第5話

 ユキにメガネの男子が続く。

「僕はトール。同じくS高校3年、生徒会長だよ。①僕のカードは数字じゃなくアルファベットだったね②そして偶数③だから僕にリーダーを任せてほしい。報酬は……まずは勝ってから決めよう」

 トールもS高校、しかも生徒会長だという。そしてナンバーは【Q】と想像できるが、嘘が入るとやはり絞れない。しかしリーダーに立候補することで勝てる自信があることを前面に押し出している。


「わたしは……リンです。S高校の2年生。Bクラスです。①わたしの数字は偶数②あとは……素数です。③わたしはトール先輩についていきます。みなさんも……協力してください。おねがいします!」

 リンは二人の後輩らしいが、反対に言動に自信を感じられない。あるいはそれも計算づくの演技ということもあるのだろうか?


「私の名前はアイコよ。S高校で現代文を教えているわ。①カードは真ん中より上②でも『王族』じゃない③リーダーはトール君に任せるけど、何人でも多く連れて帰りたいと思ってる」

 アイコのナンバーは言葉通りなら【8】【9】【10】のどれかだろう。女教師も含めS高校の4人はまとまって『チーム』として行動すると決めたようだ。多数決なら約30%だ。ここからどうやって他の人間を『チーム』に取り込んでいくのか、あるいはどうやって別の『チーム』の賛意を得られるかが肝心なところだろう。


 サッカーのコーチが練習生の前に立って言う。

「私たちは5人で『チーム』を作ります。今のところ一番数が多いってことがメリットですね。①私たちは全員で帰りたい。それを約束してくれるなら協力します。②数を教えるつもりはありません③だから誰が出るかはくじ引きで決めるでもいいですよ」

「そりゃあどういうこっちゃ?」

 コーチの口にした条件に格上のヤクザがコーチに訊ねる。

「私たちはこういう駆け引きには向いてないですから。だから無条件で協力するかわりに全員助けると約束してほしいんです。報酬にはそういうのも当然あると思いますから」

「ああ、マンガにもあったな、そういうの。しかし約束が嘘だったらどうすんだよ?」

 からかうチンピラにコーチが言う。

「今は嘘でもいい。とにかく一度口に出した宣誓がほしいってことですよ」

「スポーツマンやのう~、選挙の公約と同じってことや。言質は取っとこうっちゅうことか」 

 同じく選挙に例えれば、サッカー『チーム』は組織票と同じだ。結束は固く考えを変えさせるのは難しい。しかしそれもコーチがいるからこその一枚岩で、いなくなれば容易に他の『チーム』に取り込まれてしまうことも想像に難くない。

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