第22話 大好きだよ

「好きだわ」


 今日も紗月がいない学校。近くにはいつもどおりに湊と晴翔。


 その二人がいるってことを頭ではわかっていながらも、口から勝手に紗月に対する思いが。


「ほぉ、ようやくか」

「長かったな……。これで俺達後見人の役目も終わりだぞ……!」

「おいお前らがいつ後見人になった?」


 そう言うとふたりともこちらの方を向いて、なに言っているんだみたいな顔で。


「最初から」

「お前らが話し始めた当初から」


 そんなわけ、と思う傍ら、そういえばこいつらだいぶ前から俺と紗月がくっつくことを望んでいたなぁって思い出す。


「そんなに、オーラ出てたのか?」

「……話し方が」

「カップルのそれで」


 二人でセリフを分担していってくる。


「だから、俺にさっさと素直になれと?」

「そゆことだ! まぁ、晴翔の予想より早く自覚したからいいんじゃね?」

「いやガチ悔しい。湊にジュース奢らなきゃいけなくなったんだぞ?」

「ジュース……?」


 会話の中で引っかかった部分を指摘してみると、二人して慌てだして。


「……あの、実は」


 ちょっと申し訳無さそうな顔して俺に向かって弁明してくる。


「琉斗が自分の気持ちに気づくのがいつかっていう賭けしてて」

「それで、俺が勝ったから晴翔にジュース奢ってもらうってわけ! ありがとな、琉斗」


 屈託のない笑顔で言われてしまったらまぁ怒る気にもならないか。


 それで二人が楽しんでたなら別にいいや。それはそれとして――――


「お前ら、今日ジュース奢りな」

「「……はっ?」」


 からかってたことに対する制裁は少しくらい加えておいたほうがいいんじゃないのかなって思います。







 ________








「って感じだぞ。みんな紗月が学校に来るの待ってるんだ」


 紗月とともに家に帰る日々、三日目。


 今日は学校の話をしていた。紗月から聞かれたんだ。私のいない学校はどんな感じ? って。


「へぇ、みんな優しいんだね」


 もちろん手は繋がっている。……心臓がバクバクしてしまっているのだが。


 いや正直さ、全く意識してなかった頃なら全然緊張しなかったわけなのよ。


 けど、俺はこの眼の前にいる人のことが好きなんだなって思って瞬間、どうしていいのかわからなくなって。


 もちろん手は繋いでおくよ? 俺の方から頼みたいくらいだし。だけど、手汗とかヤバそうだなって思ったり。


「うーん、紗月が人気者なんじゃないのか?」

「えぇ? 琉斗のほうが人気者じゃない? いつも学校で色んな人と話してるし」

「……女子とはほとんど話してないんだけどな」


 少し苦笑いしながら返答する。


 別に、女子と話したいっていうわけじゃないんだ。好きなのは紗月だし。


 それこそ別の女子と話してあらぬ疑いをかけられてしまったら目も当てられないし。


「……みんな、やっぱり優しいね」

「ん?」


 小声でぼそっとつぶやいた声は、はっきりと俺の耳には届かない。


「あーいや、じゃあ琉斗が話せる女子ってもしかして私だけ?」

「まぁ、そうなるな」


 今話してて思った。別に話したいわけじゃないけど少し悲しい人間だな、俺って。


 けど、紗月はそんな俺の状況を喜ぶかのようにニヤニヤしてこっちを向いて。


「へぇ……。じゃあ私が相手してあげよう」


 そういって、俺の手を握る力を――――強めてくると予測してたら。


「ああ、あの? 紗月さん?」

「えぇ、これくらい別によくない?」


 俺の腕に抱きついてくるみたいな感じになっている。


 なんか色々お当たりになられてるし。正直なにが起こってるのかよくわかってません!


「……確かにまぁ? 別に? これくらいなら?」

「……あー! 意識してる!?」

「し、してねぇよ!」


 ここは意地でも認めたくない。意識してるっていうのはなんか……恥ずかしい。


「へぇ、じゃあこのまま進もっか」


 今さらやっぱり意識してますなんていうのも難しい。それに――嬉しいし。うん。


「琉斗――――ありがとうね。大好きだよ」


 不意打ちがくる。全く想定していなくて。けどとても嬉しい不意打ち。


 俺もすぐに、言葉を返してやらないと。


「俺も、大好きだよ」


 あえて、友人としてか、異性としてかは明言しない。してやらない。


 けど、確実に思いは伝わっている。伝えられている。あとは少し言葉を付け足すだけ。


「―――――さすが、私の一番大切な人」

「だろ? どれだけ紗月のことを考えてるかわかってないのか?」

「――そういうところも、大好きだよ」


 こんな、ちょっと重いかもしれないセリフですら受け止めてくれる。返してくれる。


 俺が一番嬉しい言葉をくれる。本当なら俺が、紗月の疲れを癒やしてあげないといけないのに。


 これなら逆に癒やされてるみたいだ。


 けど、これもいいかなって思ってしまう。


 だって――――月夜に光り輝く紗月は、この世のなによりも美しいって思えるから。







 _______








 今日は長めでお届けします! 昨日一昨日が短かったのでね!


 あと、このお話に紗月の重めの一面が出てましたね……! 多分皆さん気づかれてないやつ。


 琉斗のクラス内の立ち位置わかるやつ。





 

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