第7話 黒い女
エミルは真っ暗な海の底へと潜っていく。
水の中だというのに呼吸も出来るし、体も
それが幼い頃から
そしていつものようにその海の底に……彼女はいた。
【いらっしゃい……また……会えたわね】
長い黒髮のその女はエミルに手招きをして笑う。
それはどこか
彼はその女を幼い頃から知っている。
エミルが物心ついた頃からずっと彼女は夢の中に現れるのだ。
エミルは彼女が怖かった。
その
だが、この日はいつもと少しばかり違った。
【お母様やお父様と離れ離れは……
そう言った女の顔からは
親の帰りを待つ
いつもは女から話しかけられても
それは本当に自然に出た言葉だった。
「……あなたは
【ええ……
そう言った黒髪の女がどこか
そんなエミルに女は言った。
【心配してくれるの? 優しい子……あなたはお父様に……そっくりね】
「……父様を知っているの?」
【ええ……皆がワタクシを
女は
それがエミルを困惑させる。
「父様のこと……好きなの? 嫌いなの?」
その問いに黒髮の女は笑みをより深くする。
そのせいで彼女の
【好きよ……ワタクシの心に触れてくれたから。でも嫌い……ワタクシの愛しい人を……奪ったから】
その答えに困惑するエミルは今まで何度も疑問に思ったことを口にした。
「あなたは……誰なの?」
思わずそう
【ふふふ……ワタクシはあなた。誰にも……内緒よ。じゃないと……あなたもお母様やお父様に嫌われてしまうから。ワタクシみたいに……】
そう言う女の顔が泡となって消えていくと、エミルは海流によって静かに海面へと引き戻されていくのだった。
☆☆☆☆☆☆
ふとエミルが目を覚ますとそこは馬車の上だった。
ガラガラと車輪が地面を打つ音と振動を感じながらエミルは身を起こす。
「目が覚めたか。小僧。情けないガキだぜ。姉貴が体を張って守ろうとしているのに、当の本人は気絶しちまうんだからなぁ」
そう言う声が頭の上から降ってきて、エミルは顔を上げた。
同じ馬車に用心棒の1人が乗っていてエミルを見下ろしていた。
(そうだ……天幕の中で……)
姉のプリシラが
自分も気を失っていたのだと理解した彼の
「ね、姉様は! 姉様はどこなの!」
必死にそう叫ぶエミルをあざ笑う用心棒はすぐ
「生きているぜ。他の馬車に乗せられている。傷つけたりしねえから安心しな。おまえも姉貴も大事な商品だからなぁ。だが、おまえがおとなしく従わねえなら、姉貴のほうが少しばかり痛い目を見ることになる。そのことを忘れるんじゃねえぞ」
そう言うと用心棒の男はエミルを
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