第32話 総合的にアウトォ!!
昨日は酷い目に遭った。いや、特に被害があったわけではないが。貴族は余裕で怪人を倒したし、魔法少女サクラの予測精神ダメージも回避できた。
酷い目というのは運動を怠けていた私の自業自得だ。高校生の時はこれくらいじゃバテなかったはずなんだがなぁ。……筋トレやストレッチくらいは少しずつやっていこうかな。
昨日の怪人への対応は、救援に来た魔法少女に私が事情を説明した。その後、公園で待たされてる間に、魔法少女サクラと貴族が救援に来た魔法少女と話し込んでいた。魔法少女サクラの雰囲気的に貴族は魔法少女として動くようだ。
暫くして、二人が戻ってきた。
「咲子ちゃん、一先ず帰りましょ。」
「どーせ、そうなると思ってたわ。明日は?営業するの?」
「開店は少し遅らせるわ。行くところが出来たから。」
行くところ………魔法少女のアジトか?
「そ。なら開店準備をしておくわ。」
「あ、いえ……咲子さんにも来て欲しいんです。」
………まだまだ、酷い目に遭うようだな。
あまり安眠は出来ず、目を擦りながら魔法少女サクラについていく。貴族は魔法少女として動くからいいとして、私は何のために行くのだろうか?考えられるのは口止めとかそんなところか?
歩いていくと、カフェから徒歩二十分とそこまで遠くない、小さな大衆食堂だった。すると、魔法少女サクラは迷わずに中に入り、厨房の奥へと無断で入っていく。
私と貴族は困惑しながらも前を堂々と歩く魔法少女サクラについていく。かなり奥の貯蔵庫のような場所につくと、こちらに振り向く。
「すみません。ここから先は目隠しをお願いします。」
まぁ、当然か。魔法少女ということになっている貴族にもするのかと思ったが、素性が分かるまでは信用しないということだろう。
…………あれ?……待てよ?
咲子ちゃんは架空の存在だから、後にも先にも私はアウトなのでは?
「それでは手をお引きします。足元に注意して進みましょう。」
まずいまずいまずい!どうする!?嫌だぞ!?敵幹部が女装してノコノコ敵地に入ってきたとか朝のトップニュースで報道されたくないんだが!?
…………あぁ。
目隠しをされてから私の心は無となった。焦ってもどうしようもない。ただ事が終わるのを待とう。
………最悪、力を解放して大立ち回りしてやるか。
おっと、いかんいかん。邪念が出ていた。息をおもいっきり吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
あぁ…これが悟り、無我の境地か………
「お二人とも目隠しをとってもらって構いません。」
悟り?無我の境地?なにそれ美味しいの?私は煩悩と凡俗にまみれたただの一般人さ。
さぁ、腹は括った。いつでも暴れて見せよう。
私が心の中で獰猛な笑みを浮かべながら目隠しを取ると、ソファに偉そうに座る女性がいた。
んー?どこかで見たことあるような…無いような?
まぁいいか。
「御苦労様。あ、サクラちゃん。二人とはゆっくり話したいから君は帰っても良いよ。」
その女性はヘラヘラと笑いながら話す。
「「「え!?」」」
私と貴族と魔法少女サクラの声が重なる。
「で、でも……」
「大丈夫、君の知り合いなんだ。悪いようにはしないさ。後ろめたい何かが無い限りはね。」
それが実はあるんだよなぁ………
「わ…かりました。」
魔法少女サクラは心配そうに私と貴族を見る。
「なら、桜ちゃん。お店の鍵渡しておくから準備してもらってていい?」
「はい、任せてください!」
「では、対話をしようか。」
先程まで笑顔を絶やさなかった女性は、魔法少女サクラがいなくなると、足を組んで顔に似合わないニヒルな笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「私は加藤紅です。平日は、OLを、土日はカフェ・雅たれのマスターをしています。」
続いて女性が私を見る。その目はさながら蛇のようだ。何が言いたいって?私が恐怖してるってことさ。
「私は…小田咲子です。平日はデスクワークを主に。カフェのアルバイトをたまにしています。」
私と貴族の自己紹介を聞き終えると、人当たりのよさそうな笑みを浮かべ、自己紹介を始めた。
「私はノイ。魔法少女の管理やサポート統括を任されている。今回の話としては魔法少女ベニとサポーターのサキコということになっているが、よろしいかな?」
…サポーターか。それは考え付かなかったな。もしかして、今いるサポーターも魔法少女の秘密を知ってしまったからとかなのだろうか。
「はい、問題ありません。」
「よろしい。なら、聞きたいことがある。」
…ここだな。
「人々を助けたいと思うか?」
「もちろん。明日は我が身といいますしね。」
「私に関しては助ける、よりも犯罪者を捕えるの認識ですが、大きく違いは無いですね。」
昨日のような奴らは特に駄目だ。ある意味人の具現化とも言えるが。
「誰かを守るために命を棄てる覚悟はあるか?」
「あります。」
「戦えない分全力で。」
ふぅ、このままなら大丈夫だろう。
「ニューワールドについてどう思う?」
「「っ!」」
ここで無言はまずい!順番を抜かすが問題はない……か?
「許せない奴らです。最近では動きがなく、逆に怪人が目立っていますが、奴らの行いは断罪されるべきものです。」
「私も、同じ意見です。」
「ほお。」
いったい何に感心したんだか。それより違和感は抱いてなさそうで何よりだ。
「人格、人柄特に問題はないだろう。戦闘も証拠やサクラからも報告がある。申し分ない実力だ。
……それに、二十二歳にしてその実力とは全盛期に魔法少女になっていればどれだけ良かったか。くやまずにはいられないよ。」
まぁ、将軍の力を与えられてるからなんだけどね。
「今回の件はこれで終わりなんだが、二人とももう少し私に付き合ってくれないか?」
「?…構いませんが。」
何が始まるんだ?
「ここから先の会話は、私という個人の話だ。今から話すことは明日にでもすぐに忘れてしまうだろう。」
すると机の下に手を伸ばし黒い物体のスイッチを切る。見た感じ録音機か……。だが、それを切って何をする気だ?
「君たち、何か隠してるね?」
「「っ!?」」
まさか、勘づかれたか?そりゃ、魔法少女サクラから私たちの情報は届いてるんだ。調べるのは当然だろう。だが、なぜそれを録音機で録音しない?
疑問は尽きないが、貴族と目を合わせてお互いに頷く。
「いったい何の事でしょうか?私達に隠し事など…」
「じゃあ…これは何かな?」
そう言って、ノイは近くのモニターのスイッチを入れる。そこには昨夜の貴族が映し出されていた。
「私には魔法少女に見え……おやおや、気が早いねぇ。もうちょっと焦らさないと受け側は快感を得られないよ。」
やれやれと言った様子で、動揺もせずに話す。
なんだこの胆力は。首に腕を回され、貴族には足を抑えられているのに。これは一筋縄ではいかないか。
「何がしたい。」
「ククク、最後に名前ぐらい教えてほしいものだ。自分を殺す相手なのだから。」
「……ニューワールド日本支部、軍師タロウ。」
「ニューワールド日本支部、貴族ベニ。」
私と貴族が名乗ると満足そうにうんうんと何度も頷きながら笑顔を浮かべた。
「大分楽しませてもらったよ。ありがとう。」
ノイがそう言った瞬間、私と貴族が掴んでいた物体が突然消えた。
「っ!?」
「何!?…どこに……」
「ここだよ、ここ。」
「っ!?上!」
私の言葉につられるように貴族も天井を見上げた。そこにはケラケラ笑いながら浮遊するノイがいた。
こいつも魔法少女?………いや、もっと別の………
「あぁ、嬉しいよ。そんなに反応してくれて。久し振りだね小田太郎くん。」
「なっ!?」
「…知り合いかしら?」
「いや……いや?」
「どっちよ!」
どっちと言われても……既視感はあるのだが、どうしても姿が当てはまらない。こんな違和感初めてだ。
「んー?なら、こっちなら分かるかな?」
そう言うと、ノイは身体を光らせる。魔法少女の変身にどことなく似ているが、全くの別物だ。なぜなら光の中で、人が到底出来ないであろう動きをしているからだ。ゴキッメキッと音がなり、全身がスライムのような動きをしているのも見えた。
「これで…どうだい?」
そこには黒と白をベースに怪しげに光る、猫と狸を合わせたような動物がいた。
「……?軍師、分かったの?」
マッ………ジか。
「あぁ、そうだ。久し振りだな?ニューさんよぉ。」
「にゅー?……それって!」
「アハハ、そっちの子も分かったかい?そう、私はニューワールドのトップ達に力を与えた存在…さ。」
こいつ、魔法少女にも関わってたのか。ここは情報を得るのが先決だ。衝動で動くな………俺!
「一つ質問を。」
「何かな?」
「魔法少女を生み出した理由は?」
前提とか探りとかは正直どうでも良い。こいつには真正面の方が有効だ。
「だって、ニューワールドが強すぎたからね。僕はワンサイドゲームに興味はないのさ。」
やっぱりか。海外では初期の頃のダメージが酷く、未だに復興活動を続けている国がいくつもあるらしい。
「では………怪人は、なぜ?」
怪人を生み出したかどうかは知らないが、どうせ関わってるのだろう。
「ありゃ、そっちも勘づいたのかい?抜け目がないねぇ。そうだよ。」
ニューは飄々と、バレてることすら予想の範囲内という態度で淡々と話す。言葉に抑揚はあるが、感情に抑揚がない。気持ち悪い喋り方だ。
「理由は?」
「だって日本支部のニューワールドのやる気がないからね。せっかく魔法少女を作ったのに、つまらない犯罪や災害に使われるなんて最悪の気分だよ。」
やっぱりこいつは悪だな。この世全てを娯楽と思ってる。……ハァーこれ以上はイライラが頂点にいきそうだ。ここらで区切るべきだな。
「では、我々はこれで。」
「おいおい、折角の再開だ。握手の一つはしようじゃないか。」
「遠慮しておきます。貴族行くぞ。」
「え?えぇ…分かったわ。」
明日には忘れると言っていたからこのままで良いだろう。あれは自分の言ったことに責任を持つタイプの生命体だ。
私は貴族を、つれて部屋の外に出ようとする。一刻も早くここから出ていきたい。あの生命体と同じ空間にいるだけでムカムカする。
「まだ怒ってるのかい?相馬敬一に力を与えたこと。」
私はその質問に答えず、二秒程ニューを睨みながら重い扉を閉めた。
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