第9話

『ではこれより【ギャンビット・ゲーム】をはじめます。今から30分後に双方が選んだ駒を【天秤】に乗せてください』

 天上から女神のアナウンスが聞こえる。全員に緊張が走る。

「……時間やそうや。誰が行くか決めなあかんな。最初は『チーム』から1人づつ、持ち回りで出てもらう、それでええな? ほんなら先ずは」

「最初はうちから出します。……リン、お願いしていいね?」

 クリハラの声を遮ってトールが提案する。指名されたリンがびくっと震えて固まる。

「なんでそうなるんや? それに何の意味がある?」

「まずは相手の戦略を量る必要があります。それにこっちがどう対応するのか……それなら最初は大きすぎず小さすぎない数でなくちゃならない。だからリンが適当と判断しました」

「……そうかよ。お前のその推理は合ってんのか? それでリンを納得させられるのか?」

 コーセイがトールに訊く。トールがリンの先輩でしかも生徒会長なら、彼女を守る事はあっても切り捨てるのは普通なら考えられない。それに行けと命令しても、リンが『パス』すれば無理強いはできない。

「リンのカードは【4】。……ほら黙ってて。頷いてもダメだ。教えたことになるからね」

 何か言いかけたリンをトールが制する。

「リンは自分のカードを①偶数で②素数だと言った。本当なら【2】しかない。もし①が嘘なら【3】【5】【7】【J】【K】、②が嘘なら【4】【6】【8】【10】【Q】。だけどリンは最初に数字と言ってしまった・・・・・・・。それが素直すぎたから咄嗟に後付けで・・・・素数とカムフラージュした……そういうことなんだと思います」

「【6】から上を外したのは……ああ、他の2人から推理したということか。確かにロジックはよくできている。しかしそれはあくまでロジックとしてだ」

「それにリンは僕のあ、恋人です。こんな殺伐とした場所にいつまでも置いておきたくない。間接的にせよ人を殺す僕をこれ以上見せたくないんですよ。だから……勝って必ず連れて帰ります! 分かってくれるよね?」

 それを聞いてリンは最後に、小さな声で「はい」と答えた。

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