【おかしい】って漢字でどう書くの?

@grisette

第0話

 【おかしい】ということばに漢字を当てると、なんと書くだろうか。

 辞書を引くと、たいていは「可笑おかしい」という字だけが載っている。

 「可笑おかしい」という字は、【おかしい】ということばの「楽しくて笑ってしまうようなさま」という意味には当てはまるが、「普通ではなく疑わしく思うさま。不審である。怪しい」という意味にはふさわしくない。

 国語辞典にも「可笑おかしい」は「楽しくて笑ってしまうようなさま」の【おかしい】に当てるとある。

 では、「普通ではなく疑わしく思うさま。不審である。怪しい」の意味の【おかしい】はどう書くだろう?


 実は、類語辞典の中には「奇怪おかしい」が収録されているものもあるのだが、広く使われているかといえば、そうではないだろう。

 一般的に使われる当て字が特にないからこそ、これまで文学者たちはそれにさまざまな漢字を当ててきた。

 主な例と作家をあげてみる。出典は省略。

 

可訝おかしい、可訝おかし

 泉鏡花いずみきょうか


可怪おかしい、可怪おかし

 野村胡堂のむらこどう岡本綺堂おかもときどう夢野久作ゆめのきゅうさく海野十三うんのじゅうざ小栗虫太郎おぐりむしたろう宮本百合子みやもとゆりこ徳田秋声とくだしゅうせい小川未明おがわみめいなど


怪訝おかしい

 夢野久作ゆめのきゅうさく蘭郁二郎らんいくじろう


奇怪おかし

 夢野久作ゆめのきゅうさく国木田独歩くにきだどっぽ

 

不審おかしな

 吉川英治よしかわえいじ


 当て字なわけだから、本来はひらがなで書くべきなのだろうが、こうして並べると工夫があって面白い。


 なぜこんなことを書こうと思ったかというと、ネット上で「普通ではなく疑わしく思うさま。不審である。怪しい」の意味の【おかしい】が「可笑おかしい」と書かれるのをよく見かけるから。

 まあ、辞書には「可笑おかしい」という当て字しか載っていないのだから仕方がないのだけれど、やっぱり「可笑おかしい」じゃ、ちょっとおかしいよなあと思うわけで。

 

 前記の例で見れば「可怪おかしい」という表記が人気で、明治、大正、昭和初期の多くの文学者が使用している。近年では小野不由美おのふゆみなどの作品に見える。

 個人的には、京極夏彦きょうごくなつひこ平岩弓枝ひらいわゆみえの作品にも見える「怪訝おかしい」が字義じぎとしても字面じづらとしても好きなのだが、用例の多さから「可怪おかしい」でいいんじゃないか、と思っている。「可笑おかしい」とも釣り合うし、漢字も「怪訝(読みは『けげん』または『かいが』)」よりは覚えやすい。


 とかなんとか言いつつも、わたしはひらがなで書くんですけどね。

 小説で当て字はなるべく使わないし、漢字はひらく(漢字で書けることばをひらがなで書くこと)ほうが読みやすいですし。

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