? 『王族』だという理由を聞かせて欲しいわ」

「消去法だ。サッカー『チーム』の出るのはくじ引きでもいいという言葉から『王族』はいないだろうということ、クリハラたちの言動、そしてオレの数字から、あんたら3人のうち少なくとも誰か一人は『王族』だと推理した。どうせなら名乗り出てくれると助かるんだが、確率1/3の賭けは分が悪い」

「でもあなたに殺されたら、報酬が貰えないってことでしょ? そんな……そんなの……生還してもこのままだなんて・・・・・・・・! 嫌よ……『奴隷』のまま生きていくなんて絶対イヤ!」

 泣き叫ぶユキの姿にコーセイが眉をひそめる。アイコがそれを補足する。

「ユキや私は【夜翁】の奴隷なの。S高そのものが【夜翁】の奴隷牧場・・・・なのよ。そこから自由になるために、ユキはお金が欲しかったのよ」

「【夜翁】っちゅうのは歌舞伎町の裏を仕切る顔役の一人や。アンタッチャブルな人間の筆頭やな」

 クリハラが近づいてコーセイに言う。

「ならトールが【夜翁の孫】というのは?」

「【夜翁】もええ年のはずや。その後継者選びがはじまっとるっちゅうもっぱらの噂や」

「ええ、トールもその一人よ。S高ぼくじょうの管理を任せられているわ」

 トールは相応しい人間となるべく後継者ひとでなしの英才教育を受けてきた。その仕上げとして奴隷の管理を任されているのだと。


 ユキは事業に失敗した父のせいで、借金のカタに【夜翁】に売られたのだという。優秀だったため3年間の猶予期間モラトリアムをもらえた。ただし卒業後は高級娼婦として夜の街で働かされることになる。あるいはどこかの金持ちに愛玩動物ペットとして買われるかだ。

 それを覆すには身体以外の価値、頭脳やスポーツなどの一芸で身を立てられるようになるか、あるいこういう機会ギャンブルで大金を手にする以外にない。


「なるほど同情はする。……だが今は生き残るほうが先決だ。まあ他に代案があるっていうなら乗ってもいいが、そんなもの無いだろう?」

 そこでトールが口を開いた。

「僕にひとつ代案があります。その前に訊いていいですか? どうしてあなたが銃を持って・・・・・・・・・いるんです?」

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