あなたに届けるあたしの鼓動

よし ひろし

あなたに届けるあたしの鼓動

 ふふふ、やっと届いわ…


 いつも見ているサイトで見かけたバナー、ついつい気になりクリックしたの。それがこれ――


 じゃじゃーん、藁人形セット~!?


 大中小と大きさがあったけど、今回は一番小さい奴。何故って? 肌身離さず持ち歩くためよ。手のひらサイズで持ち歩くのに便利だわ。


 五寸釘にハンマーまでついてきたけど、これはいらないわね、今のところ。だって呪い殺すために使うのではないもの。あなたのハートを射止めるために使うんだから。鉄の釘なんて用なしよ。あたしの愛情という釘であなたの心を釘づけにしてあげる。


 さてと、紙ぺら一枚の説明書を――なるほど、やっぱり髪の毛を入れればいいのね。

 ふふふふ、そこは抜かりがないわ。ちゃんと手に入れたから。


 じゃじゃーん、あの人の毛髪(毛根付き)!?


 昨日、学校の廊下でわざとぶつかり――もちろん偶然の事故を装ってだけど――もつれて、倒れて、その時何気ない風に抜いたあの人の髪の毛――尊い!


 ふふん、これを埋め込むのね、当然頭のところよね……

 これでよし。


 ――でも、まだ物足りないわね。

 この間の陰陽道のおまじないでは、失敗したからね……

 あれ、難しかったのよ。火・水・木・金・土の五がなんたら、相生がどうとか、相剋がなんやら、で、どうにか作った呪符を使ったんだけど――


 危なかったわ。


 だってあたしに返ってきちゃたんだもの。

 愛という呪いであの人を呪縛するはずだったのに、何を間違えたのかしら、危うく大怪我させてしまうところだったのよ。慌てて呪符を破ったら、あたしにそれが返ってきて――


 太腿をざっくりとやってしまったわ。


 それは、血がどくどく出たけど――でもいいの、あの人を守った名誉の負傷だから。

 今もまだ傷跡が残っているけど、これもあの人との大切なメモリー…


 でも、今回は失敗しないわ。

 だから、髪の毛一本じゃ、不安だわ……


 そうね、あたしのコレクションを使いましょう。

 、権謀、謀略、策略――あらゆる手を使って集めたあたしのコレクション。


 まずは、つい最近手に入れたあなたの爪――


 これを両手両足にひとかけらずつ入れて……

 ふふふ…、いい感じ。


 次にこれ…、去年の夏に入手した日焼けしてはがれたあなたの生皮――


 これは、そうね、お腹の辺りに入れておこうかしら……

 ららら…、よし。


 そして最後に、あなたの血をたっぷり吸った真っ赤なティッシュ――


 これは効くわね。血ですもの。小さくちぎって、丸めて、心臓みたいに胸に埋め込んで――

 るるる……、できたわ! 完璧!


 これは、絶対効果があるはず。髪の毛一本なんてケチな物じゃないもの。


 う~ん、でも、見た目がよくないわね。


 そうだ、顔写真を張って、学生服も着せちゃいましょう。

 服はあの人の汗が染み込んだタオルの一枚を使って、いい感じに作りましょうか。


 ちょっと、時間がかかるわね。


 ふんふんふん……


 らんららん……


 るららら……


 ………


 ……


 …


 ――出来た! 今度こそ、完成!


 素晴らしい出来だわ!

 これぞあなたの分身。これなら絶対に効き目があるわ。


 あ、いけない、もうこんな時間。

 明日も朝早いんだったわ。朝練をするあなたと一緒に登校して、爽やかな汗を流す姿をじっくりと見守らないといけないから――


 最後に首からかけるストラップをつけて――よし、これでいつもあなたを身に着けていられるわ。


 さっそく今晩一緒に寝ましょう。


 あたしの胸に抱いて聞かせてあげる。

 恋するあたしの高鳴る鼓動。


 きっと届くわ、あなたのもとに――

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