第8話 とらわれの女たち
「うぅ……」
目が覚めるとプリシラは自分が馬車に乗せられているのだとすぐに気が付いた。
車輪が地面を
プリシラはハッとして身を起こす。
顔には麻袋はかけられておらず、
(
そう思ってプリシラは周囲を見回す。
それは先ほど天幕の中で見かけた、腰に
片腕が無かったり、両足の
そしてどうやら見張りの男は乗っていないようだった。
(エミルがいない……)
同じ馬車内に弟の姿はなかった。
引き離されてしまったのかと
「弟さんなら後続の馬車に乗せられていますよ」
彼女の言葉にプリシラは身じろぎする。
だが両手両足を鉄
そのため馬車の後方に移動することは叶わない。
(無理やり引きちぎれるかどうか……)
だが、さすがに鉄
しかも、ご
プリシラは仕方なく女を信じ、彼女に
「弟はケガでもしていなかった?」
プリシラの問いに彼女より5歳ほどは年上に見える女はおずおずと
「はい。団長が
その言葉にプリシラは
「あの男……やっぱり人身売買だったのね。
そう言うとプリシラは女に顔を向ける。
女は左腕を肩から失っていたが、それ以外は少し
「あなたたち……自分たちの行く末は分かっているの? あの背丈の小さな老人があなたたちは幸せだなんて言ってたけど、本当は違うんじゃないの?」
プリシラの問いに女は
その他の女たちも同様に暗い顔をしている。
それが答えだった。
「そう……あなたたち、ここから逃げて行くアテはあるの?」
その言葉に皆は一様に重苦しい表情で首を横に振る。
その顔には一片の希望もない。
彼女たちはどんなに辛くとも、降りかかる運命に身を
おそらくは先ほどのあの天幕に集まっていたような貴族や豪商に買われ、
そのことが分からないほどプリシラは子供ではない。
この世に残酷で冷たい一面があることは、母から教わり知っている。
だがプリシラはそれを仕方のないことと切り捨てることは出来ない性分だった。
「とにかく逃げることをあきらめないで。あんな最低な奴らにいいようにされていいはずがないわ。あの男にはきちんと報いを受けさせないと」
プリシラはそう気勢を上げる。
だが女たちはそんな彼女をただ沈んだ顔で見つめながら言った。
「あなたは……すごく強いですよね。でも私たちは弱いから……逆らわないことで自分を守って来たのです」
「逆らった子たちは……団長たちによってたかって……口ではとても言えないようなひどいことをされて……もうこの世にはいません」
声を震わせながら口々にそう言う女たちにプリシラは思わず言葉を詰まらせた。
彼女たちが自分に向ける暗い目が、強気な自分を非難しているように思えたからだ。
すっかり絶望に飲み込まれて希望から目を背けた者の視線は、それを見る者すら絶望の
「逆らわなかったから、私たちがお金になる商品だから、団長たちは私たちに手出しをしなかったんです」
そう言った女の目はハッキリと告げていた。
あなたは私と違う、と。
その目はプリシラに幼い頃の悲しい記憶を思い出させるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます