(三)火事の夢

 二つ目の夢は「火事の夢」である。これは幼少のころから高校くらいまでずっと見続けていた。「階段をのぼる夢」と同様にシリーズ化していて、いくつかのバリエーションがあった。

 一番最初の記憶は街全体が燃えていて、何人もの人が逃げ回っている、という凄まじいものだったが、何度も見るうちに共通点があることに気づく。

 それは「家族や親戚が人物として登場する」ということと、「私が原因で火事が起きてしまう」ということだった。

 一度、登場した家族が必死で火消し作業に追われていて、「あんたのせいで……」とはっきり責めるようなセリフを吐かれ、夢の中の私も罪悪感に苛まれ泣きじゃくっていた。


 ただ、ある日を境にまったく見なくなる。最後の夢がこれである。


 両親に「竹がじゃまだから燃やしてくるように」と頼まれ、私は竹を四、五本、田んぼに運んで燃やしはじめる。すると、稲刈り後の切り株に燃え移り、やがて田んぼ全体が火の海となる。私は慌てて家に駆け込んで、「私のせいで火事になっちゃった!」と泣きながら告げるのだが、両親は一瞥もくれず、こたつに入ったまま平然としている。そこで、父から一言、「そんなん気にせんでいい」とぽつりと言われる。え? 燃えてるのに? と夢の中の私も驚く。



 小学生のころ、家にいるようにと両親と約束していたのに遠くまで遊びに出ていたことがあり、そのことで大きな罪悪感を抱くことになった。それだけみればたいしたことではないだろうが、その日の夕方、家で大問題が発生した。いろいろ複雑な事情と家族以外の他人も絡むのでくわしくは伏せさせてもらうが、両親共働きできょうだいも家にいなかった状態で起きたと言っておく。近所に住む遠い親戚のおばさんが慌てた顔で知らせてくれたのを憶えている。念のため、これだけは付け加えておきたい──家から出火した、ということではない。火事とは関係ない。

 翌日、事情を知った同級生から「いっちゃんが家におらんかったのが悪いんやない? 親に怒られたやろ?」と言われたことが、私の心に突き刺さったらしい。


 大人になってから、「なぜあんなに火事の夢ばかり見ていたのだろう」とふと思い、暇つぶしに夢診断サイトを覗いたことがある。そこで、「夢の中の炎というものは自分の負の感情を焼き尽くそうとしている」という文章が目に入った。

 

 その一文と、最後の夢で降ったセリフ「気にせんでいい」で、はたと気づいたのだ。あれはおまえのせいで起きたことじゃないから、気にしなくていいんだ──というメッセージだったのかな、と。

 不思議なことに、夢診断サイトの方はその後すぐに閉鎖となっていて、「このサイトには問題があります」の表示を掲げたまま閲覧できない状態になっていた。

 

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